究極の野菜嫌いだった娘が、お弁当にブロッコリーを入れられるようになる日まで……
以前、頑なに野菜嫌いを貫く次女について記事を紹介させていただきました。当時はまだ幼稚園に入園前の2~3歳児だった次女も、もうすぐ5歳になります。あれから2年……相変わらず食べられる野菜に変化はなく、土より上に育つ野菜は一切口にしない食生活を送っていた次女。小児科の先生からいただいた「納豆を食べさせれば問題ない」というアドバイスを心のよりどころにして日々の食事をやり過ごしていた筆者でしたが、毎日気持ちが穏やかであったかといったら、決してそうではありません。
疲れているときなどは、「野菜を食べないと病気になって、太い注射されちゃうんだよ!」なんて脅してみたり、イライラしてつい怒鳴ってしまうこともしばしば……ダメな母親ですね(涙)。
小児科の先生は「自分で気づかないと食べるようにならないよ」とは言ったものの、それっていつ? いつまで私はこの子のご飯に気を使わなくちゃいけないの? と自問自答する日々は続いていました。
ところが最近、少しだけ変化をみせるようになったのです。
キッカケは1本のもやしだった
ある日、食卓に「アルファルファもやし」を出したときのことです。滅多に登場しない野菜に興味があるのか、じーっと見つめる次女。興味があるのかな? と感じた私は
「これもやしの赤ちゃんみたいだね! 赤ちゃん1本くらいなら食べられるんじゃない?」
と聞いてみます。すると「食べてみる」と次女。あら、奇跡。「赤ちゃん」というキーワードに食いついたようですね(笑)。たっぷりのドレッシングにひたした、たった1本のアルファルファもやしを食べた次女は一言「おいしい!」。
そりゃそうよ。だってこんな細いのはドレッシングを食べているようなものだもの……とは言わず(笑)、盛大にほめたたえる家族一同。それに気を良くしたのか、アルファルファもやしが食卓に出る度に得意気に1本だけ求めてくるようになりました。小さな小さなアルファもやしを食べては、「わたし、やさい食べれる!」と上機嫌。そうね、そうね……そうしておこうね。こうしてアルファルファもやしは2本、3本と少しずつ増えていきました。アルファルファもやしが10本ほど食べ慣れてきた頃、筆者に邪な考えが浮かびます。
「これ……次は普通のもやし、いけるんじゃない?」
少しずつ増えていくもやし
また別のある日。次女の大好物のラーメンに、トッピングとして小指の第一関節程度の長さのもやしを1本だけ入れました(普段はトッピングなしの素ラーメンです)。最初は少し嫌がりましたが、
「アルファルファもやしのお姉さんだよ! お姉さんになったんだから食べられるよ!」
と皆でヨイショ。麺とスープに混ざって、恐らく食感をほとんど感じることがないままに、もやし1本を飲み込むことに成功した次女に家族は拍手喝さい! そしてアルファルファもやしと同じように、野菜炒めやサラダなどに入るもやしは1本2本と増やしていき、次女が食べられる野菜グループの中にすっかり仲間入りしました(でも5本くらいが限界ですが……)。
友達にも「わたし、もやし食べれるのよ!」と自慢する次女。あんまり自慢になっていないような? いやいや本人の自信が大切ですから。隣で「頑張ってるんだよねー」と微笑み続ける筆者。良い波が来ている……あの土より上の野菜を絶対に口にしてこなかった次女が、シャキシャキ食感のもやしを食べているんだ。
ある日の食卓に奇跡がおきた
そんなある日の夕食とき。次女がお皿にのった肉、芋、もやし(新入り)を食べていると「ブロッコリー……食べてみようかな」とポツリ。
え……? いま何て言った? 心の中で荒波のように湧き立つ感情を抑えながらも、どうにか平静を装って「おー! いいねー」と返答する筆者。
「はじめてだから、1本だけ食べる」
ん? 1本? ひと房じゃなくて? もしかしてブロッコリーの緑色の花蕾を作っている小さなつぼみ1本のこと? アルファルファもやし以下の大きさなのでは……。いやいや、とにかく前向きなのは良いことだ。小さなつぼみにドレッシングをたっぷりつけて「ブロッコリー食べれたー! おいしい~」と満面の笑みの次女。うん、そうね。でもそれは「食べれた」というより「気づかず口に入っちゃった」レベルだけどね(笑)。と言いたいことを飲み込んで、再び拍手喝さいです!
その日からアルファルファもやしのように、ブロッコリーのつぼみを1本2本と増やしていく次女。風が吹いたら全部飛んでいってしまいそうな小さなブロッコリーは、お皿の上で目を細めないとなかなか確認できませんでしたが、何週間か続けていくうちに小指の第一関節程度の小房まで到達! しかし「これ以上はおおきくしないでね」とストップが入ります。4歳児、自らの限界を知っているな……(笑)。でもでもでも、あの頑として土より上の野菜を口にしなかった次女が、ブロッコリーを……緑色の野菜を口にする日がくるなんて……。
本当はずっと「食べたかった」
何より一番驚いたのは、自信に満ち溢れた本人の顔でした。「緑の野菜なんて食べれなくてもいい!」と頑なに言い張っていた次女ですが、きっと心の本音は「食べられるようになりたかった」のでしょう。だけどみんなと同じようには野菜にチャレンジできない……。本人もどうして良いのか分からなかったのかもしれません。
それが「アルファルファもやし」できっかけを掴み、ほんの少しだけ「自信」が芽生えた次女。意気揚々と「お弁当にも入れていいからね!」と言い、園から帰るとすぐに「ブロッコリー食べれたよ!」と笑顔です。いや、だからね、ものすごい小さいの1つだから……と私の価値観をつい押し付けてしまいそうになりますが、次女のお弁当箱の中に入る小さなブロッコリーは、確実に成長している今の彼女の精一杯の量。他の子に比べるととんでもなく遅くて小さな1歩だけれど、何にも代えることができない彼女の成長の証なのです。
とはいっても何度もいいますが、決して普通のお子さんと同じように野菜が食べられるようになったわけではありません。もやしは相変わらず5本までだし、ブロッコリーも小さいまま。あとはとうもろこしが2~3粒……かな(笑)。まだまだ先にはトマトもナスもレタスもピーマンも、いろいろな野菜が待ち構えています。小学校の給食がはじまるまでには、どうにか……と目論みながら、今日も納豆ご飯を片手に、意気揚々ともやし(5本)とブロッコリー(極小)を頬張る次女を、2年前より穏やかな気持ちで見守るのでした。
文・渡辺多絵 編集・山内ウェンディ