待機児童数は日本一でも子育て世代に支持されるワケとは?【世田谷区】
全国で少子化が進んでいる中、出生する子どもの数は増え続け、他の区から転入してくる世帯も後を絶たない子育て世代に人気の世田谷区。出産後のママと赤ちゃんをサポートする産後ケアセンターを日本ではじめて設立するなど、「実現させるためなら自らが行動する!」世田谷区の保坂展人区長にお話を伺いました。
妊娠期から就学前まで専門家が一貫してサポート
――世田谷区は妊娠中から手厚いサポートが受けられるそうですが、どのような内容ですか?
保坂区長:世田谷では、妊娠届を出してもらった段階で妊婦さんとの面談の予約を受付けます。面談は、妊娠期から出産や育児などに対する不安などに対し、サポートしていくことを目的としています。また、面談を受けると、子育て利用券1万円分を差し上げています。このチケットは、世田谷区が審査登録しているベビーシッターや家事援助などの訪問支援団体、お母さん向けのマタニティヨガやアロママッサージ、赤ちゃん向けのリトミックなどを行う施設等で利用することができます。
現在世田谷区では、妊娠届は毎年約9,000ほど出されていますが、目指すはその100%の妊婦さんに面談を実施すること。妊娠届の窓口と連携した「世田谷版ネウボラ」が、妊娠期から切れ目のない支援の入り口として、すべての妊婦さんに対し面談を実施していくことを目指しています。
――「世田谷版ネウボラ」とはなんですか?
保坂区長:「世田谷版ネウボラ」とは、妊娠期から就学前までの乳幼児を育てる家庭を切れ目なく支えるための、区・医療・地域が連携して相談支援する、顔の見えるネットワーク体制です。その核として、保健師、母子保健コーディネーター、子ども家庭支援センター子育て応援相談員による「ネウボラ・チーム」という専門家チームが、区内5ヶ所の総合支所に配置されています。
フィンランド語で「相談・アドバイスの場所」を意味する。フィンランドでは、妊娠期から就学前までかかりつけの専門職(助産師または保健師)により、継続的に母子とその家族の相談・支援が行われている。
オリジナル保健バッグを製作、助成券の見落としを防ぐ
――「母と子の保健バッグ」は、東京都で配られる統一のものではなく、世田谷区オリジナルだそうですね。
保坂区長:そうです。以前は妊婦健康診査受診票から母親(両親)学級や産前産後の家庭訪問(さんさんサポート)チケットなど、案内から助成チケットまでのすべてが一緒に入っていました。そのため情報がありすぎて、そのときどきで必要なものが見落とされてしまっていたのです。
世田谷区オリジナルバッグは、使い道や妊娠中から出産後までの使用時期ごとに案内と助成券を分けて収納しています。妊婦さんやお母さんたちが必要な時期に必要な書類がすぐに見分けられるように作られているのです。こうした工夫の結果、産前産後の家庭訪問(さんさんサポート)の利用率も向上しました。
――他にも何か工夫はされていますか?
保坂区長:「母と子の保健バッグ」の正面には中身の書類や助成チケット、母子健康手帳について説明した動画を配信するQRコードが付いており、スマートフォンなどで見ることができます。これは世田谷区の子育て経験のある女性職員が考えたアイデアで、子育て中のお母さんたちのアンケートなどを参考に半年ほど激論を重ねて完成しました。
日本初「産後ケアセンター」を設置。世田谷区民は1日3,200円で利用可
――世田谷区には、全国初となる「産後ケアセンター」があるそうですね。どのような施設でしょうか?
保坂区長:産後4か月未満の赤ちゃんがいるお母さんを対象に、授乳や沐浴の練習、子育てで気になることの相談、産後の経過の中で生じるお母さんの気持ちの変化などに対し、24時間体制でサポートしていく施設です。宿泊(ショートステイ)と日帰り(デイケア)があり、それぞれ7日まで利用できます。利用料は通常1日32,900円かかりますが、世田谷区民なら1日3,200円です。子育て利用券も使用できます。そのほかに、医療機関に委託しているデイケア専門の施設があります。
小児医療の拠点「国立成育医療研究センター」や障害児保育園の開園
――世田谷区といえば、小児医療の拠点となる国立成育医療研究センターがありますよね?
保坂区長:国立成育医療研究センターには、出産が難しいケースの方や重度の障害がある子どもたちが全国から集まってきます。自宅で人工呼吸などの医療的ケアが必要な子どもが看護や介護を受けながら、学んだり遊んだりできます。
家族も宿泊できる施設もあるので、家族みんなが安心して過ごせるのではないかと思います。
しかし、病院から退院し、保育園に預けて仕事に復帰しようとすると、医療的ケアが必要な子どもを受け入れられる体制の整った保育園がないのが現状でした。そこで、医療的ケアを必要とする子どもたちに対し、必要な処置を行う看護師がいる児童発達支援事業所「障害児保育園ヘレン経堂」を作り、居宅訪問型保育事業との連携による長時間の預かりを開始しました。
0~2歳児が通える低年齢児保育施設を増設。3歳以降は認可保育園へ
――世田谷区といえば、待機児童ナンバー1といわれています。今後、待機児童問題に対してどのように対処していくのでしょうか?
保坂区長:世田谷区の待機児童は861人(平成29年4月1日現在)いますが、3歳以降はゼロ。今足りていないのは0、1、2歳児の子どもたちが通える保育園です。これを解消するために、0~2歳児が通える認可保育園分園や小規模保育園、認証保育所を増やし、3歳からはかならず認可保育園に入れるよう調整していく予定です。
区では、民有地を活用した保育施設整備に取組んでおり、平成25年12月以降、これまで土地・建物のオーナー様から900件以上のご相談をいただき、49園開園しております。また、保育園を作りたいという事業者の登録も170件ほどあることから、マッチングを行うなどして、保育施設整備につなげていきたいと考えています。
――政府が育児休業の期間を2年に延長しましたが、なぜでしょうか?
保坂区長:保育園に空きが無いため入園することができず、仕事復帰ができないことが理由です。他の区とともに厚生労働大臣に訴え、1年半から2年になりました。しかし、育児休業の延長がかならずしもいいとは限りません。なぜなら、2年間仕事から切り離されると、いざ会社に戻った時に会社の変化の流れについていけないという声がお母さんたちからあがったからです。そこで現在、すぐ近くで子どもをみてもらいながら仕事ができる子どもの見守り機能付きのワーキングスペースの設立を含め、多様な働き方を後押しする施策を検討しており、こうした取組みへの支援についても、国や都に要望しているところです。このワーキングスペースは、子どもが小さいうちくらいは保育所に預けるのではなく、自分で子どもをみながら、比較的短時間仕事をしたい、といった働き方を希望する保護者のニーズに応える施設になると考えています。また、この施設はお父さんも利用できるようにしたい。お父さんの利用者が増えれば、代わりにお母さんたちが会社に行くことができ、会社にも戻りやすくなります。保育園をただ増やすだけでなく、こういった場所も考えています。
増え続ける子育て世帯。5歳以下の乳幼児は毎年約1000人増
――世田谷区の子育て世帯は増えているのでしょうか?
保坂区長: ここ10年ほどで14歳以下の子どもは15,000人以上増えています。なかでも、この5年間は、5歳以下の乳幼児が毎年1,000人ずつ増えています。全国で少子化が叫ばれるなか、世田谷区では子どもの数が増え続けているのです。
子育て世帯が増えたことにより、活気のなかった商店街にも子連れの方が増えました。児童館や公園などで、子育て世代の方々が中心となり大小さまざまなイベントを開催するなど、お母さん同士の交流の場も盛んです。
子育て中のママたちへのメッセージ
――最後に、子育て中のママたちへメッセージをお願いします。
保坂区長:子育ては予想もしないことが次々と起き、自分1人の力ではどうにもならないことがあるかと思います。そんなときお母さんたちには1人で抱えてつらくなってほしくない。そのため世田谷区では、子育て経験のあるお母さんたちが地域子育て支援コーディネーターとして電話やメールで相談にのってくれる窓口を用意しています。彼女たちが子育てや妊娠中の困りごとについて一緒に考え、子育てサービスの情報提供などをお手伝いしてくれます。
お母さんたちには、子育てをうんと楽しんでほしいです。そのために必要なサポートは区が積極的に用意し、地域一体となって子どもを育てていきたいと考えています。
※引き続きママスタでは東京都23区の区長にインタビューし、それぞれの自治体の特徴をお伝えしていきます。
取材、文・長瀬由利子 編集・北川麻耶