幼保無償化スタート!調査結果からわかった、保育現場の変化とは
2019年10月からスタートした、幼児教育・保育の無償化のおかげで「負担が減って家計がラクになった」というご家庭もあるでしょう。しかし「逆に高額になった」などの声を報道で目にした人もいるようです。ママたち自身の実感の変化とともに気になるのが実際に現場で働く保育士さんたちの声ではないでしょうか。
先日発表されたある調査からは幼保無償化により変化しつつある、保育現場の実態が見えてきました。
「変わった実感はない」という保育者が半数。残りは?
調査を行ったのは全国の保育所保育士の約8割が利用するという「保育や子育てが広がる“遊び”と“学び”の情報サイトHoiClue [ほいくる]」(運営:こども法人キッズカラー)です。「新 幼児と保育」(小学館発行)とのコラボ企画として、2019年11月に実施しました。
まず尋ねたのが「あなたが勤務している施設(事業)は、幼保無償化の対象ですか?」というものです。「対象である」が圧倒的に多く、96.0%。「対象ではない」は3.4%、「わからない」は0.6%でした。
「対象である」を選んだ人に「幼保無償化がスタートして、日ごろの保育の仕事に変化などはありましたか?」と聞いた回答が、こちらです。
「あった」は約3割。「ない」という回答が半数近くと、もっとも多いものでした。
「これじゃ無料じゃない!」と言われても……。とまどう現場
「あった」と回答した人たちに聞いた、具体的な内容もありました。そこからわかるのは、現場が混乱しているということです。
『お金に関すること(副食費やその他利用料)が人それぞれバラバラで、複雑。よくわからなくなった』(私立認定こども園/保育者)
『給食費の計算。「”無償”って言っているのに、無料じゃないじゃん」っていう苦情や文句。私たちが決めたんじゃないのに……』(公立認可保育所)
無償化となったことで「預けたい!」と希望するママたちが増えた、という声も。
『預かり保育が増えたので保育人員が足りず、翌日以降の保育の準備が十分にできない』(公立認定こども園/保育者)
さらに「そんなことが?」と思うような、意外な内容もありました。
『今までは保護者の方のお仕事が休みでも、子どもを預かっていました。それが無償化になってからは保護者の方々も「保育料払ってるから」と言わなくなり、お休みのご協力をしていただけるようになりました』(私立認可保育所/保育者)
『完全無償化される園に子どもが行ってしまい、3月いっぱいで閉園します』(認可外保育施設/主任)
やはりお金に関することは、ダイレクトに現場に影響するのだなという印象です。「無償化」の文字が持つインパクトは、それだけ大きいのでしょう。
保育士不足や待機児童などの問題を、無償化が加速させた!?
調査ではさらに現場で働く人たちからの率直な意見も発表しています。
『無償化するのは少子化対策としてよいと思う。ただ無償化になったために子どもを預けたい保護者が増えるので、より待機児童の問題が加速しそうだと思った。保育士確保のためにも、保育士として働きたいと思えるような責任に見合った給料にするなど、国を上げて対策を進めるべきだと思う』(私立認可保育所/保育者)
『10月直前の行政とのやり取りでは、主食費・副食費問題がもっともピックアップされていた気がする。一番考えたいのはすべての子どもに平等で、質の高い幼児教育を提供する方法なのに』(私立認可保育所/施設長・園長)
『保護者にとっては子どもを預けやすくなったと思うが、無償化になっただけで保育者の確保が難しい現状が変わったわけではない。今のところ大きな環境の変化はないが、今後職員が少ない中でたくさんの子どもを見ることになる。ひとりひとりの子どもへの手厚い対応が難しくなることで、保育の質の低下を招くのではないかと不安に思う』(私立認定こども園/保育者)
無償化となったことで、家計がラクになった家庭もあるでしょう。ただ保育士不足や待機児童など、これまで問題とされていたことは解決しないまま。今現場にいる保育士さんたちは仕事量の調整が追いつかず、混乱している状況が浮かび上がりました。
無償化スタートから1ヶ月後に実施した調査ですが、この先保育現場がどうなっていくのか? 当分はしっかりと注視していきたいですね。
実施機関:HoiClue [ほいくる]
調査機関:2019年11月5日〜11日
調査対象:保育従事者
有効回答数:525
文・鈴木麻子 編集・しのむ