<子どもの自傷行為>ACEs、PCEsって何?抑うつの子どもは、地域より学校で差が出る?

2学期の開始前後は子どもの自殺が多いと言われていることから、この時期は親として不安になることが増えるかもしれません。小中高生の自殺者数は、2025年で538人と過去最多となった日本。一方、家庭内で子どもの自傷行為や自殺を見つけることは非常に困難であることも最近の研究でわかってきました。
今回は公益社団法人 子どもの発達科学研究所が主催したセミナー「専門研究者×和久田学 子どもの自殺予防とウェルビーイング」の内容から、子どもの自殺や自傷行為を防ぐことについて考えます。
※本記事では自殺や自傷行為について記載しています。閲覧の際はご注意ください。
すべての子どもに大切な0次予防という視点
公益社団法人 子どもの発達科学研究所 客員研究員で、明治学院大学心理学部准教授、公認心理師、臨床心理士の足立匡基先生は「子どもの自殺が減らないのは、見つけられないからではないか」といいます。
現状の日本での対策は、「すでに自殺リスクが高いと判断した子ども」に対する、スクールカウンセラーの配置や相談窓口の設置、ゲートキーパー研修など個別対応や危機介入がメインです。しかしこうした対応では、大人に相談できた子どもや、大人が気づけた子どもしか対象になりません。足立先生は、すでに自殺を考えるほど辛くなっている子どもへのケアはもちろん、すべての子どもに対するベースとなる予防を考える0次予防の必要性を指摘します。
そこで知っておきたいのが「ACEs」と「PCEs」という2つの概念です。
ACEsとは?
ACEs(Adverse Childhood Experiences)とは、「こども期の逆境体験」という意味です。逆境体験とは、虐待や家族の精神疾患・自殺など、心の傷になるような体験のこと。ある研究によると、「虐待」「ネグレクト」「家庭の機能不全(DV目撃・依存など)」というACEsの項目が1つ増えるごとに自傷や自殺リスクが増加することがわかっています。
そこで自殺予防のために重要となるのが、病気やストレス、困難な逆境などの危険因子による悪影響を和らげ、心身の健康や回復力に良い影響を与える「保護因子」を増やすこと。それが最近注目されている「PCEs」という考え方です。
PCEsとは?子どもに肯定的な体験を
「PCEs」はACEsの悪影響を和らげる保護因子で、子どもの肯定的・前向きな体験のことです。PCEsには5つの要素があります。
・支持的な家庭(無条件の愛情と困難時に支える家庭)
・安心できる関係(親以外にも自分に関心を向ける大人)
・社会的つながり(学校・地域への帰属感と自分の役割)
・肯定的な成長機会(挑戦・達成・認められる経験と自己効力感)
・心理的安全性(家庭・学校で自己表現でき、否定されない)
このPCEsが累積するほど、子どものメンタルヘルス問題のリスクが低くなるのだそう。家庭の状況に学校から手を出すのは簡単ではないものの、学校や地域で行えるPCEsが子どもの自殺リスクを下げる可能性があるのではないかと期待されているのです。
抑うつの子どもの数は地域ではなく学校で差が出る
セミナーでは子どもの自殺や自傷行為と関連が高いものとして、不登校や抑うつについても言及されました。最近の研究では、抑うつの程度は、地域による差より学校による差のほうが大きいことがわかっています。
ソーシャル・キャピタルとは
ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)とは、信頼関係やつながりなどを、目に見えない「資本」として捉える考え方です。「この学校は安全と感じる」、「クラスメートに助けを求めることができる」といった学校や友人関係に肯定的な状態ほど、抑うつや攻撃性、インターネット依存の傾向が低いという相関分析があります。つまり学校を自分の居場所と感じ、友人や教師などと信頼関係を築けているかどうかが、子どもの心の健康に影響していることが明らかになってきているのです。
ソーシャル・キャピタルが高い学校
ではソーシャル・キャピタルが高い学校とはどのような場所なのでしょうか。具体的には、全生徒に「気にかけている大人」が最低1人いる、係や行事など参画の機会が日常的にある、困りごとを言える手段が複数ある、相談・休憩・確認が恥ずかしくない行動として承認されているといったことが挙げられます。
ソーシャル・キャピタルが高まりにくい学校
逆にソーシャル・キャピタルが高まりにくい学校もあります。そういった学校にはたとえば、参加できる子だけが参加して他の子の状況が学校から見えない、相談が「言える子」だけが使える状態になっている、頼ることが「甘え」として認識されている、決まりは「守らせる」対象で点検の機会がない、といった特徴があります。
学校への相談というと、ついスクールカウンセラーが常駐しているかどうかに注目してしまいますよね。しかし授業や行事、部活や係活動などの内容が、ソーシャル・キャピタルを高める仕組みになっているかについても注視したいところです。
子ども自身が親に助けを求めたときの注意点
セミナーでは、親が子どもの自傷行為や自殺念慮などに気付いたときや、子ども自身が親に何か助けを求めたときの注意点も挙げられていました。
まず、驚きや過度な同情は子どもに「自分の心の苦しみは異常なんだ」と感じさせてしまうため、避ける方が良いそうです。感情ではなく冷静に反応すること、叱責ではなく助けを求めた行動そのものを肯定して称賛すること。さらに直近の出来事を理由にするのではなく、何が子どもをここまで辛くさせているのかという遠因を親が想像することが大事といいます。
親や学校の先生などが子どもの自傷行為や自殺念慮などに気付いても、1人で抱えると判断を誤ることがあるそうです。もし当事者に関わることになったら、親、学校や第三者などチームで共有して、複数の大人で対処していきましょう。
<相談窓口>
◆ 厚生労働省 まもろうよこころ
◆ いのち支える相談窓口一覧(都道府県・政令指定都市別の相談窓口一覧)
文・AKI 編集・編集部 イラスト・Ponko
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