新型コロナウイルスの影響で卒業式、入学式が中止。苦い経験を学びに変えるために親子で取り組むべきこと【花まる学習会 高濱先生】
新型コロナウイルス感染症対策のために突然始まった臨時休校に卒業式、入学式の延期や中止。「子どもたちにとってショックが大きいのでは?」と心配になる親御さんもいることでしょう。これに対して「大変な出来事があったときこそ子どもは強くなる」と語るのは、「花まる学習会」代表の高濱正伸先生。先の見えないこの期間をどう乗り切ったらいいのかお話を伺いました
卒業式、入学式の延期や中止は悪いことばかりではない
新型コロナウイルス感染症対策として、突然学校が臨時休校になって友達と会えなくなってしまったり、楽しみにしていた卒園式や卒業式、入学式が延期または中止になったりしたところもあります。親からしたら、子どもの成長の節目でもある式がなくなってしまうのは非常に残念だとは思いますよ。でも、実は入学式や卒業式のイベントがなくなったことは必ずしも悪いことばかりではありません。子どもにとってはこのつらい経験こそがのちのち生きてくるのです。
コロナでのつらい経験は大人になってから生きてくる
今回のような危機に直面した子どもたちは、強いですよ。もし大変なことがあっても、後に「コロナのときのことを思い出せ」と言われたら、みんな一斉にシャキッとするでしょう。子どもたちにとってこの共有体験というのは、気持ちを引き締めるキッカケにもなります。外に遊びに行けないし友達にも会えない。親もケンカばかりしている、もしかしたら身内が亡くなった子もいるかもしれません。困難に直面したとき、子どもなりに将来のことや人生について考えるんですよ。今起きている出来事から学べることも多いのです。
千葉ロッテマリーンズのピッチャー佐々木朗希君は、若いのにすごくしっかりしているなと思ったら、彼は、2011年の東日本大震災のときに津波でお父さんとおじいちゃん、おばあちゃんを亡くしているそうです。きっととても辛かったに違いありませんが、そのつらいことを乗り越えてきた経験が今の彼をつくっているのでしょうね。
トイレットペーパーに関するデマ、マスク転売、感染者差別などを親子で話し合う
子どもが家にいることが多いと親子で話す機会も増えると思います。親子で話すとき、どんなことについて話したらいいかというと、たとえばトイレットペーパーについてです。今回、「トイレットペーパーが売り切れるのではないか」というデマが広がり、それを信じた人達が買いに走り、実際に売り切れるお店が続出しました。また、マスクを転売して高く売ろうという人達もいましたよね。商品を安く仕入れて高く売るのが商売の基本だから問題ないといってしまえばそうかもしれない。しかし、医療現場で困っている人がいるのにそれを許していいのか。ここには「商売」という問題と「モラル」という問題が出てきて、必ずしもこれが正しいという答えが出るとは限らない。
ほかにも、親しいお隣さんが新型コロナウイルスに感染したら助けたいと思うかもしれないけど、川向うに住む知らない人が感染していたら、「怖いからこっちに来ないでほしい」と感じるかもしれません。本当はよくないけど、でも不安を感じたらその人を避けてしまうこともありますよね。友達の間でのいじめなどにも発展してしまうかもしれない。その場合、自分はどうするのか。きれいごとだけではすまされないことは必ずありますよね。このように答えの出ない問題に対して親子で話し合うことはとてもいいことです。正解に行きつかなくてもいいんですよ。考えることは哲学への第一歩目です。深く考えることによって子どもはものすごく伸びるし、親子ともにすごくいい学びの時間になりますよ。
過度に怖がるのではなく、科学的な根拠を知り「正しく恐れること」
多くの人が「新型コロナウイルスに感染したら怖い」と思っているでしょう。怖がることはすごく大切なことです。しかし、僕からすると必要以上に怖がっている人もすごく多いなと思います。なんでもかんでも「怖い」、「すぐに感染するんじゃないか」と不安に思う必要はなくて、大切なことは「正しく恐れること」。そのためにも科学的な知識を手に入れることが大切です。「どんなときに感染しやすいのか」「感染しないためには、どんなことに気をつけたらいいのか」ということについて、親子で調べて話し合ってみるのもいいと思います。この過程でいろいろなことを調べて知識を深めたり、さまざまな立場の人の気持ちがわかるようになったりすることが大切です。それが子どもの成長につながっていくのです。
取材、文・長瀬由利子 編集・山内ウェンディ