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無事に生まれた奇跡に感謝。ハイリスク妊娠である”前置胎盤”の出産体験記

妊娠 前置胎盤

みなさんは前置胎盤という言葉を聞いたことがありますか?

日本産科婦人科学会では、

胎盤が正常より低い位置に付着し、胎盤が子宮の出口(内子宮口)にかかっていたり覆っていたりする状態を「前置胎盤」といい、その頻度は、全分娩の0.3~0.6%といわれています。また、前置胎盤のうち5~10%では、胎盤と子宮が癒着して胎盤がはがれない「前置癒着胎盤」となる可能性もあります。
胎盤は、お母さんと赤ちゃんをつなぐ血液・酸素・栄養のとても豊富な組織です。前置胎盤は、胎盤が赤ちゃんよりも子宮の出口付近に位置しているため、ほぼ100%帝王切開で分娩となり、お母さんにとっても赤ちゃんにとっても危険性の高いハイリスク妊娠なのです。

と定義されています。

秋篠宮妃の紀子さまが悠仁親王を出産する際、前置胎盤と診断されていました。

実は筆者は、お母さんや赤ちゃんにとって危険性の高いハイリスク妊娠である前置胎盤と診断された一人です。自分が前置胎盤と診断されるまで、健康な妊婦生活を送り出産することは当たり前だと思っていました。

妊婦健診では順調と診断されるような心配事がない「普通の妊婦」だった

結婚して2年ほどたった頃、仕事をしながら第1子を妊娠。妊娠初期から、大きなトラブルもなく、つわりもそうひどくなかったため、”普通”に仕事と妊婦ライフを両立していました。
妊娠5か月ごろには初めて胎動を感じたり、性別が分かったり。筆者は「生まれたら赤ちゃんに何が必要になるだろう?」「将来はこんな人になってほしいね!」など夫ともウキウキしながら、子どもが生まれる日を指折り数えていました。

順調に安定期を迎え、会社に妊娠の報告を済ませました。たくさん残っていた有給休暇と合わせて少し早めに産休に入り、実家に里帰りすることも決まっていました。

おなかも目立ちはじめ、妊婦健診が2週間に1回となるころ。定期の妊婦健診でエコー検査をしていた産婦人科医の手が止まりました。先生が「赤ちゃんは元気。でも胎盤の位置が気になるなぁ」と告げたのです。

すぐに詳しく検査することになり、その場で「部分前置胎盤」と診断されました。先生から「子宮の出口を胎盤がふさいでいるので、非常にハイリスクの出産になります」と言われ、筆者は目の前が真っ暗になりました。さらに追い打ちを掛けるように、「万が一、今出血があった場合は即管理入院することになります。里帰りするなら一刻も早く」と。ただ先生は「妊娠の早い時期に前置胎盤と診断されても、妊娠が進み子宮が大きくなると徐々に胎盤が上にあがり、最終的には前置胎盤でなくなる例が多くありますよ」とも続けました。

まだ産休を取る予定の日まで2カ月近く。筆者はどうしていいか分からず、ぽろぽろと涙が出て止まらなくなりました。その場にいた助産師さんが「お母さんは何も悪くない。でも赤ちゃんと自分のことを1番に考えて」と言ってくれて、ようやく救われるような思いがしたことは今でもよく覚えています。

つらい管理入院の日々。楽しそうな妊婦さんを見てはたびたび涙

職場には診断書を提出し、何とか予定を前倒しして里帰りしました。

出産予定だった産院は小規模なクリニックだったため、NICU(赤ちゃんの集中治療室)を備えた総合病院に転院。出産まで2カ月近く、病院のベッドで過ごすことになりました。

管理入院中は安静。おなかが張ると出血する可能性が上がるとされ、24時間張り止めの点滴がお供です。

何とか胎盤が上がることを願いつつ、毎日テレビを見たり、本を読んだり、窓からぼーっと外を眺めたり。夫や両親、友達がお見舞いに来てくれることだけが楽しみで、あとはひたすらベッドの上とトイレの往復の日々でした。点滴の差し替えも1週間に1度以上のペースであり、差し替えるたびに痛いし、夜寝る時もそのままですから、腕を自由に動かすこともできません。

ネットでは、同じぐらいの週数の妊婦さんが、赤ちゃんの服や子育てグッズをそろえたり、子どもが生まれたらなかなか行けないおしゃれカフェやランチに出かけたりしているのを見ては「どうして私は前置胎盤になってしまったのだろう」と悲しくて、何度も泣きました。普段は気が強くあまり涙なんて出る方ではないのに……。

ついに決まった手術日。そして「出産」へ

胎盤が上がることがなく、ついに出産予定日(=手術日)が決まり週に1度、3回にわたって出産に備えた「自己血」の貯血をすることになりました。前置胎盤での出産の際は出血量が増えることが多く、輸血に備えて自分の血を保存しておくことがあるそうです。点滴をしている手と逆の腕に、つまようじくらいの太さの針をブスッ。妊娠するまでの人生で手術はもちろん、献血の経験もなかった筆者ですが、安静のための管理入院ですっかり注射に強くなりました。

ようやく3回の貯血も終わり、正産期を迎えたある日。出産予定日まであと数日ありましたが、入院中のベッドで出血が止まらなくなり、担当医の判断で緊急手術することになりました。心の準備もないまま手術室へ。緊急手術が決まる前まで投与していた張り止めの点滴が抜かれた代わりに反対の腕にも点滴が刺され、手術開始となりました。ほどなくして、元気な子どもが生まれました。

ほっとして涙があふれるかと思いきや、あまりにもあっけなくて「え? もう生まれたの」という気持ちが先立ってしまいました。

原因不明のハイリスク出産。無事に生まれた奇跡に感謝

日本産科婦人科学会のホームページには、

前置胎盤の発症メカニズムの詳細については、まだよくわかっていませんが、流産手術などにより子宮の内膜が傷ついたり、炎症などが起きると、前置胎盤も起こりやすくなると考えられています。つまり、高齢妊娠、 喫煙、多産婦(1人以上お産をしていること)、多胎(双子以上)、帝王切開の既往、流産手術や人工妊娠中絶術既往、その他子宮手術の既往などが原因として挙げられます。
近年では、妊娠の高齢化、不妊治療の普及、帝王切開分娩の増加などにより前置胎盤の頻度も増加しています。特に帝王切開については、その頻度が増すごとに「癒着胎盤」の発生率も上昇することが知られています。

とされていますが、私はどれにも当てはまらず、主治医も「原因はよくわからないなぁ」とお手上げ。「当たりだったってことだね!」と明るく言ってくれたのがかえって救いです。
退院後は大変な子育てが待っていて、長い入院の日々がちょっぴり懐かしくなることもありました。出産は奇跡。絶対に安全・確実なお産なんてないんだと強く感じた実体験でした。

文・yurik 編集・横内みか イラスト・もっちもちふっわふわ

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