小学校での暴力行為は高校の2倍!原因は……?
「中学、高校での暴力事件は減っているのに、小学校では逆に増えている」と話すのは、長年子どもの学習について研究されてきた隂山ラボ代表の隂山英男先生です。小学生の子どもを持つママからしたら、とても他人事とは思えない話が出てきました。子どもたちに何が起きているのでしょうか。
中学、高校では減っているのに小学校では逆に増加
日本の教育の問題点は昔も今も中学校に集約していて、暴力事件の数も突出して多いです。僕が教師になった30年前からずっと一貫しています。しかし近年はわりと沈静化しています。
高校になると、さらに沈静化します。逆に小学校だけが異常に増えています。今、小学校の校内暴力の発生率は高校の2倍です。中学、高校での暴力行為発生件数が年々減ってきているのに対して、小学校では逆に上がっています。生徒数1000人当たりの暴力行為発生件数は、平成29年度で2.0件なのに対して、小学校では4.0件になっています。
朝ごはんを食べずに登校する子が増えている
――なぜそこまで小学生で暴力事件が増えているのでしょうか?
正直、よくわかりません。1点だけ平成25年から悪化しているデータがあります。それは子どもたちの朝食摂取率が下がっているというデータです。僕が「朝ごはん運動」を始めた平成17年から朝食摂取率はずっと上がっていました。しかし平成25年から、急に朝ごはんを食べない家庭が増え始めました。
朝ごはんを食べさせない家庭の件数と、校内暴力の発生件数の動きというのは、同じ動きをしています。ただこれをいうと「朝ごはんを食べないと子どもが荒れる」と根拠がないことをいっていると思われるかもしれません。確かにこのデータだけで朝ごはんを食べないことが原因だと断定はできません。しかしデータが同じ動きをしていることは注意しておいて良いと思います。
――つまり、朝ごはんを食べない家庭が増えることと、校内暴力の発生件数が増えていることは関係しているのではないかと、隂山先生は考えているわけですね。
そうですね。まだいろいろと調べる必要があると思いますが、1つの気になるデータではあります。
問題行動を起こす子どもたちが変わったきっかけは?
ある田舎町に12人の新入生が入ってきました。ところが、12人のうち11人に行動上問題があると、幼稚園から但し書きがありました。「心がすさんでいる」「人として育っていない」。その他諸々書いてありました。たとえば、そばにいる子どもをわざと突き飛ばしてけがをさせてしまう。授業中に立ち歩くために、ほかの生徒が勉強に集中できない。注意すると大きな声を出して騒ぐ、物に当たるなど、問題行動ばかりが続き、ベテランの先生が担当したものの2カ月で退職してしまいました。
この子たちは、当然小学校2年生になっても勉強ができない。3年生になるとさらに勉強のできる子との差が拡大しています。そんなときに学校の校長先生から僕に「隂山メソッドを導入したい」という電話がありました。
――隂山メソッドとはどのようなものですか?
「早寝早起き朝ごはん」と「読み書き計算」の徹底学習で学力を伸ばすことをいいます。夜遅くまで起きていると、朝早く起きられません。朝起きられないから、朝食を食べてこない。食事を抜くから頭がボーとして学校の授業に集中できない。
学習の基礎となる「読み書き計算」ができないから、学年が上がるほど授業についていけなくなります。理解できないのにただ座って授業を聞いていなければいけない時間が苦痛になる。授業がわからない、何もしないで座っていなければいけない。勉強についていけないことから、焦りや疎外感を感じる。つまり、生活習慣の乱れが子どもの学力低下、ひいては学級崩壊につながっていくのです。
――逆にいえば、「早寝早起き朝ごはん」の生活習慣を正し、「読み書き計算」の徹底学習をすることで基礎学力をつけけることで子どもたちが変わると考えたわけですね。
はい。「隂山メソッド」を導入して改善しようという校長からの案で導入することになり、とりあえず国語は改善しました。2年目で算数も改善しました。今年は、全国平均を大幅に上回る改善をしました。
問題を抱えた広島県のある小学校、「隂山メソッド」を導入したら
田舎町の小学校での話を聞いた一部の人たちから、僕が提唱している基礎反復の「百ます計算」をしたら自信が出て、学校で荒れなくなる」という人もいますが、それは違います。1つそう思える証拠をお話します。
広島県のある小学校の話です。もともと問題を抱えた地域ということもあり、毎年10月に地域のお祭りがあり、その時期になると学校が荒れ放題に荒れていました。お祭り前になると大人たちは祭りの準備に忙しく、その結果子どもたちの生活習慣が乱れてくる。夜子どもたちだけで出歩く子もいて、朝が起きられない。2学期になって勉強も難しくなってくる頃だから、授業についていけない子も出てくるという悪循環だったのです。
そこで、まずは子どもたちの情緒安定のために、「早寝早起き朝ごはん」と「読み書き計算」の徹底学習で学力を伸ばす「陰山メソッド」をいれることにしました。僕は、10月3日にいき、直接指導しました。
その数日後、校長から手紙が来ました。「魔の10月にもかかわらず、問題行動が半減しています。保護者からのクレームもほとんどありません。本当に不思議です」。
――子どもの学力が向上するまえに子どもが落ち着いてきたということですか?
そうです。生活習慣が整ったことで、授業を受ける態度が一変して、これまではなかなか授業に集中できなかった子どもたちが積極的に取り組むようになってきました。おかげで授業も進めやすくなり、その結果、成績も上がりました。
さきほどもお話したように、僕は、学校が荒れる一番の問題は生活習慣の乱れだと思います。生活習慣の崩れが子どもの学力低下を招き、結果として学校が荒れる原因になっているのです。まずは「早寝早起き朝ごはん」で子どもの生活習慣を正すこと。同時に、読み書き計算の基礎基本を徹底して基礎学力をつける。基礎が身につけば学力も上がり、結果として校内暴力の件数も減ってくるのではないかと思います。
取材、文・長瀬由利子 編集・しのむ イラスト・加藤みちか