山口智充:第5回 親になったことで、家の中で僕らを見ている存在が3人いることは意識したり、しなかったり(笑)
今年20歳になる息子さんを筆頭に、3人のお父さんである山口さん。かつて「理想のお父さん」ランキングで1位に輝くなど“よきパパ”のイメージは強いものの、実際のところはいったいどんなパパなのでしょう?
父親となったことで、ご自身の気持ちに変化はありましたか?
一番シンプルなことでいうと、自分が命がけで守るべき存在が増えたということですね。最強のチームメイトが増えたという。このメンバーがいれば何があっても大丈夫!という、それはすごく強く感じましたね。社会でも普通にそうだと思いますけど、人数が多いとやっぱりそれだけのパワーになりますから。そのさらに強いものが、家族だと思います。物理的に違う場所にいたとしても、一生切っても切り離せない存在ですから。
父親になってから、とくに意識するようになったことはありますか?
夫婦どちらもですけどお互いが親になったということで、家の中で僕らを見ている存在が今3人いる、ということは意識……したりしなかったり(笑)。毎回毎回ではないんですけど、「してる」のほうが大きくなりましたかね。それは親にならなかったら、なかったことかもしれません。
たとえば”善き大人”であろうとするようなこと?
というよりは子どもたちが”善き大人”になるための、手本にならないといけないということですね。子どもにしてほしくないことを自分たちがしていてはダメだな、と。基本的には「人に迷惑をかけない」ということです。
ただこれは社会全般にいえることなんですけど、「~~してはいけません」という看板や注意書きって多いじゃないですか? でもなぜしちゃいけないのかを書いているものはないんですよ。大人同士でもそうですよね。「いけないのは、なぜですか?」と聞くと「……ちょっと確認してみます」。そういうことがすごく多いので、子どもはよりとまどうと思うんですよね。その「どうしてなのか」という理由をちゃんと言ってあげるように、気をつけているつもりです。
あとは子どもたちよりちょっと経験の多い先輩として、「こっちのほうがいいと思うよ」と提案すること。たとえば「今は赤信号だから止まれだよ」と教えているときに、そのまま歩いて行く大人もおるわけですよ。それは反面教師ですよね。「ほら、あんなふうに行くとすごく危ないよ。あとで大変な目にあうよ」と、大きい声で言います。身体を張って危ないことを教えてくれているわけですから、逆に「ありがとう」くらいの気持ちですよ。
生きていく上での基本的なマナーやルールといったことですよね。
その基本的なことが、こうして大人になったときいかに大事だったかわかりますよね。たとえば僕は「勉強しなさい」とは一度も言ったことがないんですよ。でも宿題とかやらなきゃいけないことがあるというのは、社会のルールのひとつですよね。「宿題があるから、遊んじゃダメ」じゃなく「宿題が終わったら遊べばいい」です。ルールの中で優先順位をつけていればいいと思う。
あと、我が家では「先に約束した相手を優先する」というのもあります。たとえば僕も妻も「この日は遊びに行けるから、旅行しよう」となったとします。でもそこで子どもが「~くんと約束してる」となったら、家族旅行は中止。最初に約束した人が優先というのは、我が家の”絶対”です。それに「友達との約束は絶対に破るな」とも教えてきているので。それを破れる人というのは、きっと社会に出てからも平気で約束を破れる人になると思うんですよ。小さいことかもしれないけど、その基本的なことが積み重なっていって大人になると思うので。
最近気づいたんですけど、今「こいつ、なんか嫌だな」と思う相手って、子どものころに出会っていてもきっと同じように感じていたはずなんですよ。人間って、根本的にはそう変わらない。ということは今子どもたちにできることは、大人になっても今の環境の中にある悪いものを出さないようにすること。咳をするときは口を手でふさぐとか、トイレに行ったら次の人のために流すとか、ものすごく基本的なことですよ? でも自分のことだけを考えるような人間にはなってほしくない。“教育”なんてものじゃないし、”いい人間であれ”というものでもない。人として最低限のことができること。悪いことをしたら謝る、人のせいにしないとか、本当に根本的なことです。「地球をきれいにしよう」というよりは、まず目の前にあるゴミを拾おう、と。そういうことは家でないと教えられないと思うので。
「目の前の当たり前のことができる人間に」。 “当たり前”のことができない人が増えているなと感じることが多くなった今だからこそ、よけいにその大切さを実感します。
次回もまだまだお話は続きますよ。ご期待ください!
取材、文・鈴木麻子 撮影:山口真由子