【産婦人科医・重見大介先生】いま気になる「産後うつ」の問題と対策・第1回
医療は日々進化していっているというのに、女性が抱える健康に関する問題や育児に関する課題が一向に減る気配はありません。特にコロナ禍で産後のママたちが、心の不調を訴えるケースが増えてきているとのことです。心の不調は、本人も周りの人も気を付けておくべきことです。産婦人科医の重見大介先生に、産後うつについて詳しく伺いました。
産婦人科・女性の健康で注目したい2つの問題
——重見先生は、ニュースレターやSNSで、女性の健康や産婦人科関連のさまざまなトピックについて発信されています。今特に注目したい女性関係の問題は、どのようなものがあげられますか?
重見大介先生(以下、重見先生):正直なところ、あげるとキリがないほど多くの課題があります。ただ今、しいてあげるとすれば、妊娠出産時期に起こる「うつ」の問題です。
——産前産後のしんどいときをママたちはひとりで乗り切る方も多いでしょう。どのような理由で産後のママたちは「うつ」になってしまうのですか?
重見先生:特に新型コロナウイルス感染症の流行以降、世界的に見ても妊娠出産時期の「うつ」が促進していることがデータからもわかってきています。
産後の訪問が対面で受けられなかったり、自治体などで相談や対話をする機会が得られなかったり。ママ友とのコミュニケーションも極力控える人が増えたことなどもあって、家庭内に孤立してしまうママたちが増えてしまいました。そのせいで、かなり多くのママたちがツライ状況に陥っていたのではないかと思います。
最近では、産婦人科に対するマイナスイメージによる受診率の低下の問題も多少影響しているかも、と感じることがあります。
——婦人科に対するマイナスイメージによる受診率の低下問題とはどのようなことでしょうか。
重見先生:オンライン相談を通じて私も実感するようになりましたが、産婦人科では多くの女性が、デリカシーのないことを言われるなど、不快な経験をしているようです。そのような産婦人科への嫌悪感や不安などから、「産婦人科には行きたくない」「定期健診に行くのはやめました」などと聞きます。医療者である私たちにとっては非常に耳が痛い話です……。
さらに問題となるのは、このような声は病院で働いているだけだと私たち医療者の耳に入ってこないことです。受診してもらわなければ、産婦人科にマイナスイメージを持っている女性たちの存在すら私たちにはわからないんです。私は「産婦人科オンライン」という相談も行っていて、実際に産婦人科へ行けない患者さんと出会ったことがあったため、この問題に気づけましたが……。これは、実は隠れた大きな問題だなと感じていますね。
産後うつに対する問題の解決を目指すさまざまな取り組み
——産後うつは深刻な問題ですよね。問題解決に向けて、どのようなアプローチや活動がなされているのでしょうか?
重見先生:産後うつに関しては私たちだけでなく、行政などでもすでにさまざまな取り組みが行われているんです。妊娠中から医学的に見てハイリスクな方やひとり親家庭の方、精神疾患や障害をおもちの方などには、なるべく自治体の方々と一緒に連携してフォローしていっています。
産後の健診に関しても、昔は1カ月健診からスタートだったところ、今は産後2週間健診で一度様子を伺う流れになりました。このように、なにか心配なことを抱えている方を拾い上げられないかという取り組みが、この数年でいろいろ増えていっています。
――早めのフォローアップがあるのは素晴らしいと思うのですが、うつはなかなか治らないイメージがあります。
重見先生:そうですね、産後うつは厄介なものです。産後1カ月が一番心配される時期ではありますが、それ以降の時期も継続してツライ思いをされている方が多いことが研究によって浮き彫りになっています。産後1年近くは、うつの発生に注意が必要ということですね。
――そのような方々に、どのような支援が必要なのでしょうか?
重見先生:「長期的なフォローアップ」ではないでしょうか。現状、行政や自治体の方々も、心配な方には訪問や電話などでフォローをしてくれていますが、当然すべての方のフォローをすることは不可能です。どうしてもハイリスクな方へのアプローチが優先されます。
そこで現在行政が掲げている「伴走型相談支援」、これこそが理想形になるのではないかと考えています。伴走型相談支援は、0~2歳の低年齢期に焦点を当てて、妊娠時から出産・子育てまで一貫して相談に応じ、必要があれば支援につなげるという取り組みです。伴走型の支援が確立されれば、妊娠中から産後まで長期的に誰かが寄り添ったフォローアップが可能です。
――現在さまざまな自治体で取り組んでいる最中かと思いますが、成果はこれからといったところですね。
重見先生:そうですね。実現していくとなると、人材の確保や必要な資金調達の問題などが出てくるので、なかなか厳しい状態ではあります。オンライン相談などデジタルをうまく活用しながら、長期的なフォローアップ体制を作っていくことが今必要なことだと思います。
この領域は、今まで医療機関側も自治体側も、さまざまな事情によりなかなか力を入れられなかった印象があります。なんとかこの数年で妊娠・産後期の女性への支援が進むよう願っていますし、私自身も活動していきたいと思います。
取材、文・櫻宮ヨウ 編集・しらたまよ イラスト・Ponko