絵本の朗読に音楽やトークで楽しむ「しげちゃん一座」1stアルバム『8つの宝箱~いとしの毛玉ちゃん~』【後編】
絵本トーク&ライブの楽しいステージを各地で行っている「しげちゃん一座」。女優・室井 滋さんと絵本作家・長谷川義史さん、ミュージシャンの岡 淳さん・大友 剛さんの4人から成るユニークな集団です。
前編では一座の始まりから現在の活動についてをお聞きしましたが、後編では、初のCDとなるアルバム『8つの宝箱~いとしの毛玉ちゃん~』について伺います。
4人でやっていることの匂いが伝わるといいなって思います
──お話をうかがうほどに、「ライブが観たい!」という気持ちになりますね。やっているご本人たちがとっても楽しそうですし。
室井さん「そうなんですよ。ミュージシャンとして有名になりたい、とか、この一座で儲けてやろう、みたいな気持ちはまったくなくて。ただただ楽しくてやっているんですよね。とはいえ、最近は欲が出てきました」
──今回、初のCD『8つの宝箱~いとしの毛玉ちゃん~』も出されるということですしね。
室井さん「こういうふうに『CDを出しませんか?』とお話をいただいたこともあって、『ワールドツアーをやりたいね』みたいなことを話しています(笑)」
長谷川さん「絵本を作ってライブのために歌を作って、歌がたくさんたまってきていたんですよ。それでちょうど『CDにしたいね』と言っていたときだったし、いいタイミングでした」
──初のCD、それもアルバムということは、一座の世界がそのままわかる一枚になっているのでしょうか?
室井さん「そうですね。公演であちこち行かせてもらっているんですけど、たとえば関東エリアはまだ公演数が少ないんですよ。そういうふうに、ステージを体験したことがない方々や、まだ一座を知らない方々にも、4人でやっていることの匂いが少しでも伝わるといいなと思って。『どんな一座なの?』ってよく聞かれるんですけど、口で説明してもわかりづらいんですよね。朗読だけではないし歌だけでもない、プロがいるので音楽的にはすごくちゃんとしている、っていう感じを出したいと思って」
──「ステージはジャズスタイル」とおっしゃっていましたけど、CDのレコーディングのほうはどんな感じだったんですか?
室井さん「CDは、何度もくり返し楽しんでほしいので、練りに練ったものを収録しました。いつもはトークも即興ですけど、今回はちゃんと台本も作りましたね。私から岡さんに『セリフ、もっとこんな感じで!』って、きびしく指導したりして(笑)」
長谷川さん「岡さんは、音楽のほうではすごくこだわっていましたよ。『コンピュータで打ち込むような音楽は、一座の手作り的な雰囲気に似合わないから』と、極力生の音にこだわって」
室井さん「私たちの歌も、ちょっとくらい音程が外れてもそこは味じゃないか? ってことで、加工はなしで。やっぱりいつものライブ感を出したかったんですよね」
──どれも素晴らしい歌でした! とくにおふたりのデュエットソング「演歌ウリオ」は、聴きどころ満載で。
室井さん「歌い込んでますからね。『紅白』狙ってます!」
長谷川さん「僕は必死でした(笑)。あと大変だったのは、『いとしの毛玉ちゃん』の朗読ですね。おもしろ系の絵本やったら普通にできるんですけど、この話は『マジ』やから……朗読が難しかったです」
室井さん「長谷川さんはそう言っていますけど、よかったですよ〜! オリジナルストーリーの読み聞かせをひとつ入れたい、というのは私のこだわりだったんですよ。それで絵本を書かせてもらって、CDの一番最後にそれにまつわる歌を入れました」
躊躇がないのに驚きました。プロには描けない絵だと思います
──絵本のほうは、絵が室井さんと長谷川さん、おふたりの共作となっているんですよね。
室井さん「本当なら長谷川さんにお任せするのがベストだったと思うんですけど、曲も同時進行だったので余裕がなかったんです。それで、絵本の版元である金の星社さんに『私が加わったほうが速くできるんじゃない?』と提案したら、最初は『うーん……』って悩まれちゃったんですけど(笑)。私の絵、ヘタなんですよ! 今エッセイを連載している雑誌ではイラストも描いているのに、それ以外ではどこからもイラストのオファーをもらったことがないくらい。だからダメなんだなってことはわかっているんですけど、描くのが好きなんですよ。しかも速い!」
──それで、猛アピールされたわけですね(笑)。
室井さん「結局共作でやることが決まってからは、長谷川さんのお宅にお邪魔して、イメージを話し合って。私が構想を伝えると長谷川さんが下絵を描いてくれるので、長谷川さん指導のもと、私がその上から描いていく、というやり方でした」
──そうだったんですね! 長谷川さん本来の絵とは違うのに、独特の雰囲気が残っている理由がわかりました。
長谷川さん「僕のいつもの絵とは違う、ダイナミックさとかがありますよね。室井さんが『猫がお腹出してひっくり返っているところを描きたい』とか言うんですけど、『いや、言ってることはわかるけど、そんなん描くのはどうやろうな〜?』と内心思いながら、言われたままに描くんです。そうすると『そうそう!』って。それをまた室井さんに上から加筆してもらって。普通プロではない人って、絵を描くときは躊躇するもんですけど、全然ためらわずにバンバン描いていくんですよ」
室井さん「はっはっはっ!」
長谷川さん「ぜんぶそんなふうにして、仕上げていきました。プロにはこんな絵は、描けないですよ」
室井さん「ここが精一杯です(笑)。でもすごく楽しかったので、またやりたいです」
くり返し聴いてくれるアルバムになるとうれしい
── 一座のみなさんご自身が楽しんでいるのが、アルバムからも絵本からも伝わってきます。このアルバムは、どんな人に聴いてほしいですか?
室井さん「一番に忙しいお母さんかな。この一座の自慢をしちゃいますけど、子どもたちが本当に聴いてくれるんですよ。公演をやるときって、最初にイベンターさんの方から『何歳以下はお断りにしますか?』って聞かれることがあるんですけど、うちはそういう制限はまったくなくて。『上のお子さんには聴かせたいけど赤ちゃんがいて……』っていうお母さんも、いらっしゃいますよね。小さなお子さんがよっぽど泣き叫ぶような場合は、後ろの方に行っていただくこともあるけど、実際にそんな子はいないんです。魔法にかかったみたいに、静かにちゃんと聴いてくれるんですよ。なのでこのCDを聴けば、お母さんが忙しくてかまってあげられないときもいい子にしていてくれるんじゃないかな? って思います。大友さんのところにも、小さいお子さんがいるのでテストで聴いてもらったんですけど、『ずっと食いついてます』っていってたから(笑)。たぶんうまくいくと思います」
──どこに食いついているんでしょうね(笑)? いろんな要素が詰まっているので、気になります。
長谷川さん「そうなんですよ。実際、絵本もステージも、完全に子どもだけに向けて作ったもの、というわけではないので、いろいろな楽しみ方ができるんだと思います。『絵本ライブ』というと子ども向けと思われがちなんですけど、むしろ大人や年配の方のほうが喜んでいたりするので。もちろん小さいお子さんにはまず聴いてほしいけど、お母さんにも一緒に聴いてもらいたいですね」
──最後になりますが、ママスタの読者に向けてメッセージをお願いできますか?
長谷川さん「うちにも子どもが3人いるのでよくわかるんですけど、子育てしているときって大変でしょ? 大変やなーって思いますけど、先輩方からは『そういうときが一番ええやんで』って言われるんですよ。でもそれ、本当だなって思います。大人になったら離れちゃうし、今の時期にしか楽しめないことがいっぱいあるから。忙しくて大変なんだけど、お母さんには子育てを楽しんでほしいなって思います」
──こんなアルバムを一緒に楽しむことができるのも、子育てをしているうちだけのことですよね。
長谷川さん「そうそう。子どもって、同じ絵本ばっかり持ってきますよね? 親は『またこれかい!』って思うんですけど、子どもは何回でもやるでしょう? このCDもそんな感じだと思うんですよ。僕も子どものころに『巨人の星』のソノシートを買ってもらって、アホみたいにそればっかり聴いていたんですよ。これもそんな感じになるんじゃないかな? 演歌とかも入っているので、楽しんでもらえると思います」
──演歌は子どもの心に響きますよね。室井さんのコブシも真似したくなるかも(笑)。
室井さん「ぜひ! これではじめて私たちの存在を知ってくださった方は、お近くの公演に、ぜひ来ていただきたいんですよ。そのうえで、おうちで一度CDを聴くと、さらに楽しくなるんじゃないかと思います。『しげちゃん一座』の入門編になっているので、どうぞよろしくお願いいたします」
タイトル通り、たくさんの小さな宝箱が詰まったアルバムになりました。『ウリオ』『きらきら は・は・歯』(世界文化社)、『チンチンボンボさん』(絵本館)など、これまでおふたりが共作してきた絵本にまつわる楽曲も収録されているので、目と耳で同時に楽しむのもおすすめですよ。
取材・文/鈴木麻子 撮影/泉三郎
しげちゃん一座 1stアルバム『8つの宝箱〜いとしの毛玉ちゃん〜』(COCX-39764)11月23日リリース
絵本『いとしの毛玉ちゃん』(金の星社) 室井滋:作/長谷川義史&むろいしげる:絵 11月23日発売
定価(本体1,300円+税) ISBN978-4-323-07363-7
文・編集部