スポーツや音楽とプログラミングが融合!?新しい学びのスタイルとは【経済産業省・浅野大介さん】
人生100年時代。これからの教育は、知識を教えるのではなく子どもたち自身が興味を持ち、学ぶ姿勢が大切になってきます。経済産業省では、教育とテクノロジーを掛け合わせることで、新しい学びのスタイルを築こうとしています。経済産業省 商務サービスグループ 教育産業室長の浅野大介さんに、詳しく伺いました。
スポーツ×プログラミングで「学び」はどう変わる?
――今、経済産業省では「マイプロジェクト」に力を入れているそうですが、これはどのようなものですか?
浅野大介さん(以下、浅野)「マイプロジェクト」とは、子どもたち自身が興味を持ち「なんのために学ぶのか」という探求プロジェクトです。「マイプロジェクト」といっても人それぞれです。スポーツや音楽の入り口もあります。あとは社会課題に取り組む子もいる。自然科学が好きな子もいるし、身近な生活課題を少しずつ片づけたいという子にもすごく向いています。
たとえば、スポーツを選択した場合、タグラグビーという、ラグビーでタックルする代わりに腰にタグをつけて取られたら負けというゲームを使って「マイプロジェクト」を行うこともできます。3回タグを取られたら、攻守交替というゲームです。これは体育の中での指導要領に入っているので授業でできます。
ラグビーを通して数的思考を鍛える
――どうやるのでしょうか?
浅野:ラグビーというゲームは数的優位を創り出すゲームです。ワンツーマンマークをして、一人余る状態を作り、そこにパスを出して走っていくというゲームです。一見スポーツをやっているかのように見えますが、実は数学、どこで余りを作るのかという数的思考を学んでいるのです。
まずは体育の授業でこのタグラグビーをやります。その次にどうやったら勝てるかをプログラミングを使ってシミュレーションするのです。AI(人工知能)を作って、AIに対して「こういう攻撃を仕掛けていくと勝てるかもしれない」と考えていく。そうすると、体育の授業とプログラミングがつながっていきます。体育の授業とプログラミングが一緒になることで、スポーツが好きだからこそプログラミングが好きになるのです。
――スポーツとプログラミング、一見まったく関わりのない分野のように見えますが、つながりますね。
浅野:ほかにも、音楽で作曲とプログラミングを掛け合わせることもやっています。音楽が好きな子に自分の楽曲をつくらせて、そこからプログラミングの世界に引き込もうという試みです。プログラミングによって自分の楽曲を作る。できたら、そこから数理の世界に引き込んでいく。「マイプロジェクト」に取り組むことによって、子ども自身がいろんなことに興味を持つことができて、学びも深まります。
教科学習×テクノロジーで「学び」が変わる
――教科書に基づいた教科学習は、テクノロジーとどのようにかかわってくるのでしょうか。
浅野:学び方としては「マイプロジェクト」、もしくはそこまでいっていなくても「関心があること」に教科学習をつなげてあげるのがいいですね。たとえばiPS細胞に興味を持った子がいて、その研究をしたいと思ったとします。「興味を持ちました」というところから、「iPS細胞ってなに?」「iPS細胞はがん細胞になる危険もある」「じゃあ、がんはどうやってなるの?」「がんは細胞分裂の過程で起きてくる遺伝子の異常」ということがわかるわけです。そうなったら生物の教科書の「第一章 細胞分裂」がわかるのです。
次に、「iPS細胞ってどんなところに役立っているの?」ということを調べていくと、創薬や再生医療につながっていくわけです。iPS細胞に興味を持ち調べることによって、医療の分野でどんな問題があって、それをどう解決しようとしているのか、社会課題が見えてくるわけです。
マイプロジェクトと教科学習の融合でもっと勉強が楽しめる
――学校で習う勉強と関心事が合わさったら、もっと授業が楽しくなりそうですね。
浅野:日本の教育の良さは、教科学習の合理性の良さです。ここはよくできています。ただ、「なんのために勉強するのか」という部分がゴソッと抜け落ちているのです。つまり、いろんな知識を教えても、学ぶ目的がないからなかなか身につかない。だから僕はいつも「理由なき学びはやめろ」といっています。日本の教育はこれまで「知識を覚えること」が重視されてきたため、親自身も子どもに知識をつけさせようとしてしまうのです。
ここで大事なことは「マイプロジェクト」と教科がちゃんとつながっていること。たとえば、「マイプロジェクト」をやるために学習するという、この関係を作りたいんです。教科学習では、興味があるところは人それぞれだから、やっぱり人工知能の力を借りることが必要です。「スタディーサプリ」のようなオンライン講義の力を借りようと思います。
ようするに、先生がいちいち黒板に板書する授業をする必要はない。動画を見せておけばいいんですよ。動画を見てわからないところがあれば自分でやるというので全然いいと思います。これに対して「学力の高い子じゃないとムリ」という声もあります。だけど、「スタディーサプリ」などは、商業高校などの生徒にやらせてもけっこう伸びるんですよ。職業系の高校の子は、「あまり勉強が得意じゃない」という子が多いかもしれないけれど、成績は伸びます。
だから、先生はどれだけ生徒のモチベーションを上げられるかというところに特化したほうがいい。あとは、個別の質問に答えてあげることが必要だと思います。「生徒同士の教え合い、学び合いを最大限に生かしながら、最後に先生が答える」という学習スタイルを取ることで、「学習者中心の学び」ができ、主体的に学ぶからこそ理解が深まります。それによって、新たな時代の日本の教育に強みが生まれてくるのです。
取材、文・長瀬由利子 編集・山内ウェンディ