もはや国民病?便秘に悩む人が知りたい、注目の腸内物質とは?
女性の多くが悩んでいる便秘。ママの中にも便秘が原因で体調がすぐれない方もいるかもしれませんね。腸内環境を整える「腸活」という言葉もよく聞きますが、最近では腸内のある物質が注目されていて、便秘改善のカギを握っているようです。今回は、30年間で4万人もの腸を見てきた腸の専門医である、松生クリニック院長の松生恒夫(まついけ つねお)先生に、今注目される腸内物質や便秘改善のためのヒントを伺いました。
20代〜50代の便秘に悩む女性は男性の3.6倍
今や日本人の多くが悩む便秘。厚生労働省の平成28年度国民生活基礎調査によると、女性の方が男性よりも便秘で悩んでいることがわかります。特に20代〜50代の女性は男性に比べて3.6倍もの方が便秘を訴えているそう。男性より女性の方が多いのはなぜなのでしょうか。
『女性は生理前になると黄体ホルモンが出る関係で腸の動きが鈍くなり、便秘になりやすいのです。ただ高齢になるにつれて男性も腸の機能が落ちてきて70代では男女同等に便秘の方が増えています。
国の推計では便秘に悩む方は約500万人と言われていますが、自覚症状がない方も多いので、約1000万人ぐらいいるのではないかと考えられます。』
慢性便秘は寿命にも関係
また、便秘は長寿にも関係するという研究結果もあるそうです。
『アメリカのある大学で行われた、便秘の人とそうでない人の生存率を調べた調査があります。その調査では、4千人の方を15年間追跡したところ、便秘がある人の方が便秘がない人に比べて生存率が低いというデータが出たのです。理由は明確ではありませんが、データが示す事実からは、便秘ではない方が寿命も長くなるということが言えます。』
大腸は細菌による食物繊維の発酵や分解、水分と一部の栄養素を吸収する部分。便が溜まりやすい部分と大腸がんのできやすい部分に関係がありそうだと松生先生はおっしゃいます。
『便秘の方は肛門近くのS状結腸という部分に便が溜まりやすいです。そうするとその部分に老廃物が溜まりやすくなる。大腸がんの約7割はS状結腸と直腸にできるのです。大腸がんと便秘の因果関係は明確ではありませんが、結果的にいうと、便秘の方が大腸がんになりやすい可能性があります。老廃物は出した方がいいと言えると思います。』
便秘予防には食物繊維。でも国民の摂取量は足りていない
便秘を防ぐには食物繊維を摂った方がいいとよく言われますが、食物繊維には水溶性食物繊維と不溶性食物繊維があります。水溶性食物繊維は、昆布やわかめ、こんにゃく、果物、里芋などに多く含まれているとのこと。ただ日本人の食物繊維の摂取量は減っているそうです。
『厚生労働省の国民生活・栄養調査によると、1947年には27.4g摂取できていた食物繊維は、食生活の変化から1987年以降は摂取目標値の20gを下回り、2017年では14.4gしか摂取できていません。』
今注目されている腸内物質「酪酸」
食物繊維の摂取量が目標値を下回っているということですが、最近注目される腸内物質は食物繊維と関係があるそうです。
『最近、食物繊維が分解されてできる「酪酸」という物質が注目されています。食物繊維が大腸の中に入って腸内細菌に分解されると、「短鎖脂肪酸」ができるんですね。これは腸の中でしかできないんですが、短鎖脂肪酸には「酪酸」、「酢酸」、「プロピオン酸」という3つがあります。これらの3つの酸ができると腸の中が酸性に傾き、腸内細菌のうちの善玉菌が増えます。善玉菌が増えることで腸内環境を整えられます。
なかでも「酪酸」は整腸効果に加えて、日本に24万人もいる潰瘍性(かいようせい)大腸炎を改善することが以前から言われています。その他にもアレルギー性疾患、血糖値をコントロールする作用、肥満細胞の増加を抑え肥満を予防する効果など、全身に関する「酪酸」の効果が次第にわかってきている状況です。』
「酪酸」を増やすには
酪酸は口から摂っても腸に届かないとのこと。ではどのように酪酸を増やすことができるのでしょうか。
『「酪酸」を増やすには、腸内の「酪酸産生菌」を活発にする必要があります。「酪酸」は口から摂取しても腸に届かないので腸内で作るしかないのですが、特に水溶性食物繊維が「酪酸産生菌」に分解されると、体内で酪酸が作られます。』
水溶性食物繊維が「酪酸産生菌」に分解されると、体内で「酪酸」が作られるとのこと。果物などでは特にキウイフルーツを摂ると良いそうです。
『私が2001年には発表した論文では、日本人の食物繊維摂取量はだいたい14g。そこで水溶性食物繊維を7g摂取する実験をしたんですね。そうすると腸内環境が改善されました。そこで便秘で悩む方は水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の比率を1:2で摂るといいと論文に書きました。果物でいうと、キウイフルーツの食物繊維はちょうど水溶性と不溶性の比率が1:2なので、私も患者さんにオススメしています。この比率は自然界のものではなかなかないのです。
水溶性食物繊維は柑橘類などみずみずしいものに多いですが、日本人の果物の摂取量が減っているので、水溶性食物繊維の摂取量も減っていることになります。水溶性食物繊維をとると腸内で「酪酸」を増やす可能性があることがわかってきているので、キウイを食べると「酪酸」が作られる量を増やすことができそうだということになります。』
先生によると、キウイなどの水溶性食物繊維が豊富な果物を意識して摂るようにして、腸内の酪酸を増やすことで、便秘に効果があるそうです。整腸効果だけでなくアレルギーや肥満予防などの全身の健康につながることがわかってきた「酪酸」。便秘でお悩みの方は、今日の食事から海藻や果物、こんにゃくや里芋などの水溶性食物繊維を意識してしっかり摂るようにしてみてはいかがでしょうか?
取材、文・山内ウェンディ 編集・井伊テレ子