小学校のお受験教室に通った結果、「お受験やめました」という話
娘が年中になった頃、まだ受験するか迷っていたけれど経験になればと思い、某幼児教室の門を叩きました。校長先生はとても誠実な方で指導の先生方も明るく、今でも尊敬していますが、結果的に、うちの子はギリギリで受験をやめました。
「受験で判断されるものとはなんでしょう?」そんな疑問が残ったからです。
お受験を辞退した「5つの理由」
指示行動
指示行動というものが、お受験では必要になってきます。
「今から、ピっという笛が鳴ったら、ツーステップでピンクとブルーのコーンを回って、赤いボールにタッチして、帰りはスキップで帰ってきましょう。帰ってきたら、白い線の前に体育座りをして待ちましょう」「タイコを三回たたいたら丸い積み木を、タンバリンを二回叩いたら四角い積み木をもってきましょう」という感じのものです。
実際に見学していたら、親の私も憶えきれないような複数の指示。なんなくこなしていく子が多い中、うちの子は戸惑っていました。
幼稚園や保育園での指導
一方、幼稚園や保育園では、「1つずつ指示する」方法があります。
「まず手を洗いましょう」と指示
→手を洗ったことを見届ける
「コップをとりにいきましょう」と指示
→コップを取ってきたことを見届ける
といった具合です。
これは子どもたちを速やかに行動させるためであると同時に、一度に複数の指示をすると動けなくなる子どもがいるからです。お受験における指示行動と、真逆といってもいいでしょう。
「ペケ」に対する疑問
ある日、授業の中で「白い線に並びましょう」という場面で、何人かの上履きの先がはみ出ていました。すると、「そこ!ちょっとはみ出てます。ちゃんと白い線の内側にならばないと、ペケです!」
両手で大きなバッテンをされて、すごすごと後ろに下がる子供たち。
「ペケ?」
5才の子が、白い線からほんの少しはみ出しただけで、両手でバツをするほどのペケ?
その言葉に違和感をおぼえたのは私だけでしょうか。
わかってるんです。お受験というのはそういうものだと。それがおかしいとどこかで思いながらも指導する先生方、親御さんもいることを。
でも私は、それを流すことができませんでした。
「行きたくない」と言い出したこと
そのうち娘も「行きたくない」と言い出しました。「クラスの他のおともだちはどうなの? みんな嫌だって言ってるの?」と私が聞くと、「みんな楽しいって言うの」との返事。
そうなんだ。楽しいんだ。
うちの子が変わってるのかなと思いながら、「行きたくない」と数回言っただけで習い事をやめてしまうと、そのあとも習い事が続かなくなってしまうかも、という気持ちもあり、もう少し通わせることにしました。
「受験はムリかな」という先生からの空気
ある時の授業は先生から「さあ、これからみんな、アヒルのかっこうをして、歩いてみましょう」との指示がありました。笛が吹かれると、子どもたちは一斉によちよち歩きでグワッグワッと声をあげながら動き始めました。
一人だけ、スタートラインから動かない子がいます。うちの子です。じっと手を見ていました。
先生方の中に「あの子は、受験はムリかな」という空気が漂っていたのを感じました。
家に帰ってから娘に「なぜあの時スタートラインで、手を見ていたの?」と聞きました。すると娘は「アヒルの手ってどうやってすればいいか、考えてたの」と答えました。みんなが一斉によちよち歩きをする中、娘はアヒルの水かきをどう表現すればいいかを考えていたのです。
その瞬間、「この子は受験という世界の中では『ペケ』にされる。だけど違う世界では素晴らしい感性を発揮できるかもしれない」と思いました。(うちの子が素晴らしいという話ではありません)
無理にお受験クラスの枠にはめてストレスフルになり、結果受験にも失敗となる前に、その子にあった道筋をもういちど考えてみるのも本当に大切なことだと思うのです。まだ5才、6才では何も決まらない。有名な小学校に受かって大学まで安泰、と思った子が中学や高校、大学、社会人になって壁にぶつかることはよくある話です。
「小学校受験はやめます」と決断
それが年長の春くらいだったでしょうか。
校長先生には、「受験はしませんが、最後まで通わせます」と言いました。クラスの足を引っ張るかもしれないのに、快く受け入れてくださったことには感謝しています。
お受験教室を否定はしませんし、楽しく通えて結果を出せるお子さんにとっては、むしろその後のびのびと学校生活を送れるわけですから、いい選択だと思います。でも短い時間で生徒を選ばなければならない小学校からすれば仕方のないこととはいえ、とても狭い範囲で子どもをジャッジされるお受験。子どもの未来って、その狭き門だけがスタートではありません。
娘は受験をやめて公立小学校に入学し、楽しく通っています。もちろんいろいろな小さな問題、ケンカ、いじわるなど様々な壁にぶつかりながら。でも「お受験していたら」という後悔は全くありませんし、彼女たちの人生はほんとにまだまだ始まりの一歩、いろんな可能性に満ちているなあと思うのです。
文・yuki イラスト・んぎまむ