【第9話:夫SIDE】ある日突然、夫が失踪しました 〜「最後のチャンスをください」編〜
【第8話:夫SIDE】からのつづき
すべてを置いて出てきた俺を、北村るみは温かく受け入れてくれた。俺はそれに甘えてしまった。
そうやって、何もせず、北村るみの家で居候になりながら、子どもたちの勉強を見たり、話し相手になったりしながら一ヶ月が過ぎようとしていた。
居心地がいいはずの家だったのに……楽なはずなのに……なんだろう……。いつしかモヤモヤが積もるようになってきた。毎日肩にズシンとのしかかる責任が重たくて、苦しくて出てきたはずなのに……肩になにも乗っていないことが無性に不安になる。
すると「ピンポーン」とインターホンが鳴り、玄関を開けた瞬間に……いきなり鉄拳が飛んできた!!
オヤジの言葉にハッと気づかされた。今まで完璧だと思っていたゆきだって実は……。
ゆきは今どうしているのか聞くと、「彼女はマンションを引き払って、子どもたちと北海道の実家に帰った」とのこと。
「俺の携帯は……?」
と聞くと、オヤジは
「彼女が持ってる。口では気丈にふるまっているけど、きっと心のどこかでお前からの連絡を待っているんじゃないか?」
と答え、さらに冷静にこう言った。
「人はな荷物を持たないで出かけると不安になることがあるだろ? なにか忘れものをしてないかな? って取りに戻ることだってあるくらいだ。荷物は適度に持っていた方が安心して歩けるんだぞ」
オヤジの言葉を黙って聞いていた。俺の顔を見て、オヤジは続けた。
「もし、そのことに気づけたのであれば、もう二度と荷物を降ろそうなんて馬鹿なことはするな」
その言葉でいてもたってもいられなくなった俺は団地を飛び出し……
―終―
脚本・渡辺多絵 作画・加藤みちか
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