癌におかされた母親が幼い娘に「生きる力」を養わせた感動の物語『絵本 はなちゃんのみそ汁』
がんにおかされた母親が余命を覚悟し、5歳の娘・はなに包丁をにぎらせ台所に立たせた。それは、確実に死を迎える自身が、娘に残せる最後のメッセージ、「ひとりで生きる力」を伝えるためでした。
24時間テレビでドラマ化され、広末涼子さん主演でこの冬、映画も公開される『はなちゃんのみそ汁』の絵本が9月17日に発売になりました。この絵本は、原作のうち、自分の死を目前にした母親が娘の自立を考え、厳しすぎるかと葛藤しながらも、子どもに「生きる力」を養わせた部分を物語にしています。
そんな絵本の内容にまつわるエピソードを著者の魚戸おさむさんに伺いました。
―絵本発売おめでとうございます! 魚戸さんは、はなちゃんのご家族とも交流があるそうですが、どういった経緯で絵本となったのですか?
ある時、食育のことを深く知るために西日本新聞社に電話をして、取材にいったことがあるんです。そこで初めて会ったのが食育企画のご担当をされていた安武信吾さん(はなちゃんのお父さん)でした。その後、安武さんの自宅に行ったり、食育関連の施設などに一緒に伺ったりしました。そんな交流をつづける中で、安武さんの原作である『はなちゃんのみそ汁』を絵本にしたいね、と語り合い、数年越しに実現させた企画でした。
安武さんの奥さま、つまりはなちゃんのママの千恵さんに初めて会った時、彼女はもうがんで闘病されている最中でした。しかしその時はまだお元気そうで、痩せているわけでもなく、本当に病気なの?というくらいの見た目でした。ホワ~ンとした感じの、会っていて心が安らぐような感じの可愛い人でした。原作(※『はなちゃんのみそ汁』文藝春秋)に書かれていたハードな闘病生活をやっていたとは、当時知りませんでした。後で奥さんのブログや安武さんが書かれた本を読んで初めて知ったことが多いんですよ。
―はなちゃんのお母さんは、おみそ汁の作り方など、子どもが身の回りのことを一人でできるようになるまで見届け、亡くなりました。この絵本を描かれるとき、どのようなことをイメージされましたか?
この絵本の内容は、軽い話ではありません。ですので、漫画のように黒い輪郭線を描いてカチッと色を塗るのではなく、読んだ人が抱くイメージが重くなりすぎないよう、なんとなくホワンとしたイメージにしたいと思っていました。そのためにいくつもの画材を選び、スタッフといろいろ試し描きをしてから原稿を描きました。
ただ、パソコンで絵を描くのではなく、アナログなので一か所間違うと、全部描き直さなければならなくて、実際に何枚かスタッフに描き直してもらったりしたこともありました。
―はなちゃんのみそ汁を読んで、おみそ汁を飲みたい・作ってみたい…と思う方も多いと思います。そんな読者に向けてメッセージをお願いいたします。
みそ汁といっても、出汁(だし)があって味噌があって具材があるじゃないですか。みそ汁だけでも立派な料理だと思っているんです。
具材もいろいろ工夫できる。みそ汁とご飯だけで食事が出来ちゃう、そういう意味で日本人の料理の基本。料理と思っていない人もいるかもしれないけれど、僕は日本人の料理の基となっているのがみそ汁だと思っています。それをぜひ子どもたちに教えていって欲しいと思います。
知人の女性に、単身赴任のご主人が帰ってくるときに、子どもにお弁当を作らせてみたらどうかと提案したことがありました。ご主人のために小学校の娘さんがひとりで生まれて初めてお弁当を作り、帰ってきたお父さんに出したそうですが、大喜びだったそうです。作った娘さんも一緒になってうれしがり、いつも静かなお父さんが今までにないほどおしゃべりしたそうです。
子どもに料理をしてもらうというのは本当にオススメですね。火や包丁を使わせるのは危ないからと、どうしてもデメリットの方ばかり、大人は気にしますが、それはどんな事にも付きものではないでしょうか。それよりも気づきや感動、感謝などメリットが料理にはいっぱいあるんですよ。
絵本の最後に、はなちゃん親子が監修してくれたお味噌汁のレシピをつけましたので、ぜひお母さんと一緒に作って欲しいですね。
―ありがとうございました。お味噌汁をきっかけに家族のコミュニケーションが広がる、そんな素晴らしいお話ですね。
皆様もお子さんと一緒に絵本を読み、お味噌汁を作ってみてはいかがでしょうか?きっと楽しいですよ。
文・山田由香子