アメリカ、中国などで変わり始めた教育改革。日本はどう変わる?【経済産業省・浅野大介さん】
今、世界中で求められる人材が変わってきています。求められる人材は「科学技術をはじめとした幅広い知見、知識を持ち、それを適切に活用し、自ら革命、革新を起こせる」人。世界中で進む教育改革とともに、今後の日本の教育の在り方について、経済産業省 商務サービスグループ 教育産業室長の浅野大介さんにお話を伺いました。
アメリカでは政府主導。教育格差を是正するエドテックとは
――今、世界中で教育改革が起こっているそうですね。どのように変化しているのでしょうか?
浅野大介さん(以下、浅野):今、世界各国で教育とテクノロジーを掛け合わせた「エドテック」が普及しています。なかでもアメリカと中国では急速に導入が進んでいます。というのも、アメリカはオバマ政権のときにIT教育・エドテック普及に向けて積極的な政策を展開してきたからです。
――なぜアメリカは、政府主導でIT教育やエドテックに力を入れたのでしょうか?
浅野:一番の問題は、教育格差の是正です。アメリカは住む洲、地区によって教育格差が激しい国です。教育に力を入れているエリアでは最高の教育が受けられますが、そうではないところでは、先生自体に問題がある場合もあり得るのです。
アメリカが「STEM」教育に注力するワケ
ようするに、良くない先生しかいない学校でも、テクノロジーを導入することで教育の機会を与えることができます。パソコンがあり、インターネットにつなげられる環境であれば、どこでも誰でもいつでも良質な教育を受けることができます。また、稼げるためにはSTEMの発想が必要です。
――STEMとはなんですか?
浅野:アメリカでは、STEMとは科学技術・工学・数学分野の教育といわれています。理数系の教育に積極的に取り組むことで、これから10年先、20年先もアメリカが科学技術の分野で世界をリードしていくための国家戦略の1つでもあります。
中国も注目。教育格差を是正する真の目的は?
――中国の場合はどのように変わってきているのでしょうか?
浅野:教育格差が激しい中国も同じことを考えています。インターネットがあれば、貧しい地域の子どもたちでも、北京大学などの教育を受けることができます。「中国製造2025」とう言葉があり、これは2025年に中国の製造業が世界を制覇するための国家戦略です。このプロジェクトを遂行するためには、STEM教育を受けた課題解決型の人材育成が必須です。
つまり、エドテックやSTEMを取り入れることで、アメリカも中国も教育格差を是正して、より多くの優秀な人材を育て、国際社会での競争で力を発揮しようというのが狙いなのです。
学習の進捗状況をアプリで管理するオランダ
浅野:オランダでは、国は必須教科と最終学年終了時の達成目標と総授業時間を決める程度で、あとは学校ごとにまかせています。学校の1つである「スティーブ・ジョブス・スクール」では、1日の3分の1はエドテックでの自主学習にあて、iPad上でエドテックを用いた算数や言語の学習をしています。先生は、アプリを使って学校、家庭ともに、子どもたちの学習の進捗情報を一括管理し、生徒たちは、自分の進み具合や興味関心に合わせて授業を選んで知識をつけています。
年間300時間のSTEM教育で自然科学の魅力を伝えるイスラエル
浅野:イスラエルは、幼児期から科学に対する気づきや興味、意欲を育てることで、自然とサイエンスに興味を持つようSTEMに力を入れています。たとえば「自然科学技術幼稚園」では、年間300時間のSTEM教育によって自然、ロボット、コンピュータ、宇宙などのテーマに触れています。それによって幼少期の頃から自然に興味を持ち、不思議さを感じる。社会課題の当事者意識を持つようになるのです。
知識や常識、問いそのものを疑う批判的思考力を身につける
――日本の教育は、どのように変わっていくのでしょうか?
浅野:僕は、日本の教科学習のやりかたはとても合理的にできていていると思います。学ぶべき情報がひとつにまとまっているからです。ただ、ここに書きましたけど、常識とかルールとか通説とか、本当に正しいといえるのか、自らの頭でもう一度考えてみる必要がある。今の日本の教育は、子どもも大人も「知識や常識、問いそのものを疑う」批判的思考が欠けています。「教科書の記述に挑戦しろ」ということなんです。これが学びですよね。だけど、今の学校教育はそこを教えていないわけです。僕はそこを変えたいだけなのです。
これからの日本の教育は、教育とテクノロジーをかけ合わせたエドテックと、批判的思考力の訓練、生徒同士の学び合いなどによって、変わっていってほしいと思います。
取材、文・長瀬由利子 編集・山内ウェンディ