避難所は女性や子どもに厳しい?ママと子どもが生き残るための防災術【第4回 避難編】
災害で自宅での滞在が危険になったとき、ママは子どもを連れて避難をしなければいけなくなることもあります。自分の身はもちろんのこと、何よりも大事な子どもを守りながらの避難、そして避難先に滞在しなければならなくなることもあるでしょう。災害からの避難途中や避難先での注意を、避難所のコーディネーターのご経験もある防災家の野村功次郎さんに教えていただきました。
ベビーカーは使ってもいい?避難所にはどんな服装で?
――避難をすると決めた後の対応について教えてください。避難先までベビーカーで移動しても大丈夫ですか?
野村:避難時にベビーカーは使わないほうがいいでしょう。大きなタイヤが邪魔になりますし、取り回しもよくありません。赤ちゃんを抱っこしてベビーカーには荷物を乗せようと考えるママもいるかもしれませんが、荷物をのせるならベビーカーより旅行用のキャリーケースを使うほうがいいでしょう。
――どのような服装で避難所に向かえばいいのでしょうか?
野村:避難所に行くときは比較的目立つ色を身につけておいたほうがいいでしょう。全体的にではなく帽子とかマーカーとか、体のどこかに身につけておくだけでも違います。夜間であればリフレクターのような反射板がついているものがあればいいと思います。またライトは手に持つタイプではなく、ヘッドライトだと両手が空くのでお勧めです。手をケガすることがあるので、手袋もあったほうがいいでしょう。
避難所でママが気をつけなければいけないこと
――避難所に子どもを連れて行くのは気が引けるというママもいると思いますが……。
野村:私は避難所のコーディネートもしてきたのですが、残念なことに授乳スペースや女性エリア、赤ちゃん専用エリアなど本来あるべきところがありません。もし実際に困ったことがあれば、避難所には係の方がいらっしゃるので、女性エリアや赤ちゃん専用エリアを作っていただけるよう伝えてください。子ども連れのママは、避難所でのスペースも大切だと思いますので、そんなスペースを作っていただけるように、やはり早めに避難所に行くほうがいいでしょう。
――避難所におむつやママの生理用品などはおいてありますか?
野村:おむつや生理用品などはほとんど用意されていないのが現状です。非常用のものは常日頃から家の中、車の中やベランダ、庭の物入れなどに分散させて用意することがいいと思います。
ママや子ども、女性が被害にあわないようにするために
――避難所ではママと子どもはどのような服装でいればいいですか?
野村:避難中は、万が一に発見されるために目立つ色を服装に取り入れたほうがいいです。しかし避難所に着いたら目立つ格好は避けてください。黒、グレーで長袖長ズボン、マスクをしたり帽子をかぶったりして女性とわかる部分はなるべく抑え、ユニセックスなデザインのものを着用しましょう。子どもも同じで、可愛らしい色の服を着せてあげたいところですが、避難所では黒やグレーといった色を取り入れ、なるべく目立たないような服装を考えましょう。夏でも薄手のパーカーを羽織るなどして肌の露出を抑え、スカートも避けたほうがいいでしょう。
――女性や子どもはこれまでに、具体的にどういった被害にあったのでしょうか?
野村:避難所ではボランティアを装って男に寝込みを襲われたりトイレで盗撮されたり、洗濯物を取られたりという被害にあわれた女性もいます。また避難所からテレビ中継があり、「○丁目の○○さんは今留守だ」と思われ、家に泥棒に入られた方がいます。テレビ中継に薄着で映り、肌を露出している女性がいると、盗撮犯が避難所まで来て写真を撮ることもあります。
――トイレも気をつけたほうがいいということですか?
野村:基本的に女性トイレには1人で行かないようにしてください。お子さんも1人での行動をさせないようにしてください。「トイレはこっちだよ」と親切に教えてくれる男性から被害にあうかもしれません。
その日窓口で登録されたボランティアに対して、所持品や過去の犯罪歴などのすべてをチェックはできません。もちろん善意のボランティアが大半のはずなので心苦しいかもしれませんが、ともかく注意してください。
ママと子どもの避難所での過ごし方
――避難所で長時間過ごさなければならない場合、ママと子どもが気をつけるポイントはありますか?
野村:避難所では非日常が続きます。避難所の中で日常を取り戻そうとしても、なかなか難しいものです。その中で限りなく日常の状態に持っていくには、お子さんと普段話していることを話すのがいいですよ。なんでもない話だったり過去に楽しかったことだったり。普段は学校で多くの時間を過ごして帰ってきたら夕食、塾に行ってお風呂に入って……とか、忙しくてなかなか親子の時間がないという人もいますよね。避難所では親子の距離が近くなるので、お子さんとの時間をしっかりと取ることが一番です。
――避難所では子どもを遊ばせてもいいのでしょうか?
野村:子どものストレス軽減のためにも適度に遊ばせてあげましょう。避難所でもできるレクリエーションがあります。ペットボトルでボウリングを作ってもいいし、トランプでもいいですね。新聞じゃんけんもおすすめです。1人1枚、広げた新聞紙の上に子どもそれぞれが立って乗ります。みんなでじゃんけんして負けた人は新聞を半分に折りたたみます。折られて小さくなった新聞紙から落ちた人が負けという遊びです。また家の中にあった遊び道具があると、子どもも日常を味わうことができるのではないでしょうか。避難所であることを忘れるようなコミュニケーションや時間をとることが一番です。
――ママは避難所でどうやって情報収集をすればいいですか?
野村:もちろんテレビやラジオから情報を収集することは有効です。でもなかなか地域の細かなことまでは伝えられません。そんなときは物資を持ってくるドライバーさんをはじめ外部から来た人の情報が有効になります。「ここに来るまで、あの山はどうだったよ」「道路がこういう状況だったよ」など、現地に出入りしている人からだとリアルタイムで情報が入ってきます。
――もし避難所で子どもとはぐれてしまったら?
野村:すぐに避難所の運営の責任者の方に連絡し、お子さんの性別や身長、服装など見た目を伝えてください。これまでも避難所で子どもがはぐれてしまったということはありました。迷子だったり連れ去りだったりといろいろな場合が想定されます。
まずははぐれた場所に行ってそこから大人の目線ではなく、子どもの目線になって探してください。子どもは秘密基地や隠れ場所に入るような冒険感覚で、倉庫や体育館の裏の物置など、思いもよらないところに入ることがあります。子どもなら入り込めるような狭いところも探してみてください。
――そのほか、避難所でママが気をつけておくことはありますか?
野村:これまで現地、被災地に行っても現地で困られているのはやはり女性の方。小さなお子さんをお持ちのママたちがやっぱり困っている環境、状況にあるのは非常に多かったです。これではやはりいけないと思います。
――ママたちは避難所で優遇されるわけではないと思っておかないといけないのですね。
野村:避難所の作り方は、男性の目線で決めている部分があるからかもしれません。それは私が消防署に勤めているときも感じていました。これからママが気兼ねなどせずにいられる避難所のあり方を考えていかなければいけないと思います。
――避難先から家に戻ってきたとき、気をつけておいたほうがいいことはありますか?
野村:細かいことですが、電気のスイッチを入れるときは感電の恐れがあるため、指の腹ではなく指の甲のほうで触ってください。電気を帯びたものに手のひらのほうで触ると、感電したときに手の筋肉が縮んで握る形になり、スイッチを握ったまま離せなくなる可能性があります。
日ごろから心掛けておきたいママの防災や防犯の意識とは
――携帯電話を持っていない子どもと、どう連絡をとればいいのでしょうか?
野村:災害が起きたときに、どこに行こうと普段からお子さんと話し合っておいたほうがいいですね。一度、通学路をママが子どもと一緒に歩いてみるといいでしょう。子どもの目線で通学路を歩いてみると大人は気づかなくても、子どもには危険を感じる場所があるかもしれません。お子さんが一人きりになる通学路では、「ここに知っているおばさんやお友だちのお母さんがいる」「何かあったらここへ行く」というように、ママと子どもが一緒に確認しておくことが大切です。
――防犯の意味でも近所づきあいは大切ですね。
野村:そうですね。防災の意味でも防犯の意味でも、何かあったら逃げ込めることができるご近所の方がいるといいですね。変な人がいたらコンビニに駆け込んでもいいかもしれません。家に帰るときに黙って家に入るのではなくて、「ただいま!」と大きな声を出すことも防犯になります。例え家の人がいなくても大きな声で、「ただいま!」と言うと、後をつけてきた変な人が、「家の人がいるのか」と思い家に入ってきません。危ないのは開けて入るときですから、子どもには大きな声で挨拶をするよう習慣づけるといいでしょう。
――最後に、ママたちへ防災・防犯の心得をお願いします。
野村:災害の規模によっても違いますが、避難所での生活は2週間から長いと1か月以上かかることもあります。大きな災害ですと数年間避難所生活をしている方もいらっしゃいます。避難所に行けば安心というわけではなく、ウイルス感染の危険性や、犯罪にあう可能性などいろいろな問題もあるということを知っておいてください。また避難所では毛布などの数は限られ、1家族に1枚という場合もあります。各家庭に合った備蓄や避難所に持って行くものを、日ごろからチェックしておいてください。
日ごろ子どもと過ごしている場所が安全かどうかを、子どもの目線で確認することが大切です。ママたちが防災に取り組む「防災備人」になることを願っております。
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野村さん、ありがとうございました!
取材、文・岡さきの 編集・しらたまよ イラスト・きたがわなつみ
参考文献:「パッと見! 防災ブック」
価格:1,320円(本体1,200円+税)
出版社: 大泉書店
※本コラムは防災、災害対応のヒントです。実際の災害の対応へは、お住まいの地域の事情等踏まえて、行ってください。