日本は「落ちこぼれ」も「吹きこぼれ」も作らない教育が求められる【経済産業省・浅野大介さん】
学校の授業についていけない「落ちこぼれ」とともに問題になっているのが、理解度が早いがゆえに、授業がつまらなく感じる「吹きこぼれ」。「落ちこぼれも吹きこぼれも作らないためには、先端テクノロジーを用いた教育を行うことが必要」と話すのは、経済産業省 商務サービスグループ 教育産業室長の浅野大介さん。詳しくお話を伺いました。
「落ちこぼれ」も「吹きこぼれ」もない学校教育とは
――現在、小学校でも中学校でも「教室内の理解度に格差が生じている」と聞きます。
浅野:日本の学校では、授業の進行はクラスの平均値に合わせて進めていきます。そのため、1つの教室の中に授業についていけない「落ちこぼれ」と呼ばれる生徒たちがいるのと同時に、「吹きこぼれ」と呼ばれる「理解度が早いがゆえに、授業がつまらなく感じる」生徒がいることです。このとき、理解度の早い子が遅い子に教える「学び合い」は、学習面では有効です。
「理解度の遅い子」は、「早い子」に教えてもらうことで理解が深まり、「理解が早い子」は「遅い子」に教えることで、自分の理解が深まるというメリットがあります。また、この「学び合い」によってクラス全体に「みんな絶対に合格点を取ろう」というのが目標になり、クラス全体の平均値が上がったりもします。
ただ、それもほどほどにしないと「吹きこぼれ」の子どもたちにとっては、ずっと社会奉仕させられている状態になります。そこで取り入れたいのが、教育とテクノロジーを掛け合わせたエドテックです。
「ルールは変えられない」ではなく自分たちで変えていくもの
――エドテックはどのように活用したらいいのでしょうか?
浅野:たとえば、学校によっては「ブラック校則」と呼ばれるような変な校則があります。この校則を変えようとしたとき、エドテックが活躍するのです。
どういうことかというと、まず子どもも大人も「規則・ルールは変えられない」と思っています。でも、実はこのルールは自分たちの手で変えることができます。ただ、そこにはまわりの人が納得する理由が必要です。普通に考えたら、学校という閉じられた空間では、生徒VS先生となったら、知識量の多い先生のほうが圧倒的に優位です。
そこで、生徒たちはテクノロジーの力を活用するのです。インターネットなどを使ったら専門知識を持った第三者が入ることができるのです。
「先生」VS「生徒×専門家」でディスカッション
――第三者が入ったら、どのように変わりますか?
浅野:たとえば、「日焼け止め禁止」というルールがあったとします。「なぜ日焼け止め禁止なんですか」ということを、まず先生たちに聞く。それに対して学校側も理由を答えなければいけない。「プールに入るときに水が汚れる」というのが理由であれば、プールの時間はラッシュガードを着ればいいかもしれない。「普段から禁止」というのであれば、本当に毎日禁止する必要があるのかを考える必要があります。
そもそも日焼けはしたほうがいいのか、しないほうがいいのか、科学的にはどちらなのかを調べてみる。その結果、日焼けすることは皮膚に良くないということが出てきたのであれば、日焼け止めを塗るべきだということがわかるわけです。皮膚科の先生などに参加してもらうのもいいし、学校で行われるディスカッションに対して、オンライン上で公開することで「先生がいっていることはおかしくない?」「なんでそう思ったの?」など、第三者がコメントしてあげられる機能をつけるのもいいと思いますよ。
――たしかに、先生VS生徒だと、知識のある先生に言い負かされてしまいそうですね。
浅野:そうなんです。だから、テクノロジーの力を使って、専門家に意見してもらうことが必要なのです。ほかにも、学校同士をつないでみるという方法もあります。「他の学校は日焼け止めを使用していいのに、なぜうちの学校はダメなのか」という話もできますよね。自分たちでルール形成していくことで「なんでこういうルールがあるの?」「ほかではどういうルールがあるの?」ということを考えるキッカケにもなると思います。
目の前の課題を解決するため「学び合い」が生まれる
浅野:これまでの教育は「教科書に書いてあることや先生が言うことは正しい」「ルールは守るべきもの」であり、変えることは前提にしていませんでした。しかし、これからは生徒たち自身でルールを作り、「おかしい」と思ったら変える必要があります。テクノロジーの力を使うことで、教師でも生徒でもない第三者の意見を聞くことができ、それをもとにルールを変えていくことができるし、学びも深まります。
――どっちが正しいのか、「先生VS生徒」でゲーム対決をしているようで、調べるのがワクワクしてきそうですね。
浅野:そのワクワク感や、「自分が調べるんだ」という当事者意識が大切です。今学校で教えている勉強では、理解したかしていないかがメインになるため、「学び合い」というのは起きにくいという面があります。これに対して、エドテックを活用した課題解決型学習は、調べたり、話し合うことで「落ちこぼれ」と「吹きこぼれ」が互いに教え合い、協力するようになります。また、それによって「学び合い」が生まれ、生徒一人ひとりの知識がより一層深まるのです。
取材、文・長瀬由利子 編集・山内ウェンディ