かつて一時保護所に入所した私……これからの一時保護所に求めたいこと
「虐待されているなら、早く保護して助けてあげて」子どもの安全を思うなら、みんなそう思いますよね。子どもの命を守るために必要な措置です。
では保護された子どもはその後どうなるか、想像したことはありますか?
子どもたちは児童相談所を経由し、子どもを一時的に保護する施設である「一時保護所」に案内されることとなります。しかし無事保護されたから一件落着、というわけではありません。子どもにとって、保護された後がまた、戦いとなるのです。
一般の人にとってはあまり聞く機会がないであろう、「一時保護所の体験談」。私の経験をお伝えします。
一時保護所に保護されてからの生活とは?
一時保護所とは、児童相談所に付設、もしくは児童相談所と密接な連携が保てる範囲内に設置された施設です。虐待、 置去り、非行などの理由により、子どもを一時的に保護する役割を持っています。
生活の基本
一時保護された子どもは、その日から突然集団生活が始まります。乳幼児から思春期の子どもまでと幅広い年齢層の子どもたちがいるなか、規則正しい生活を基本に、それぞれの施設の規律に従って生活することになります。私物は禁止です。
保護期間
期間は2か月を超えてはいけませんが、必要な場合は延長することができます。一時保護所を出るときは、里親先、または実家庭へ戻る場合と、他の社会的養護を行う施設に処遇が決まるときです。
許可のない外出は禁止
保護されている間、施設からは許可なく外出できません。子どもの安全や逃走を防ぐ目的のため、窓や扉を施錠してる施設もあります。学校にも通えません。
私の入所体験「突然やってくる一期一会の長期合宿」
小学生の頃、家庭の事情で3回ほど、2か所の一時保護所に入所しました。約30年前の体験談であること、また全国にある施設の中の2か所を見た感想なので、全ての施設に当てはまるとは限らないことをご承知おきください。
一時保護所入所前
児童相談所のケースワーカーから説明を受け、半裸になり身体検査を受けました。アザなどの確認をする必要があったのかもしれません。女の子の私に対して女性職員が担当になったとはいえ、初対面の人の前で裸になるのは嫌だったことを覚えています。
私物は下着も含めて全て没収され、新品の下着3枚と施設で用意された服に着替えます。私物禁止は持ち物の紛失を防ぐためですが、子どもにとっては没収も同然ですから、丁寧に説明されないと恐怖を感じるかもしれません。
緊急に保護されたときは友達に別れの挨拶もできませんでした。
一時保育所入所時の印象
集団生活に突然混じる、印象はそんな感じです。
入所、退所が慌ただしく、特に時間を使って紹介されることはなかったと思います。泣き叫ぶ子どももいれば、黙々と遊んだり本を読んだりしている子ども、自慢の金髪を鏡でいじってる子ども、いろんな子どもがいました。施設で仲良くできる友達ができるときもありましたし、全く話せる友達がいなかったときもありました。
一日のタイムスケジュールは全て管理され、おやつやテレビの時間も決まっていました。施設内から自由に連絡を取ることもできません。外出禁止、私物は没収、施設の規律……。24時間ずっと一緒に軟禁状態です。悪いことは何もしてないけど、まるで囚人になった気分でした。
お世話をする職員さんは常に忙しそうです。ゆっくり何かを相談できるような感じではなかったです。
学習が遅れる
学校ではないので、終わりがなく登校もできません。施設内で授業はありません。入所中は学習タイムに市販のドリルをやっていました。
退所後、学校で学習の遅れを取り戻すのが大変だった記憶があります。
抵抗があったこと、最悪だったこと
ちょっと抵抗があったのは、突然知り合った人たちと、その日から一緒にお風呂に入ることです。修学旅行のそれとは違って、一時保護されて不安な状態の時だからこそ、気が重いのです。私より後に入所した女の子は、どうしてもパンツを脱ぐことができず、パンツを履いたまま風呂に入っていました。
最悪だったのは上級生で威圧的な女の子がいたことです。彼女に目をつけられると、肩身の狭い思いで過ごさなければなりませんでした。
一時保護所に求めたいのは「退所後のフォロー」
一時保護所は、子どもの安全を守る役割のもと、原則非公開の施設です。内部を知る人や入所した子どもしか現状を知らないため、施設によって対応や規律に格差があると、一時保護所に関する著書がある慎泰俊氏は指摘しています。
一時保護所には非行や問題行動が理由で入所してくる子どももいれば、ひどく虐待されて怯えながら入所してくる子どももいます。同じ場所で生活し、同じ規律で同じように対応するには無理が生じる場合があります。入所したこと自体がトラウマになった子どももいるようです。また入所が長期化すれば学習面の遅れの問題も深刻です。
「子どもを保護する、子どもの安全を守る」という目的と「子どもの自由」という相反する課題に対し、入所中にすべて対応することは厳しいかもしれません。しかし退所後の生活のケアやフォローにも手厚く対応する仕組みが今後必要なのではと私は考えます。
一時保護された子どもは、一時保護の事実だけでも、今後の生活へのハンデとなってしまいます。一時保護所に預けるような事態になる前に、虐待などの問題を解決する社会を願ってやみません。
文・上野りゅうじん 編集・しらたまよ
参考サイト:厚生労働省 第9回 子ども家庭福祉人材の専門性確保WG 「児童相談所(全国209カ所)における弁護士の活用状況(平成28年4月1日現在)」(PDF)