乳がんの兆候は助産師も直感的にわかる!?妊娠前に乳がん検診に行ってほしい理由とは
有名人の乳がんに関するニュースはたびたび流れますね。乳がんの年齢別の患者数は30歳代から増加しはじめ、40歳代後半から50歳代前半でピークを迎えます。妊娠中や授乳中のママも決して無関係の話ではありません。
助産師として日々ママのおっぱいケアにあたる、助産院ばぶばぶのHISAKOさんから乳がんについてのお話を伺いました。
助産院でおっぱいケア中に乳がんが見つかることはある?
――最近は有名人が乳がんで亡くなるという悲しいニュースが頻繁に流れます。助産院では日々おっぱいのケアをされていることかと思いますが、ケアの間に乳がんが発覚することはありますか?
助産院ばぶばぶには年間何千人ものママが来てくれます。「乳がんと診断された」と教えてくれるのは、1年で2人くらいです。おそらくですが授乳中に見つかるということは、妊娠前からがんがあり、年月が経って大きくなったパターンかと思います。
――乳がんがあるかもしれないと、助産師さんがわかるものなのでしょうか?
経験的に得た感覚ではありますが、しこりを触った感触で、「これは嫌なしこりかもしれない」と直感します。もちろんがんの有無を明確にするにはマンモグラフィーなどの検査が必要なので、検査を勧めることもあります。
しかし、しこりは授乳中にもできるので、授乳をしている期間は判断しにくいものなんです。見つける時期としてはだいたい、断乳ケアの最終日。おっぱいの余分な乳腺の発達が抑えられて、しこりの状態を触って確認しやすい状態だからです。
乳がんを疑ったときはどのように伝える?HISAKOさんの場合
――“嫌な感じ”のしこりを見つけたときは、ママにどのように伝えていますか?
良性のしこりもあるので助産師としては判断しづらいときもあります。しかしママたちは忙しいので、子どもを病院に連れて行くことはあっても自分のことは後回しにして検査に行かないんですね。
そのため私は、ズバリ言うようにしています。「違ったらごめん。でもこれ私的にはすごく嫌な予感がするしこりで、がんの可能性があるから、今すぐ保険証を持って帰りに検査に行って!」と。
――はっきりした告知なので驚きました。ママたちの反応はどうですか?
真っ青ですね……。しかしそれくらい言わないと、ママは自分の検査を後回しにしてしまうのです。若いからがんの進行は早いですし、見つけていたのに検査しなかった結果、最悪の事態を招いたとなれば、これほど悲しいことはありません。遠回しに言うと深刻度も伝わらないので、はっきりと告知します。
――告知後、検査に行ったママは、その後どのような経過になりましたか? 差し支えない範囲で教えていただければと思います。
おっぱいの温存療法になった人、全摘出になった人がいました。がん細胞がリンパ節まで転移し5年生存する確率は低いと言われながらも5年以上経過して、私に報告してくれた人もいます。
――おっぱいをやめた後に、搾ると母乳が出ることがあるのですが、これは問題ないですか?
断乳のケアを終わったあとで、じわじわ出てくるのは問題ないです。母乳は何年もかけながら体の組織が吸収していきます。
問題となるのは、おっぱいの奥に古い母乳が溜まってしまっている場合です。残った母乳にはカルシウムが付着する、“石灰化”と呼ばれる現象が起きることがあります。一方で乳がんも小さな核からがん細胞がだんだんと広がっていき、核が壊死してカルシウムが沈着します。この2つの石灰化の所見は、かなりよく似ているために、がんが見逃される原因になり得ます。その見逃されるリスクをゼロに近づけるのも、断乳ケアの意味のひとつです。
妊娠前に乳がん検診へ!子どもたちは笑顔を見せてくれるママが大好き
――助産師さんの立場からすると、妊娠前に乳がん検診に行ってほしいですか?
特に30代だと、結婚して子どもを授かる前に検診を受けてほしいですね。第1子の授乳中に次の妊娠をすると、乳がん検診の機会がないまま第2子、第3子を授かることになります。もちろん授乳中でも乳がん検診ができますが、授乳中であるために見逃される可能性もあります。できることなら、事前に検診に行っていただければと思います。
――最後に、育児に奮闘するママたちにメッセージをお願いします。
母乳育児は無理して続けるものではありません。おっぱいで育てることがステータスだと思いがちですが、子どもが一番求めているのは母乳で育てられることではありません。子どもが一番望んでいるのは、ママの笑顔です。完母を目指した結果ママが追い詰められて笑顔がなくなりシワがよって、子どもにリラックスして接してあげられない状態であるママと、「ごめーん私も寝たい!」とサボりながらでも気力を持たせて「子育て楽しい、産んでよかった」と笑顔を見せてくれるママとでは、たぶん、子ども達が選ぶのは後者です。力を抜いて、一番大事なところを見失わないで、育児を楽しんでほしいと思います。
HISAKOさん、ありがとうございました!
取材・編集部 文・しらたまよ 編集・しのむ イラスト・加藤みちか