いつでも、どこでも、ママに寄り添う情報を

親から子へと伝えたい。国立西洋美術館の知られざる物語とは【東京・台東区】

1536808709-256d63b4f55ff71d6261bc026994eb1e
「美術館には行きたいけど、子ども連れだと入りづらい」。そんなママたちのために台東区の上野恩賜公園にある国立西洋美術館では、親子で楽しめるファミリープログラムを実施しています。

モネ、ルノワールの絵画やロダンの彫刻など、「松方コレクション」の作品を中心にルネサンス以降20世紀初頭までの西洋美術が鑑賞できることで人気の国立西洋美術館ですが、開館までには長い道のりがあったといいます。台東区の服部征夫区長に伺いました。

prof_08_taito

子どもと国立西洋美術館へ行ったときに伝えたい物語

国立西洋美術館を含む7カ国17のル・コルビュジエの建築作品がユネスコの世界文化遺産に登録されたのは、2016年のこと。
この世界遺産登録は、フランスを中心とした7カ国の国際的な協力のもと、国、東京都、台東区と地域住民による約10年の活動により達成されました。

また、国立西洋美術館は、「松方コレクション」の寄贈返還を通じて、戦後の日本とフランスの文化交流の象徴となった建物であり、建設にあたり、様々な人たちの熱心な活動がありました。

子どもの年齢によっては、美術の話はまだ難しいかもしれません。しかしこの先、子どもが成長して親子で一緒に出かけた際には、今からお話するエピソードを伝えてあげてほしいと思います。

「松方コレクション」の誕生

川崎造船所(現在の川崎重工業の前身)の社長であった松方幸次郎氏は、第一次世界大戦により造船で莫大な利益を上げ、ヨーロッパ各地で絵画や彫刻作品を収集していました。これらは「松方コレクション」と呼ばれています。
松方氏が1921年にフランスを訪れたとき、クロード・モネの邸宅、アトリエに立ち寄り、並んでいた作品18点を欲しいと伝えたところ、モネは「とんでもない! 私が心血注いだ作品を一括でなんて渡せない」と断ったそうです。
そこで松方氏は「私が作品を収集するのは、自分のためではない。今、日本で絵を勉強している学生さんたちがたくさんいる。彼らは西洋美術に憧れがあるものの、ヨーロッパへの渡航費用が用意できないため、本物を見ることができない。そんな彼らのために、ぜひ日本に本物の美術作品を飾る美術館を作りたい」と伝えました。「そういうことならば」とモネも了承して譲りうけることができたそうです。
このように、松方氏は「若い画家たちに本物の西洋美術を見せてあげたい」という思いで、約1万点もの「松方コレクション」を築きました。

「松方コレクション」がフランスの国有財産に

ところが、関東大震災や昭和金融恐慌などによる川崎造船所の経営危機で、予定していた美術館の建設計画が中止となり、日本にあった「松方コレクション」の一部は差し押さえられ、散逸してしまいました。
海外には、約700点の「松方コレクション」がロンドンとパリに残されていましたが、ロンドンの倉庫にあった美術品は火災で失われてしまいました。
さらに、パリで保管されていた約400点の「松方コレクション」は、第二次世界大戦後に、敵国財産として、フランス政府に没収されてしまったのです。

国立西洋美術館ができるまで

なんとか日本に「松方コレクション」を返還できないかと当時の首相が交渉したところ、フランス政府から「この絵を飾るのにふさわしい美術館を日本政府が用意してください」という条件付きの返事がありました。
美術館を建てるとなれば、当時のお金で1億5,000万円はかかります。戦争に負けたばかりの日本政府は「国民が食べるものに困っているときにそんな大金は出せない」といって、なんとか用意できた額が500万円でした。
そこで、足りない分は寄付でまかなうことになり、約560人の美術家が寄付をしてくれる企業に対してお礼に自分たちの作品を送り、なんとかお金を作ろうと奔走しました。やっとの思いで集めた寄付金は約1億円。その活動を見た日本政府が都合をつけて約5000万円を用意したのです。
美術館の設計には、フランス・パリで活躍し、のちに20世紀を代表する近代建築の巨匠の一人といわれるル・コルビュジエが選ばれました。ル・コルビュジエの設計図をもとに、日本人の3人の弟子が協力して、美術館の建設を進め、1959年に国立西洋美術館は開館しました。

子どもたちが夢中になれるプログラムを開催

美術館というと「静かにしなければいけない場所」「子どもは連れていけない」と思われる方も多いと思います。しかし国立西洋美術館には、子どもたちが参加できる様々な企画があります。

たとえば、教育プログラムとして、「スクール・ギャラリートーク」という学校対象の観賞プログラムがあります。また、ファミリープログラムとして、常設展の絵や彫刻を、子どもと大人が一緒に楽しむプログラム「どようびじゅつ」があります。ぜひ学校や家族で、国立西洋美術館を訪れてみてください。
ほかにも上野恩賜公園には、東京国立博物館、国立科学博物館、東京都美術館、東京文化会館などがあります。日本屈指の文化施設を巡ってみてはいかがでしょうか。

子どもの頃から美術館を訪れたり、作品に関心を持つことで、豊かな感性を育むことにもつながります。美術館を訪れた後は、家に帰って家族でどんな作品が気になったか、話してみるのもいいですよ。

取材、文・間野由利子 編集:北川麻耶

全国の市区町村に届けたい声がある方はコチラ!

関連記事

孤立しがちな育児を地域ぐるみでサポートしたい【東京・中野区】
区長自らが指揮を取り、待機児童対策を実施し、女性の働ける環境をサポート。また働き方改革の1つとして区役所職員の出退勤を30分から1時間ずらして勤務できる制度を整えるなど、仕事とプライベートのバ...
自身のワンオペ育児体験から考える本当に役立つ育児支援とは?【文京区】
自治体ではじめての育児休業を取得したことで「イクメン区長」と呼ばれる文京区の成澤廣修区長。以前から家事や育児は積極的に取り組んでいるそうですが、昨年奥さんが入院したことでまさかのワンオペ育児状...
看護師によるお迎えサービス付き病児保育を23区ではじめてスタート【板橋区】
※2017年9月時点の情報です。 都内の自治体ではじめて、働くママたちを支援する「お迎えサービス付き病児保育」を実施した板橋区。子育て支援だけでなく、高齢者向けの福祉サービスも充実してい...