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学習環境を整え子どもたちの「学ぶ意欲」を高めたい【東京・品川区】

品川区

2006年に全国で初めて公立での小中一貫校を設立。「小1プロブレム」や「中1ギャップ解消」に取り組み、小学校での英語教育を導入するなど、教育の環境作りに積極的に取り組む品川区。「子どもは地域・社会全体で育てていく」と語る濱野健区長に教育にかける想いや子育て支援の取り組みについてお話を伺いました。
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ママたちの育児不安を軽減するため、妊娠中の面接相談を実施

――「しながわネウボラネットワーク」という妊娠・出産・育児に関する事業を行っているということなのですが、具体的にどのような取り組みか教えてください。
濱野区長:助産師、保健師などの資格を持った「妊産婦ネウボラ相談員」を保健センターに配置しています。妊娠中の方を対象として面談を行い、さまざまな相談をお受けしたり、母子保健情報を提供しています。初回の面談終了時に育児用品などを購入できる1万円相当のカタログギフトをプレゼントしています。また、児童センターには保健師、看護師、保育士などの資格をもった「子育てネウボラ相談員」を配置し、子育て全般の相談、子育てサービス情報の提供、他機関の紹介を行っています。

――ほかにも、ママたちをサポートする支援はありますか?
濱野区長:あります。心と体のケアに対応できる家事・育児支援のヘルパー利用に対して、サービス費の一部を助成しています。生後6ヵ月になるまでの乳児を育児中の方を対象に1時間につき1000円を上限とし20時間まで助成し、利用者から好評を得ています。また家族などから育児や家事などの支援が得られにくく、体調不良等のある初産の母子(産後2か月まで)を対象にした産後ケア(宿泊型)と、4か月未満の母子を対象に育児相談やリフレッシュできる産後ケア(日帰り型)を実施しています。

区立保育園は夜10時まで開園。働くママをサポート

――保育についてはどのようなサポートをされているのでしょうか?

濱野区長:一般的に区立保育園の預かり時間は、遅くても夜7時くらいだと思いますが、品川区の区立保育園の一部は夜10時まで開園しています。品川区は交通の便がよく、仕事がしやすいこともあり、他の区と比べても働くママが多い事情があります。ママたちが働きながら子育てできる環境を整えてあげることも行政の課題の1つだと考えています。

――保育園に通い始めるとよく子どもが体調を崩します。夜間救急のサポート状況はいかがでしょうか?

濱野区長:平日夜間なら品川区こども夜間救急室、土曜日夜間は品川区医師会休日診療所(第1、3、5土曜)、品川区こども夜間救急室(第2、4土曜)で実施しています。

学習サポート、日本の伝統文化などに触れる体験ができる「すまいるスクール」

――品川区では、全児童放課後等対策事業として「すまいるスクール」を実施しているそうですが、これはどのようなものですか?

濱野区長:学校の教室を使って放課後に子どもたちを預かり、勉強を教えたり体験学習を行うことを目的としたものです。個別学習教室では自主勉強をサポートしたり、学年ごとの勉強会を実施しています。また体験学習として、日本の伝統文化やスポーツ体験、音楽などの情操教育、さらにものづくり体験などを行うこともあります。

――1年生から6年生まで全児童が受けられるのですか?

濱野区長:はい、申し込みが必要ですが、小学校に通っている生徒なら全員受けられます。

――夜は何時までやっていますか?

濱野区長:基本は17時までです。保護者が働いているなどの事情がある場合は、最長19時まで利用できます。利用料金は17時までが250円(月額)、18時までが3,250円 (月額)、19時までが4,250円(月額)です。17時を過ぎて参加している場合は、少量の間食(市販品)を希望者に提供しています。

小中一貫教育で子どもの学習面や生活面でのつまずきをなくす

――品川区は、全国の公立で初めて小中一貫校を取り入れた区としても有名ですね。

濱野区長:そうですね。2006年からすべての区立小・中学校で小中一貫校を実施しています。

――なぜ小中一貫校をはじめようと思ったのでしょうか。

濱野区長:小学校から中学校、そして高校と子どもの成長とともに学校が変わりますよね。子どもは大人が思うよりも環境の変化に敏感です。仲が良い友達と離れて不安になったり、授業内容が専門的で難しくなったり、部活動の本格化などで学習に身が入らず、授業についていけなくなる子が出てきます。これを「中一ギャップ」といいます。
そこで小中一貫校による独自カリキュラムを組むことで、学習におけるギャップを少なくしようと考えました。さらに小中一貫校にすることで、小学校と中学校の先生同士で密な情報交換ができ、より個々の生徒に合った対応ができると考えました。

――「小1プロブレム」という言葉もありますね。これに対してはどのようにお考えですか?

濱野区長:小学校に入学したばかりの1年生が、集団行動がとれない、授業中に座っていられない、先生の話を聞かないなど学校生活になじめない状態が続くことが「小1プロブレム」です。子どもによってどこで学力が伸びるかは違いますから、学校としても子どもたちそれぞれの成長をサポートしていけたらと思います。保育園と幼稚園が小学校と連携をすることで、小学校入学後のギャップをなくし、「小1プロブレム」の解消につながっていくと考えています。

地域社会と学校のつながりを深めるコミュニティ・スクールとは?

――品川区では、子どもの9年間の義務教育を地域ぐるみで支えるコミュニティ・スクールがあるそうですが、どのようなものですか?

濱野区長:品川コミュニティ・スクールとは、保護者と地域住民、学識経験者などが学校運営に携わることで、学校の教育活動をより充実したものにしようという取り組みです。
具体的には学校運営に携わる「校区教育協働委員会」と、実際に学校支援を行う「学校支援地域本部」の2つの組織を作って運営を行っています。
「校区教育協働委員会」では教育課程の編成や教育活動について意見交換をし、「学校支援地域本部」では、ボランティアとして学習支援や部活指導、校内活動や学校内外のパトロールを行ってもらったりしています。

品川区オリジナル科目「市民科」でお金について考える授業を実施

――品川区では小学校で「市民科」という授業も実施されているそうですね。これはどんな取り組みでしょうか?

濱野区長:「市民科」というのは、市民としての素養を身につけようというものです。子どもに社会性を持ってもらいたいという発想からできました。市民科で学ぶことの1つにお金のことがあります。市民科には「ファイナンスパーク」という授業があります。そこでは仮想の人物になり、家計における意思決定を体験します。その中で「お金がどうして必要なのか」「人生にとってお金とは何なのか」ということを子どもたちは考え学んでいきます。
生活していくうえで必要な考え方を養うのが市民科の授業です。

日本語の語彙力が増える時期に英語にも触れさせたい

――2020年度から小中学校で英語の英語教育が本格的にスタートしますが、品川区はすでに2006年から英語教育に力を入れていたそうですね。

濱野区長:はい。区内の小学校1年生以上の生徒を対象に2006年に英語教育を本格導入しています。保育園や幼稚園はもとより、小学校に入ると新しい言葉をどんどん覚えますよね。その時に日本語と一緒に英語も教えれば、子どもは自然と覚えていきます。良い発音を聞いていれば、そのまま発音できるようになるのです。
私が小学生の頃、他の学科は全然駄目だったけども、英語の成績はよかったんですよ。発音もきれいにできました。自らの体験もあり、語学というのは小さい時からやっていったほうがいい思い、小学校1年から英語教育を実施しています。

給食を通じて学校と各国大使館との交流を図る「グローバル給食」

――今後の品川区の取り組みについて教えてください。

濱野区長:品川区には12の大使館と4つの領事館があることもあり、以前からグローバル化に対応できる子どもたちを育てたいと考えています。また、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控えてこれから多くの国の方々が品川区を訪れることになります。そのような背景から国際理解を深めるきっかけづくりとして、小学1年からの英語教育があります。
同時に、各国の文化にも触れさせたいということで、給食を通した食のグローバル化を実施しています。これは品川区内の大使館の方々が自国の給食を品川区の小学校に紹介する取り組みです。

――これまでどのような給食が出たのですか?

濱野区長:小学校3校でタイ王国、ザンビア共和国、セルビア共和国の大使館、ブラジル連邦共和国総領事館にご協力いただき、給食で各国の料理を出しました。子どもたちは「こういうものを食べてるの?」と初めて見る食べ物に興味津々でした。食を通じて他国への興味や関心を持つきっかけになっていけばと思います。

「子どもは社会の宝」地域・社会全体で育てていく

――最後にママ達へのメッセージをお願いします。

濱野区長:昔からある言葉ですが、「子どもは社会の宝」だと心から感じます。
私も孫がいますが、子どもたちが育っていく環境を整えるということは、とても大切なことだと思います。ママは「我が子のことは親が責任もってしっかり育てなきゃ」と身構えているかもしれませんが、子どもは地域や社会全体で育てていけばいいと思うのです。
子どもたちが成長していくうえで親はなにができるのか、保育園や幼稚園がなにができるのか、近隣の人たちとどう交わっていけばいいのか。「社会の一員としての子ども」という視点から、区としても子どもを育ててもらえる環境をサポートしたいと思います。

取材、文・長瀬由利子 編集・北川麻耶

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