嫌われ者になろうとも……「母としての使命」を貫くオオカミママの姿が心揺さぶるーー絵本『オオカミがキケンってほんとうですか?』
筆者は先日、6歳の息子と図書館へ行きました。
どちらかと言えば、おとなしい性格で、主張も少なめのタイプの息子。ですが、この日、ある1冊の絵本を見つけたときばかりは、「おもしろい」と自慢げに言い放ち、ぜひにも借りて帰りたいと言うのでした。
絵本のタイトルは、『オオカミがキケンってほんとうですか?』。
木の後ろからのぞくオオカミの口元がいかにも怪しげですが……親しみやすいキュートなタッチの絵、それからなんといっても、愛くるしさ満点の子ヒツジから想像できる物語は”ほんわか”系のお話。「オオカミは、じつはイイ奴」というオチのはず。
そんなふうに踏んで、「ママも読んでみて!」と息子にせがまれるままに開いた絵本は……。
「オオカミがキケンってほんとう?」自身で真実を探る、ある動物の子どもの物語
ヒツジの子が、町で「オオカミ キケン!」という貼り紙を見つけました。
『「ほんとかな~?」 ひつじは おもいました。
なぜなら おかあさんは、「うわさを しんじては いけないよ」と、いつも いっているからです。』
(中略)「わからないことは、じぶんで ちゃんと しらべるんだよ」
おかあさんの ことばを おもいだした ひつじは、てちょうを とりだし、オオカミに ついて しらべることに しました』
「オオカミが キケンって ほんとうですか?」
ヒツジにそう尋ねられたどの動物も、形相を変え、怒りをあらわにします。
そして、ウサギの虫刺されも、ヒヨコが空を飛べないのも、み~んなオオカミのせいだと言うではありませんか!
「オオカミが キケンか どうか わからない。ただ、とても きらわれている……」ということが分かったヒツジは、ママがご飯を作って待っている家へ向かいます。
ママの口癖は「ママの つとめは ぼうやに ごはんを つくること。ぼうやが おおきく なるように」です。
家に帰りついたヒツジが玄関を開けると、「ぼうや、おかえりなさい」……
包丁を持ったオオカミがにっこりと出迎えました。
そして、オオカミはヒツジの背中を探り、ファスナーを見つけ、下におろしました。
ヒツジの中に入っていたのは……(なんと!)子どものオオカミだったのです!
ママがキケンじゃないと分かったら、みんなもママを好きになるはず! と考えた子ども。洗濯・掃除・風呂焚き……ママががんばる姿を手帳いっぱいに書きだしました。
ところがその晩、ひとり家を出るママの姿を目にした子ども。あとをつけて行き、そこで子どもが目にしたものとはーー??
示唆に富んだ”衝撃”のラスト
(これ以後はオチを推測できてしまう記述をふくみます。筆者としては、結末は絵本で読むのが断然オススメです。絵本で読みたいママ、ぜひ図書館や書店へ!)
表紙の優しいタッチの絵はカモフラージュ? だなんて思ってしまうほど、この絵本の結末は、筆者には衝撃的で、かつ、ママとしての心を、とても強く揺さぶりました。
筆者がそうであったように、結末を知った直後は、どのように受けとめるべきか戸惑う方も多いように思います。筆者が「衝撃的」と形容した結末部分は、賛否両論が激しく分かれそうです。
でも、筆者は不快感をいだくどころか、この絵本には深いメッセージが込められているように感じました。もう一度ていねいに読んでいけば……少なくとも筆者は、示唆に富んだ素晴らしい絵本だと確信をもつことができました。
さまざまなアングルで、この絵本を味わえそうです。
そして、子どもを育てることを、喜びに満ちた自分の使命であるとする、私たちママ。でもきっと、人それぞれの理由で心ならずも育児に孤独がちらつく日もあります。この絵本では、子ども目線で物語がすすみ、ママの胸の内は語られませんから、オオカミママの気持ちの”実際のところ”は分かりかねます。でも筆者は、強く、気高く、シンプルに、母としての使命を貫いているように見えるオオカミママの姿に、すっかり感動してしまいました。筆者にとっては、ママとしての勇気もわいてくる絵本です。
また、
『うわさを しんじては いけないよ』
『わからないことは、じぶんで ちゃんと しらべるんだよ』
これら、冒頭に出てきたオオカミママの言葉も、結末を見るとキラリと輝く金言のようです。
まだ6歳の息子が何をもって、この絵本を「おもしろい」としたのか、本人に尋ねても実のある返答はもらえませんでしたが(「ん~、わからな~い」という回答でした……)、親子でお気に入りの絵本がまた一冊ふえた喜びを味わいたいと思います!
作:せきゆうこ
価格:本体1300円+税
発売日:2016年3月17日
出版社:(株)PHP研究所
文・福本 福子 編集・横内みか