ママたちが限界にならないために。専門家に聞いた「ママにいま必要なケア」【後編】
新型コロナウイルスの感染拡大によりこれまでに経験したことのない不安な日々を送る私たち。前回は子どもたちの心のケアについて、国立研究開発法人国立成育医療研究センター こころの診療部 児童・思春期リエゾン診療科の診療部長である田中恭子医師にお話しを伺いました。子どもたちを守るママもこの非日常の中で知らず知らずのうちにストレスや疲れがたまっています。今回は子どものケアにばかり気をとられ自分のケアをおろそかにしがちな「ママたちのケア」についてお話を伺いました。
「完璧」を求めるのはやめて1人で抱えこまないように
――ママたちは休校や保育園と学童保育の閉所、さらには外出自粛要請などで日常に大きな変化が起こり大変な状況にあります。
普段は保育園や学童保育にお子さんを預けて働いていた方でも、いまは家でお子さんと過ごす時間が増えたと思います。子どものことに気を配りながら仕事や家事をすることはすごく大変なことです。このときに意識をしてほしいのは、いつもの半分くらいのことができたら完璧! 合格! と思うことです。いまの状況で完璧を求めてしまうとストレスや疲れがますますたまってしまいます。だから今は目標を50%達成したらよしとしましょう。
――「子どもに対してイライラしてしまう」と悩んでいるママたちが増えています。どうしたらいいでしょうか?
先の見えない不安な日々が続けば誰だってイライラしてしまうものです。お母さんたちに伝えたいのは、仲のいいママ友や友人とのやりとりを絶やさないで欲しいということ。LINEやオンラインツールなどを駆使して、大人同士のコミュニケーションをとってください。特に女性は愚痴を聞いてもらったり、話を聞いて共感してもらえたりするだけで頑張れたりするものです。だからこそ人との絆はキープして欲しいのです。このような状況の中では1人で抱えないことがとても大切ですよ。
少しの時間でも子どもの話を聞いて共感・肯定してあげる
――田中先生も医療従事者として働かなくてはならない状況ですが、お子さんと離れて辛くはありませんか?
私自身正直辛く感じることがあります。娘は小学5年生なので私が仕事に行かなくてはいけないことを理解してくれていますが、我慢をさせ過ぎているなと思うこともあります。医者としての使命と娘を思う母としての心情の間で葛藤することも少なくありません。
――そう感じたときには娘さんにどのようなケアをしていますか?
1人で頑張ってくれていることにしっかりと感謝の気持ちを伝えるようにしています。あとは一緒にお風呂に入って今日あった出来事を必ず子どもに聞いています。そして子どもの気持ちを聞いて「寂しい」と言ったら「ごめんね、いつもありがとう」と伝えています。
子どもの気持ちを聞いたなら必ず共感します。絶対に否定をしません。気持ちを否定されてしまうと子どもたちは気持ちに蓋をしてしまうので、そうならないようにちょっとの時間でも話を肯定的に聞く時間を持つようにしています。
――イライラしてるとつい否定的な言葉がでてしまいがちですが、肯定するというのはすごく大切ですよね。
未知のものに脅える不安な状況だと人は悪いことばかりに目がいき、批判しがちになってしまいます。そんな状況でも働いている人がいること、そのおかげでみんなが生活を送れていることなど自分以外の周りの人間を尊敬し感謝していく世の中になって欲しいと思います。
夫婦それぞれに1人の時間を作ることが大切
――「コロナ離婚」という言葉を耳にすることが増えました。夫婦関係にも変化が起きていると思いますか?
この仕事をしていて、DV(ドメスティック・バイオレンス)や虐待などが深刻化してきたなと感じています。ママやパパが不安な中でも一生懸命頑張ろうとすることが自傷や他害、気持ちの落ち込み、器物損壊へとつながってしまう可能性があるのです。海外では擁護すべき人物対象に現在「女性」が追加されているほど重要視されています。やはり女性はDVを受けやすいので、家庭内でDV行為が連続して起こるようなことがあれば、各自治体などのDV相談窓口や子ども家庭支援課、児童相談所などにすぐ連絡してください。
――DVとまではいかなくても、夫婦で長く同じ時間を過ごすことで抱えてしまうストレスはどのように発散したらいいでしょうか?
それぞれがうまくプライベートな時間をとることです。子どもと過ごす時間だけでなく、夫婦で過ごす時間やご自身だけの時間を優先して作ってください。家の中で自分の時間を持つことは難しいかもしれませんが、子どもが寝たあとに好きなことをして過ごすなど、大人が強制的にストレス発散する時間を作ることはとても大切です。
1日数回の深呼吸で気持ちをリセットしましょう
――この状況がすぐに収束することはなさそうですが、ママがいま意識すべきことは何ですか?
お母さんたちは本当に大変な状況だと思います。今は緊張感があるので大丈夫かもしれませんが、のちのち一気に疲れがくることがすごく心配です。だからこそいまはすべてを完璧にする必要はないということを常に意識してください。あと「食事・睡眠」など自分のケアを最優先してください。そしてそれをちゃんと出来ている自分を褒めてくださいね。
――具体的にできるケア方法などはありますか?
深呼吸はすごくいいんですよ。「イライラしているなあ、疲れているなあ」と感じたときに1回でもいいので大きく息を吸ってゆっくり吐いてください。私も心理士さんもよくやる治療方法です。深呼吸をすることで少し気持ちが切り替わります。1日に1〜2回、できれば5〜6回空を見上げたり深呼吸をしたりすると気持ちがリセットされるので意識してやってみてください。
ママはまず自分のケアを最優先に
――最後に、先生からママたちへメッセージをお願いします。
お母さんたちはこの非常事態でも十分良くやっていらっしゃいますよ。そんなご自身を褒めてくださいね。ぜひ自信を持って子どもたちにその自信を持った姿を見せてあげてください。それでも辛くなってしまったときは、無理をせず専門機関を受診するか電話相談してください。
この数か月、自分で思っているよりもずっと気持ちを張りつめて頑張り過ぎていたというママが多いのではないでしょうか。旦那さんや子どもたちの健康のことを考え、日に日に変わる園や学校の状況に対応しながらいつ終わるともわからない事態と向き合っているのです。疲れて当然、ストレスがたまって当然です。我が子はかわいいものですが、何事もバランスが大事ですよね。ずっと子どもと同じ時間を過ごし1人でボーっとする時間が5分もない生活をしていたら、ママのほうが限界になってしまいます。田中先生のお話にあったように、自分のケアを最優先してください。ママが笑顔でいると家族も安心して笑顔になれるはずです。家族が笑顔で1日を終えられたら、それで100点満点だと自分を褒めてあげましょう。そのためには旦那さんの協力も欠かせません。この状況を乗り切るために、夫婦で話す時間そしてときには1人で過ごす時間を持ってこの状況を家族みんなで協力して乗り越えましょう。
文・鈴木じゅん子 編集・秋澄乃