【江東区・大久保朋果区長】第3回 育児と介護のダブルケア、障がい児支援で得た経験を区の政策へ

育児と介護を同時に経験した江東区の大久保朋果区長。その実体験をもとに、子育て支援・介護支援・障がい児支援を“ひとつにつなぐ”仕組みづくりを進めています。認知症の早期発見アプリの導入や、地域で助け合うネットワークづくり、そして全校での給食無償化など、江東区の取り組みについて詳しくお話を伺いました。
── 子育てが少し落ち着いたと思ったら、今度は介護が始まる。そんな“ダブルケア世代”が増えています。大久保区長も実際に、育児と介護を同時に経験されたそうですね。
大久保朋果区長(以下、大久保区長):2人の子育ての最中に、同居していた義理の両親、つまり舅と姑が認知症を発症して……。育児と介護のダブルケアをしていました。
最初は「ちょっと様子がおかしいな」と思っても、すぐに認知症とは気づけませんでした。特に夫にとっては実の親なので、なかなか受け入れられない。一方で、私のほうが客観的に見て、「あれ? ちょっと違うな」と気づくことが多かったですね。
介護というのは、体のケアだけでなく、認知機能の変化を支える難しさがあります。実際に経験して初めて、「これは本当に大変なことなんだ」と痛感しました。
── 義理のご両親の介護経験が、今の区の政策にも生かされているそうですね。
大久保区長:介護を経験したことで、「もっと早く気づけていれば」という思いが強くなりました。そこで、江東区では昨年から声で認知機能をチェックできるアプリ「ONSEI」「ONSEIプラス」を導入しました。
スマートフォンやタブレットを使って「今日は何年何月ですか?」という質問に答えると、その受け答えから認知機能の状態を分析します。必要に応じて、地域包括支援センターにつなげる仕組みにもなっています。子どもの発達について相談できる「子ども家庭支援センター」があるように、高齢者にも早期に支援へつなげる“見守りの仕組み”を整えることで、いち早く必要な支援へつなぐことができるのです。
── 介護や育児など、複数の課題を抱える家庭も増えていますね。
大久保区長:今は介護・子育て・経済的困難が重なる家庭が本当に多いです。ひとつの窓口だけでは解決できない。だからこそ国が進めている「包括的な支援体制」が重要なのです。
江東区ではこの考え方をもとに、「第2期地域福祉計画」を策定しています。行政だけでなく、地域や民間も一緒になって“早く見つけ、早く支える”体制をつくる。それが目指す形です。
身近な相談場所として、社会福祉協議会の地域拠点(サテライト)を設け、区が補助を出しています。地域全体で支え合う仕組みを、少しずつ広げているところです。
「障害は“特別なこと”ではない」誰もが地域で学べる学校へ
── 区長就任前には障がい児支援にも携わられていましたね。
大久保区長:都の職員時代、障害分野は通算8年ほど担当しました。特に「東部療育支援センター」の運営に関わっていた頃は、医療的ケア児の支援を中心に取り組みました。
当時は制度も整っておらず、24時間ご家族が看病するケースがほとんど。現場を訪ねた際、人工呼吸器をつけた双子のお子さんを笑顔で育てるお母さんを見て、胸が熱くなりました。どんなに重い障害があっても、その子らしく生きている。その命をいかに支えていくかが行政の役割だと痛感しました。
今は、特別支援学校だけでなく、公立学校での受け入れも進めています。看護師の配置も含め、できるだけ地域で学べる環境を整えたい。「障害は“特別なこと”ではない」という考え方を、区としてこれからも大事にしていきたいです。
子どもにも先生にも優しい、江東区の給食無償化
──「学校給食費の無償化」を継続されていますね。どのような変化や反響を感じていますか?
大久保区長:給食費の無償化は、家庭の負担を減らすだけでなく、実は学校の先生たちの負担も軽くしているのです。これまでは徴収や対応に追われていましたが、手続きがなくなり、現場がとてもスムーズになりました。
食材費の高騰にも、区の判断で柔軟に対応できるようになりました。大きな環境の変化などがない限り、今後もこの取り組みは続けていきたいと思っています。
そして、江東区の誇りは“自校調理”です。すべての学校で給食を手作りしているので、できたての給食を子どもたちに届けることができます。「今日の給食、いい匂い!」という子どもたちの声が聞こえるのが、何よりも嬉しいですね。
取材、文・長瀬由利子 編集・いけがみもえ 撮影・編集部
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