子どもは元気な声であいさつすべき?大人の思い込みにハッとする絵本『くまのこうちょうせんせい』 #ママの悩みに寄り添う絵本
元気な声であいさつを交わすことができると、すがすがしい気持ちになりますよね。あいさつの大切さはママも小さな頃に大人から教わったのではないでしょうか。そして自分自身がママになった今、子育て中のいろいろな場面でも「おはよう」「ありがとう」「ごめんね」など、あいさつの大切さを実感しているという方もいらっしゃると思います。
ただママが子どもに気持ちのいいあいさつをしてほしいと思っていても、引っ込み思案で自分からあいさつができない子どももいます。
わが子は小さな頃から家では元気よく話をするのに一歩外に出ると物静かで、近所の方に声をかけられてもあいさつや返事がうまくできずにうつむいてしまう子どもでした。親としては“元気良くあいさつしてくれたらいいのに“と思い、私自身が手本になれるようなあいさつを心がけましたがうまくいきませんでした。どうすればわが子が元気良くあいさつができるようになるかと悩んでいた時に、絵本『くまのこうちょうせんせい』と出会ったのです。
「子どもたちのいたみをわかちあうのが、大人の役目」心に響くあとがきにも注目『くまのこうちょうせんせい』
毎朝元気よく「おはよう」と大きな声のあいさつで出迎えてくれるくまの校長先生。ひつじくんは、小さな声でしかあいさつができずにいました。そんなひつじくんに校長先生は「ゆうきをだしてごらん。いつかおはようがいえるようになるよ」と声をかけてくれます。
翌朝担任の先生が、「校長先生が入院してしまった」とお話をされました。ひつじくんは自分が大きな声であいさつができなかったので、校長先生が病気になったのではと思います。入院した校長先生は、病気のために大きな声で話すことができなくなっていました。医師や看護師は校長先生に「大きな声を出そう」とは言わず、小さな声しか出せない校長先生の話をじっと耳を澄まして聞いてくれたのです。
校長先生のもとには子どもたちから手紙や絵がたくさん届きました。手紙や絵を目にした校長先生は医師に病院から学校へ通えるように頼んで、“無理しないこと・夜には病院に戻ってくること”という2つの約束をして願いをかなえてもらいました。
次の日から校長先生は入院前と同じように校門で出迎えてくれました。でも病気のために小さな声しか出せなくなって痩せてしまった校長先生を見たひつじくんは、お話もあいさつもすることができません。その日の帰り道、ひつじくんが歩いていると校長先生がついてきて、“病気になってわかったこと”を打ち明けてくれました。しかしその後、ひつじくんの目の前で校長先生がうずくまって動けなくなってしまいます。誰か助けを呼ぼうと必死に大きな声を出したひつじくん。
その後、校長先生とひつじくんがどうなったかは実際に絵本を読んでみてくださいね。
絵本『くまのこうちょうせんせい』のあとがきを読むのもオススメ
『くまのこうちょうせんせい』は実話をもとにした絵本です。あとがきには、神奈川県茅ヶ崎市立浜之郷小学校の元校長・大瀬敏昭先生と作者こんのひとみさんとのエピソードが綴られています。大瀬先生が余命3か月の宣告を受けた後、学校で「いのちの授業」を続けていたことも記されていました。大瀬先生は病気になってはじめて
『子どもはあかるく元気がいちばんと、大人はおもいこんでしまいます。でも本当は、子どもはちいさくてよわいものなのです。子どもたちのいたみをわかちあうのが、大人の役目だと思います』
ということがわかったと話されたとか。こちらの言葉が絵本『くまのこうちょうせんせい』が生まれるきっかけになったのだそうです。
ライターがオススメする年齢は4歳くらい~
絵本のお話は小学校が舞台になっていますが、早ければ4歳くらいから楽しめます。わが子には元気良くあいさつができる子、小さな声でしかあいさつができない子とあいさつに限らず、いろいろな子どもがいることを話題にして読みました。また大瀬先生が病気になってからも続けられていた「いのちの授業」を大切に読み進めるのであれば、もう少し理解が深まる小学生まで幅広い年齢で読むことができる1冊だと私は考えています。
お話はもちろん、あとがきの校長先生の言葉にも救われた絵本
私が絵本『くまのこうちょうせんせい』を初めて目にしたのは、書店に訪れたときでした。いもとようこさんが描かれた、あたたかみのあるくまの校長先生の表紙イラストに惹かれたのです。数ページ読んだ後、購入して自宅でゆっくり読むことに。
『子どもはあかるく元気がいちばんと、大人はおもいこんでしまいます。でも本当は、子どもはちいさくてよわいものなのです。子どもたちのいたみをわかちあうのが、大人の役目だと思います』
このあとがきを読むまで私は、“元気良くあいさつができた方がいい”と思い込んでいました。でもあいさつだけに限らず、子どもの思いや考えを尊重して声をかけることが大切なのだと思い改めることができました。子育て中はつい目先の、子どもができないことばかりに着目しがちです。しかしあとがきを読んだあとは、肩の力がスッと抜けた感じがしたことを今でも覚えています。
実話に基づくお話と知るとどこか切なく感じてしまいますが、心あたたまる部分もたくさんありますよ。ママとパパには絵本のお話だけではなく、大瀬先生と作者の想いやエピソードが綴られたあとがきにも注目しながら読んでいただけたらと思います。
文・藤まゆ花 編集・しらたまよ