SNSで誹謗中傷をする人の心理、子どもが傷ついたときのケアとは【臨床心理士・吉田美智子先生】
ソーシャルネットワーキングサービス(以下、SNS)は不特定多数の人たちと、自分の個人情報を明かすことなく情報をやり取りできるメリットがありますね。一方で誰かわからない相手からいわれのない誹謗中傷を受ける可能性がある、デメリットも秘めています。
今回はSNSにおいて誹謗中傷をする人の心理と、子どもたちをSNSにおける誹謗中傷から守るために親ができることについて、臨床心理士でスクールカウンセラーでもある吉田美智子先生にお話を伺いました。
SNSで誹謗中傷する人の理由
――子どもたちもスマートフォンを持つようになって、親が管理しないところで不特定多数の人たちとやり取りができるようになりました。SNSでのトラブルに子どもが巻き込まれる事例もあります。なぜSNSで誹謗中傷が起きるのですか?
吉田美智子先生(以下、吉田先生):SNSのひとつの特性としてアイデンティティ(個人情報)を明かさずに他人を攻撃できるという点が挙げられます。名前も顔も住んでいるところも年齢も明かさずに情報をやり取りできますよね。匿名であることにメリットが出てくるときもありますが、一方でその匿名性が、無責任な行動につながりやすいんです。
いわゆる「炎上」は、”自分だけが攻撃しているわけではない”という群集心理の特徴のひとつです。群衆になる、つまり大勢のなかのひとりになると個人の存在がなくなり、周りに流されやすくなったり感情的になったりします。また群衆全体の力を自分の力と勘違いして、暴走しがちになってしまいます。
――何をしても自分には責任がない、と錯覚してしまうわけですね。
吉田先生:そうですね。感情のままに行動することは責任があるとは言えませんよね。気持ちの高揚から、自分のストレスのはけ口のようにSNSを利用する人もいるのではないでしょうか。
あるいは自分なりの正義感からの行動によって、SNSで誹謗中傷をしてしまう人もいます。独りよがりの一方的な正義感は「正義感」であるがゆえに罪悪感がなく、言動のエネルギーが強いんです。客観的に見れば必ずしも「正しい」とは言えないかもしれませんが、本人にとっては「正義」であるため、暴走しやすくなるのですね。
――SNSを使ううえで、大切なことはなんでしょうか?
吉田先生:誰でも人はパーソナルスペース、他人に侵されたくない心の領域を持っていることを知っていただきたいな、と思います。パーソナルスペースは、自分の家のようなものです。他人の家に無断で入ることがないのと同じで、他人のパーソナルスペースは勝手に侵してはいけません。心の領域は目に見えないがゆえに侵してしまいがちですが、誹謗中傷は相手のパーソナルスペースを侵す行動であり、相手の家に土足で乗り込むのと同じだ、と理解してください。
もしSNSで炎上してしまったら、どうやって消火する?
――SNSで炎上してしまったら、どのような対応をすればいいんでしょうか?
吉田先生:どのような理由であれ、いったん炎上してしまったら、鎮火するのは困難だと思います。SNSにおけるやり取りは説明するチャンスが少なく、また説明したとしても収まるとは限りません。説明が逆に「炎上」をあおる燃料になりかねないんです。
SNSにおける火事、炎上から自分を守るための心理学的なアプローチは、「閉じて」、「離れる」ことです。
――何かしなければと思ってしまいがちですが、離れることが消火になるのですね。
吉田先生:火事の場合は火事の原因や火の勢いから、適切な消火剤を選ぶことができるでしょう。でもSNSにおける炎上は、どんな人がどんな考えでメッセージを送ってくるのか見当がつきませんから、対処がとても困難です。ですからSNSで炎上したときは、まず安全な場所まで離れましょう。
子どもがSNSで誹謗中傷を受けたときに親ができること
――もし子どもがSNSで誹謗中傷を受けたら、親には何ができますか?
吉田先生:SNSで誹謗中傷を受けたら、そのSNSを閉じましょう。SNSを見ない、聞かない、そのSNSのあらゆる情報が届かない状態にすることが大切です。これがパーソナルスペースの中に入ってきた人にとっては「外に出てもらう」行動になります。
ただ「閉じて」「離れた」としてもショックや傷は残ってしまいます。ショックをケアするには、ひとつひとつ階段を上るように段階を踏んでいかなくてはいけません。
――段階を踏む、とは具体的にはどういう行動でしょうか?
吉田先生:子どもの心が傷ついているところを見ると親は焦ってしまい「大丈夫? こうしたほうがいいよ」など、慌てたり何かしようとしたりしてしまうかもしれません。でも心が傷ついた子どもに慌てて何かするとショックを強める危険があるので、注意が必要です。
ショックから立ち直るためのステップは4段階あります。
第1段階は「自分を守る」段階。SNSを閉じ、自分を傷つけるものをパーソナルスペースからすべて出します。これ以上の「領域侵入」を許さないようにします。自分を守る状態を確保できたら、第2段階に移行します。
第2段階はショックを受けた人が、気持ちを落ち着ける段階です。ここで他人の意見やアドバイスは不要です。むしろ逆効果になることもあるので、子どもの心が落ち着くのを見守ってください。子どもが心理的に孤独を感じることのない距離を保ちながらも、子どもが”ゆっくり落ち着ける空間”をつくってあげましょう。「ショックが癒えた」と感じられたら第3段階に移行します。
第3段階は「怒り」や「悲しみ」といった感情を処理する段階です。子どもが怒りや悲しみの感情を話してくれたら、それをそのまま聴いてあげてください。「イヤだったんだね」「くやしかったんだね」のように子どもの気持ちを、親が言葉で繰り返してあげてもいいでしょう。子どもの気持ちを親が言葉にすることで、親も子どもの気持ちを追体験することができます。第3段階でも、アドバイスはしません。子どもの話をじゅうぶんに聞き、寄り添えたら第4段階に移行します。
第4段階にきてやっと”今後の対策”を話し合うことになります。ここで重要なのは、ショックを受けるに至った事態を子どものせいにしないことです。悪いのはパーソナルスペースに土足で侵入してきた相手である、と話してあげましょう。
――子どもの心の傷を癒すときは、親も時間と心の余裕を持つ必要があるのですね。
吉田先生:そうです。傷ついている子どもを見るのは親としてとてもつらいことですし、子どもがつらいおもいをする時間を短くしたいという親御さんの気持ちは理解できます。でも4つの段階を無視して親が焦ってアドバイスをすると、余計にショックが深くなったり、親に対する不信感を募らせたりする原因になります。
――焦らないということは、子どもが落ち着くまで親は声かけをしないほうがいいのでしょうか?
吉田先生:声かけはしていいのですが、声かけの仕方がとても重要になります。たとえば「大丈夫だよ、落ち着いたら話そうね」とか、「あなたが話したくなるまで待っているよ」というような、子どもが安心できるようなメッセージを伝えてほしいです。子ども自身に「急いで話さなくては」「絶対に話さないといけない」というプレッシャーを感じさせてはいけません。
――他に子どものケアでやってはいけないことはありますか?
吉田先生:子どもの心の傷が癒えるまでは、「あなたも悪いところがあったよね」などの子ども自身に反省を促す声かけはやめましょう。それは後の段階でやることだからです。ショックを受けている状態にある子どもはまだアドバイスを聞いたり、受け入れたりする心理状態ではないんですね。子どもがショックを受けた直後は、100パーセント子どもに寄り添う声かけをしてあげる必要があります。子どものショックが癒えてきて、話ができる状態になったらしっかり時間をとって話を聞いてあげてくださいね。
子どもを守るためにSNSで誹謗中傷を受けたときの対処は親が覚えておきたい
また吉田先生からは、誹謗中傷のほかに「不特定多数の人が利用するSNSは、知り合いからのいじめに発展しやすい場所でもあります。子どもがSNSを使い始める年齢を、親がじゅうぶんに考慮することがいじめの加害も被害も予防する手段のひとつになると思います」とのお話がありました。
SNSはメッセージだけでなく、写真や動画などもやり取りできる便利なツールです。ただ便利さだけで子どもにSNSを自由に使わせるのは危険なのかもしれません。誹謗中傷を受けるような場面でどのように対処するか覚えておくことは、これからの時代には必須です。またどのツールをどのタイミングで子どもに使わせるのか、いま一度考えたいですね。