<誰にも言えない?>子どもの障がいを受け入れられないときは何をしたらいい?障害児支援の専門家に聞く
前回からの続き。子どもの発達の遅れに悩まないママはいないでしょう。幼稚園や保育園の頃は遊ぶことに集中できますが、小学校に入れば勉強が始まります。「発達の遅れから授業についていけないのではないか」と思ったときに選択肢となるのが特別支援学校や特別支援学級。今回は障害児支援を行っているダンウェイ株式会社の高橋陽子さんに「うちの子は特別支援学級に入れるべきなの?」と悩むママたちへの、具体的なアドバイスをもらいました。
子どもに障がいがあると認めることは非常にハードルが高い
――特別支援学級に在籍する子どもの数が増えているそうですが、逆に「特別支援学級に入れたくない」という悩みはあるのでしょうか。
高橋陽子さん(以下、高橋さん):「普通のクラスに行かせたい」という悩みもあれば「特別支援学級に行かせたい」という悩みも両方聞きます。私にも知的障害がある息子がいるのでよくわかるのですが、子どもに障がいがあることを親が認めるのはものすごくハードルが高いと思います。特に小学校に入る前くらいの小さな年齢だと、親が認めるか認めないかというのは大きな決断。「まだこんなに小さいのに一生障がいなの?」と思い悩み、健常児の世界とのとてつもない隔たりを感じたり夢見ていたイメージがガラリと変わったり、他人と比べたり。私も当時は絶望的な気持ちになっていました。ただ子どもが自分の特性を生かして将来自立して生きていくことや、人生の選択肢を広げることはとても大事です。そのためにも特別支援学校や特別支援学級は存在すると思います。昔よりハードルは下がっていて「特別支援学級に入れたい」と考える親御様は増えてきている印象です。
――特別支援学校や特別支援学級を選択するハードルが下がっているというのは、何が影響しているのでしょうか。
高橋さん:子どもの障がいに対する学校の対応などポジティブな情報も増えてきていますし、子どもに配慮して個別に見てくれる安心感を多くの親御様が認識しているのだと思います。他の子どもと交流するクラスと障がいのある子どもたちを支援するクラスの2つがあることで、「体育はみんなと過ごせて算数は特別支援学級で学べるなど個別対応してくれるのでありがたい」という親御様の声もよく聞かれますね。
――特別支援学校か小学校の特別支援学級か、小学校の普通クラスか特別支援学級か。それぞれで悩んだらまずは何をしたらいいのでしょう。
高橋さん:教育委員会に接点がない場合は、役所など行政に相談するのがよいと思います。そこから資料をもらえたり学校の選択肢を教えてもらえたり、相談機関に繋いでもらえたりします。幼稚園や保育園がその地域の小学校と接点があって詳しいケースもあるので、園に聞いてみるのもいいですね。すでに療育に通っている場合は、そこでもいろいろと教えてもらえるでしょう。本やメディアで情報を調べたり、同じような状況を抱える親御様の集まりや勉強会、イベントに行ってみたりするのもおすすめです。その地域に特別支援学校があるかどうか、障がいの診断がなくても特別支援学級に入れるかどうかなどは各自治体や地域によってかなり幅がありますから、まずは行政に相談することが大事です。
入学してから「やっぱり特別支援学級に行かせたい」となったら?
――「入学時点では普通のクラスにいたけどやっぱり算数だけは特別支援学級に入れたい」といった要望も叶えてもらえるのでしょうか。
高橋さん:基本的に教育委員会を通して許可が出れば可能です。文部科学省は「配慮の必要な子どもには適切な配慮を」という通達を出しているので本当はすぐに対応しなければなりません。しかし先生の配置が変わるので、すぐに対応できないことや受け入れきれないことはどうしても発生してしまいます。準備期間も、長期休み明けや次の年度というように学校や自治体によって差があります。一方で自傷行為や暴れてしまうなど緊急性が高い場合には、早急に対応してもらう事例もあります。
――要望がすぐには叶わない可能性があると考えておくほうがよいのですね。
高橋さん:早い実現は難しいかもしれませんが、希望があるなら早めに相談しておくことが大切です。たとえば「普通のクラスに行かせるけれども特別支援学級に行く可能性もある」という場合には、就学前でも教育委員会や入学してからでも先生に相談しておくほうがいいですね。
――逆に「特別支援学級にいたけれども普通のクラスに入れたい」という場合はどうでしょうか。
高橋さん:普通級に入れてうまくいく場合もあれば学びに困り感がでる場合もありますから、子どもの状況を見て判断されると思います。普通級では約30人前後の子どもを先生が1人で見ています。そこに先生の加配の必要もなく入れるのであれば特に問題ないでしょう。しかし普通級の中で先生がもう1人必要となれば、かなり実現が厳しいと思います。
――「普通の小学校にいたけど特別支援学校に入れたい」という場合もありますか。
高橋さん:その要望はとてもハードルが高いと思います。特別支援学校の小学部は、安全配慮の面で受け入れられる人数が少ないのです。特別支援学校に入学した子どもが他の学校に転校するケースはほとんどないので、基本的には席が空きません。小学校は特別支援学級で中学校は特別支援学校に行くというのはまだ可能性はありますが、やはり普通の中学校から特別支援学校への転校は難しい場合があります。もし転校の可能性が少しでもあるなら、事前に自治体の教育委員会に聞いておくのがいいと思います。
子どもにお手伝いをさせて得意なことを見つけてあげて
――「特性や個性に合った適切な学びをさせるべき」と頭ではわかっていても「普通の小学校で普通に授業を受けてほしい」という思いから脱却するのはとても難しいことだと思います。高橋さんはどのように前に進んでいきましたか?
高橋さん:私も息子に知的障がいがあるとわかったときに受け入れられず、殻に閉じこもっていました。将来のために今どうしたらいいのかと漠然とした不安を抱えていたとき、ある方から「今は子どもにたくさんお手伝いをやらせてあげて」と言われたんです。掃除でも買い物でもいいからお手伝いの中で役割を渡してあげたら、子どもは達成感と喜びを得てできることが増えていく、と。それがすごく腑に落ちたんですよね。「なんでもかんでもやってあげるのではなく、お手伝いをさせて経験を積み重ねていき、できたら褒めてあげればいいんだ」と思えて心がすごく軽くなりました。いろんな悩みがあると思いますが、子どもは誰もが得意なことを持っています。得意なことを見つけていくとそこから苦手なこともわかっていき、生きやすくなっていくと思います。
――最後に、障がいのあるお子さんを持つママたちにメッセージをお願いします。
高橋さん:積極的に情報を取りに行くと「こんな選択肢もあるんだ」、「うちの子にはこういう学びをさせてあげればいいんだ」と視界も広がると思います。特別支援学校や特別支援学級では親同士も繋がりますし、学校でできない学びがあったとしても放課後等ディサービスもあるので、うまく組み合わせていただければと思います。それでも苦しいときは周りにどんどん頼ってください。子どもの障がいは周囲にはなかなか言いにくいことかもしれませんが、私は打ち明けたことで楽になり扉が開けました。そこからは意外とやるべきことがわかり、他の方に頼ることもできるようになったので、悩まずに前に進めることが増えていきました。自分たちだけで抱え込まないで、子どもは必ず成長しますから。
取材、文・AKI 編集・編集部 イラスト・マメ美