パパが育児休業をとる前に知っておきたい。ママと同じように子育てできなくてもいい!?【後編】
前回からの続き。赤ちゃんの誕生を前に、パパが「育児休業」を取得しようと決めたご夫婦もいらっしゃるでしょう。では育児休業の間、パパは何をして、どんな風に過ごすかを考えたことがありますか? ママとどんな話をして準備を進めていますか?
パパやママの不安を解消すべく開催された「産後パパ 育休の過ごし方」オンラインセミナー。これから赤ちゃんを迎えるにあたり、育児休業を取ろうと考えているご夫婦を対象としたもので、セミナー前半では、産後に起こりやすい夫婦のすれ違いやその対処法などを具体的に学びました。助産師であり、NPO法人BSケア代表でもある寺田恵子さんのお話はいよいよ核心、パパの育児休業中の過ごし方へと進んでいきます。
「妻が変わってしまった……」ママの変化に戸惑うパパ続出
産後ママの心身の変化を目の当たりにし、「妻が変わってしまった」と悲嘆に暮れるパパたち。これまで自分だけに向けられていた視線が、出産した途端、赤ちゃんに独占されてしまう。孤独や寂しさを抱くのもわからなくはありません。
でもそうやって夫婦の関係性が変わっていくことが、親になることであり、家族になるということなのかもしれません。だからこそ、産後のママの心身の変化を知っておかないと、パパが無駄に傷付いてしまったり、失望してしまったりもしそうです。産前はママや赤ちゃんへのサポートをする気満々だったのに、産後そんな気持ちになれなくなってしまった……そんな状況を生んでしまうのは避けたいですよね。
では産後のママの心身の変化を知ったうえで、パパは育休中にどう振舞えばいいののでしょうか。
育休中の過ごし方1:パパへのお願いは、具体的に細かく
寺田さんからはこんな提案がありました。「パパにやってほしいことを具体的に、そして細かく伝えること」。
たとえば寝る前に洗濯機のタイマーをオンにして、朝起きたら洗濯をほして、朝食の準備をし、お皿を洗って、掃除をして、買い物に行って、など……。やってほしいことを書き出すなどして、細かく、かつわかりやすいように提示することが大事なのだそう。普段は何気なくやっている家事も、いざ書き出してみるとその内容やボリュームにびっくりすることも多いもの。可視化や言語化しないままでは、パパも何をどうサポートしていいかわからないかもしれません。
さらにこれまであまり家事に積極的に関わってこなかったパートナーの場合、お願いしたからといってすぐにできるようになるわけではありません。初めのうちはママのレクチャーが必要なときもあるはず。少しずつやれることが増えたらいいなくらいの気もちで、期待しすぎないことも大切になってきそうです。パパを見張るのではなく、見守るような気持ちで、サポートをお願いできたらいいですね。
育休中の過ごし方2:ママと同じようにパパが子育てしなくてもいい!?
一方で、パパにお願いしたいことを具体的に伝えるのは必要だけれど、「パパにママとまったく同じように、子育てに関わってほしいと望むのは違うかもしれません」と寺田さん。たとえば授乳は基本的にママの役割だと思ってほしい。パパに子育てに参加してほしいからという理由で、わざわざ母乳からミルクに変える必要はないと考えているということでした。
BSケアは、母乳育児をしたいママのサポート活動に精力的に取り組んでいるNPO法人です。ママたちが母乳育児のヒントを得られる動画を公開し、月に一度無料でオンラインで参加できる母乳育児相談会なども実施されています。
そのような活動をされている寺田さんがここのところ危惧されているのは、母乳育児をあきらめてしまうママたちの多さ。「夜中の授乳をパパと分担したい」「ママひとりで出かける時間がほしい」などの理由から生まれている現状でもありそうです。しかしWHO(世界保健機関)では、赤ちゃんの健やかな成長のために母乳育児を推奨しています。
必要に迫られて人工ミルクに頼らなければならないケースはあるとは思いますが、パパとママが「母乳育児をしたい」という望みを持っているのであれば、それが実現できるようなサポートをおこなっていくこと。それもパパが育児に関わるうえでの大切な要素となってきそうです。
育休中の過ごし方3:睡眠時間の確保は必須
ママは妊娠後期になると夜中に何度も目が覚めるなど、産後の生活に備えて、体が段階的に変化をしていきます。しかし男性は妊娠という過程を踏まずに親になるため、すぐに赤ちゃんのお世話をできる体にはならないのだそう。夜勤などのシフト勤務に慣れている人ならともかく、一般的な男性は夜中に細切れに起きるのは大変なこと。赤ちゃんが夜中に泣いてもパッと起きれない。頭がボーっとしてうまくおむつが替えられない、そんなこともありそうです。
そしてようやく子育て生活に慣れた頃には育児休業期間が終わり、社会へと戻る時期がやってきます。そういった環境の急激な変化によって、パパが産後うつになるケースも少なくないとのこと。「すべて夫婦で分担!」「パパとママは同じバランスで子育て!」と躍起になるのではなく、今日はママがしっかり休む日、今日はパパもしっかり休む日。またママはここを大事に赤ちゃんと関わる、ここからはパパにお願いしたい部分など、夫婦の状況に合わせて、また個々の体の元気度に合わせて、臨機応変に過ごす大切さも見えてきました。
また育休中は、夫婦が一緒に過ごす時間が増えるからこそ、たまには別部屋で就寝するなど、ひとり時間を確保する大切さについても言及がありました。出産はゴールではなくスタート。数日で終わるものではないため、どうやったら長丁場の子育て期を心地よく過ごしていけるのかを、夫婦で考えて試行錯誤していけるといいですね。
知識があってもうまくいかないのが子育て
今回のセミナーにはパパ、そしてご夫婦で参加されている方もいらっしゃいました。あるパパからは「妻の変化を知れたことで、自分がどう接していけばいいかイメージが湧きました」という感想が寄せられました。ご夫婦で参加された方からは「知っていてもうまくいかないことも出てくると思う。思い通りいかないことはあるかもしれないけれど、だからこそ学べてよかった」という声が上がりました。
教科書どおりにいかないのが子育て。だからこそ事前に学ぶことに大きな意義があります。うまくいかないときに「これって、あのとき言われていた時期のことかも」「今すごくしんどいけれど、産後だから、こうなるのは当たり前のこと」そんな風に、客観的な視点を持てるのは、知識や情報を持っているからこそではないでしょうか。
スマホをひらけば、たくさんの情報にアクセスすることができるようになりましたが、残念ながらそれらが自分の今の辛さや大変さを助けてくれるものばかりではありません。産後のセンシティブな時期こそ、良質な情報と知識を。そんなことをあらためて感じた2時間のセミナーでした。
同時に、ママだけが頑張ろうとしないこと、夫婦だけでなんとかしようとしないことも重要かもしれません。身の回りには、頼れる助産師さんや産後をサポートしてくれる人がたくさんいます。事前にそういった情報を収集し、繋がりをつくっておくことも大切になってきそうです。
取材、文・Natsu 編集・しらたまよ 取材協力、監修・NPO法人 BSケア