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「子育て支援や教育について変えたかったら、直接自治体に声を届けて」【明石市 泉房穂市長・第8回】

明石市市長⑧

前回からの続き。子育て支援に積極的に取り組む兵庫県・明石市。おむつ無料宅配や親の所得制限なしに子ども医療費を無料化(18歳まで)など、各国や他の自治体の政策を明石市独自にバーションアップさせた支援は、どれも子育て世帯には嬉しいものばかり。では「うちの自治体でも取り入れてほしい」と思うママは、どうしたらいいのでしょうか? 泉市長にお話をお伺いしました。
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ママたちの声は届いていない?

――明石市では子育てに関して、たくさんの改革を行っています。全国に住むママたちが「自分の地域も子育て支援を充実させてほしい」といった場合、何かできることはありますか?

泉房穂市長(以下、泉市長):まずは声をあげること、これが非常に大事です。

市役所の職員は基本、市役所にいます。そのため直接市民の声が届きにくいのです。

「窓口で話をしているじゃないか」と思うかもしれません。しかし大半の人は住民票を取る、必要な手続きをするといった事務的な作業のみで終わります。X(旧Twitter)やインスタなどのSNSで発信している人もいるでしょう。しかしそのつぶやきを明石市の職員が偶然発見するかといったら、そういう機会もなかなかないと思います。

行政に声が届いていないから、「こうしてほしい」「ああしてほしい」という要望があっても、気づかれないのです。

自治体の職員、市長に声を届けるためには

――どういう感じで声をあげたらいいでしょうか?

泉市長:各自治体には意見箱を設置しているところも多いと思います。たとえば明石市でいえば、図書館などの公共施設に設置してある「市長への意見箱」というメッセージボックスがあるので、そちらに具体的な要望を書いて入れていただくといいですね。それを私がすべて見て、必要な部署に指示をしています。
まずはお住いの自治体のホームページから、意見を届けるところがないか探してみてください。

――どのように書いたらいいのでしょうか?

泉市長:「明石市では子どもの医療費が18歳まで無料だそうです。うちの市もお願いします」と、それくらいの感じでいいと思いますよ。

「あのときの選挙が今の明石市の政策を作った」

――次はどんなことをしたらいいですか?

泉市長:声をあげたら、次は選挙に行くことです。「この人の政策に共感できる」「この人なら自分の思っているような政策を実行してくれるだろう」という人を選ぶこと。

私がはじめて明石市長に当選したのは2011年。それ以降、3期にわたって市長を務めてきました。しかし私の市職員に対する暴言で、2期目満了の3か月前に辞職。そのあとの選挙で多くの市民の方に支えてもらい、再度市長として職を遂行することができるようになりました。

このとき当選できたのは、子育て世代の方々の動きがあったからじゃないかと感じています。というのも、これまではシルバー民主主義といって、高齢者の方の投票率が圧倒的に高い時代でした。それが2019年の選挙では、期日前投票の会場にベビーカーを押したお母さん方の行列ができたんです。その結果、30代の私への投票率が9割とかなり高かった。なかには子育て中のお母さんで、実家の親にも「ちゃんと投票に行ってほしい」と訴えたという方もいらっしゃったと聞きます。年代を問わず大勢の方が街頭署名までしてくれたことも、とても嬉しく思っています。

まさに選挙が私を作ったわけで、市民の応援がその後の明石の政策を作ったのです。だから、まずは声を上げること。それから選挙ではちゃんと真剣に選ぶこと。

あとは自分が立候補することです。これに関しては、全員ができるわけではありませんが、応援することもできるでしょう。

住んでいる地域を変えたいならば、自分たちから動き出す

――最初は政治に対してそれほど興味がなくても、少しずつ声をあげていくことでいろんな問題点が目につくようになりそうです。それを自分で解決していく方にまわるというのも1つの手ですね。

泉市長:最初は、みんな選挙に出ている人を選ぶ方なんですよ。ただ、立候補している人の政策にすべて賛同できるかといったら、そうでもないですよね。「AさんもBさんもちょっと違うな」ということもあると思います。それであれば、やはり自分自身が立候補するしかない。自分が立ち上がることで、自分の住んでいる地域を変えていくことができるんです。

政治のいいところは、気持ちがあり、それに共感してくれる人たちが集まれば、お金も資格もいらないんです。私は、これまでの選挙でそれを実感しました。どんな有名人でもお金持ちでも無名の人でも、投票できるのは1人1票! 平等なんです。

一般市民の数の方が圧倒的に多いのに、超少数派の金持ちや有力者によって政治家が決められてしまう。これは異常なことです。選挙にいかないといつまでたっても今の状況を変えることはできません。逆に、ちゃんと一人ひとりが自分の考えを明確にし、意思を持って選挙に行けば、冷たい社会を変えることができるかもしれません。もし投票したい人がいなければ、自分が立候補することも、一度考えてみてください。

市長引退後は政治家になる人を応援したい

――泉市長は、今後どのような活動を考えていますか?

泉市長:市長を退任したあとは、こういった高い志をもつ方々のお役に立ちたいのです。ご存知の方も多いと思いますが、私はこのたび2回目の暴言を吐いたことで、明石市長はもとより選挙でえらばれる政治家としての活動を引退します(※1)。それでも政治を良くする活動は続けていきたい。

明石市民をはじめ、たくさんの方々からお手紙をいただきました。それらの励ましのメッセージは、私にとても大きな力をくれました。これからは少しでもみなさんに恩返しできるよう、努めてまいりたいと考えています。

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取材、文・長瀬由利子 編集・荻野実紀子 イラスト・おんたま

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