母の遺した黒いノート……そこに書かれていたのは……?
母の遺品を整理していたときのことです、その中からある1冊のノートが私の目に留まりました。
それは便箋をホチキス止めして作られた、手製の表紙が真っ黒なノートでした。見た目だけでもなかなかのインパクトなのですが、ノートにはタイトルがこう記されていました。
“第一子妊娠経過記録”と。
つまり、この一見不気味さを感じる漆黒のノートは、母が私を妊娠してからの育児日記だったのです。母は、日記をつけることが習慣だったようで、他にもいくつか見つかった他のノートは普通に可愛い絵柄のものだったりするのに、育児日記だけが真っ黒……。私から見れば「なんで!?」と思わざるを得ない見た目でした。
それでも、私の記録を遺してくれたものです。嬉しくなって、私は少し申し訳なく思いながらもわくわくしながらページを開きました。
中身を見ると、たしかに検診の結果や母の体調なども記されて、私を妊娠し出産するまでの様子も詳しく書かれていましたが……
ほとんどは父親や親戚、通院中に遭遇した人たちなど、たくさんの人への恨み辛みばかり。
「これは育児日記というよりは愚痴日記ー!」
そういえば、母が口を開くと愚痴が多い人でした。聞き手としては「勘弁してよ」と思うこともありましたが、日記も”はけ口”のひとつとしていたのでしょうね。
今となっては、母に育児日記をあえて真っ黒なデザインに仕立てた理由を聞くことはできませんが、中身相応なノートだったといえそうです。可愛いデザインのノートに愚痴が書かれているよりは、いっそ潔いともいえるかもしれません。
記録の中には、私が妊娠したとき参考にすることができた情報があって、後にそれには大いに助けられたのですが。その見た目相応な中身には苦笑せざるを得ませんでした。きっと母は、他人に見せる気もなかったから、あえて触れられないよう威圧的とすら思えるデザインにしたのかもしれません……。かえって気になってしまったわけですが。
そして、そんな母の娘である私もやはり、記録をするということは大好きで、同じく日記は長年の習慣です。もちろん、妊娠以降はずっと育児日記もつけています。中身はどうであれ、やはり母が私の記憶が残っていないころのことを記してくれたのは嬉しいと思ったのでそれは見習おうと思ったのです。
だけど、中身には気をつけています(笑)。もちろん愚痴を書きたくなるようなこともありますが、しっかりとオブラートに包み込んでいます。残してある限りはいつかはわが子に見られてしまうでしょうから。
余談ですが、また後に親戚と母の日記の話になったとき、笑いながら祖母(母の実母)の話を聞かされました。
「おばあちゃんのはもっとすごいよ。ノートいっぱいにじいちゃんの愚痴をでかでかと殴り書きしてたもの! あれは見たら震えるわ!」と。
……血は争えないというかなんというか(苦笑)。
脚本・たかおぎ なる 作画・Ponko