お泊まり保育は「園に行くまで」が勝負、私の体験談
園児と先生たちだけで施設に泊まる、いわゆる「お泊まり保育」。子どもたちにとっては、友だちや先生たちとみんなで一晩を過ごすという、ドキドキの貴重な体験です。
息子の幼稚園では例年、年長の年の夏にお泊まり保育が行われていて、年長組の息子にもその日がやってきました。1泊2日で、1日目は遠足に行ったりキャンプファイアーをしたりと盛りだくさん。施設に泊まって、2日目の午前中に解散という、ちょっと濃密なスケジュールです。
私も息子もマイペースで、私自身お泊まり保育で嫌な思い出がなかったこともあり、当初そこまで不安は感じていませんでした。
当初は、そうでした。
1週間前までは、とても楽しみにしていた息子
息子はそれまで家族と一緒にホテルに泊まったことはありましたが、パパやママと離れて、家以外で寝るのは初めての経験になります。それでもお泊まり保育は、年長さんならではの一大イベントと認識していたらしく、楽しみにしていました。
唯一の心配事といえば、寝相の悪さ。我が家では8畳ほどの寝室を縦横無尽に転がりまくり、壁にバンバン当たりながらも全然起きないのです。息子が転がってきたついでに自然に放たれたラリアットが、隣で寝ていた私の鼻に直撃し、鼻血が出たこともあります……。お友達が流血したら、どうしよう。
そんな冗談交じりな感じで軽ーく話をしていたので、息子の方もあまり不安はなかったようです。お泊まり保育に持っていく大きなカバンを買いに行ったり、一緒に準備したり。どちらかといえばこのときは、楽しさが上回っていたようでした。
幼稚園のお友達のなかでも、普段から元気いっぱいの男の子の何人かが「お泊まり楽しみ~」と笑顔で話してくれたりして、「そうだよね、楽しみだよね!」と返事をしていました。
日が近づくにつれて、周りから影響を受けだす私たち
お泊まり保育が近づくにつれ、ママたちの話題も、「おむつどうする?」「お茶はどれくらい持たせる?」などなど、お泊まり保育一色になります。
うちの幼稚園の場合、夜のおむつがまだ取れていない子は、先生がみんなと離れた場所でこっそり履き替えさせてくれます。夜眠れない子は、普段寝るときに使用しているぬいぐるみや枕などの”安眠グッズ”を持ち込み可です。「行くのがイヤ」と言っている子のお宅では、幼稚園で徐々に話題に出るのに合わせて、家でも声掛けをしている様子。
最初はこの程度の疑問でしたが、私を含め親たちの方はなぜか不安が募り、連日のように先生にお泊まり保育のことを聞きに行く始末。あれもこれも心配になって、「タオルは結局何枚必要ですか?」「歯ブラシはどこに?」「名札を一人で外せないのですが……」聞くことがどんどん細かくなっていきます……。先生もてんてこ舞いです。
そのうち、ぬいぐるみや枕を持っていくと決めた子が徐々に増えてきました。その影響か、なんだか急に不安になった様子の息子。「ぼくもぬいぐるみ持っていく―」と言い出します。長年おもちゃ箱の奥に潜んでいたぬいぐるみを引っ張り出して、洗って持っていくことになりました。
いやそのぬいぐるみ、だいぶ長い間忘れてたよね……。
ともかくどうかこのまま、当日を迎えてほしい。そう思っていたらお泊まり保育の前夜、ついに息子が言い出しました。
「お泊まり保育怖い」。
今!? 今なの!?
就寝前の励ましと翌朝のルーティーンで不安を取り除く
泣きはしないものの、「ママとお話しできるのも今だけだね……」「寂しいな」と言う息子。
どうしよう……。
しかし前日夜9時頃、就寝前のことですから、もうなだめて眠らせるしかありません。元気である以上、行かないという選択肢はありません。
「明日の朝まではみんなと一緒だし、大丈夫だよ。明日の朝からはまたママといっぱいしゃべれるよ。夏休み中は毎日好きなだけおしゃべりできるよ」就寝前だというのに私は励まし、喋りまくります。そのうち息子は睡魔に負けて寝ました。
ひとまず山場は越えた……! ついでに私も睡魔に負けて寝ました。
当日の朝は、寂しい表情をしていた息子。
食欲がわかず……と書きたいところですが、そこはしっかり食べていました(笑)。日課であるNHK Eテレのデータ放送のゲームもしっかりやっておりました。スポーツ選手がよくやるという”ルーティーン”。やることがあれば意外と気が紛れるみたいです。
歩いて登園してみると、幼稚園の門をくぐったあたりで、さっそく泣き声が聞こえました。
誰が泣いているのかなと見てみると、なんと「お泊まり楽しみ~」と何度も言っていた男の子! 「いやだー!! いやーー! お母さん!!」と、今まで見たこともない泣き叫び方をしていました。
ああ、あの「楽しみ~」は、自分にも言い聞かせていたのか……。いじらしすぎて胸がキュンとなりました。
私はひるむ息子を励まし、送り出しました。後から聞いたところによると、私が幼稚園を出た後も息子は「寂しい」と言って涙をためていたようです。
いえいえ考えても仕方がない、もはや息子に任せるしかない状況。腹をくくりました。
翌朝、子どもたちは無事帰ってきた
翌朝お迎えの時間になりました。聞くところによるとムッツリしていたらしい子どもたちの表情は、ママたちの顔を見た途端に満面の笑みに変わりました。
息子は、いつも通り私の元へ帰ってきました。いっちょまえに、一仕事終えたように。先生に聞くと、「はじめは寂しくて涙をためていたけれど、始まったら全部楽しんで、ごはんもおかわりしていた」ということでした。
ようやく、終わった……!
昔、どなたかが言っていました、「ママやパパと一緒にいた時間が心の支えになって、怖いことでも安心して乗り越えられるようになる」と。今回は親から離れてのお泊まり。子どもたちが不安を一人で乗り切れたのはきっと、ママさんたちがそれぞれ、子どもに愛情深く接していたことの表れなのだなと思いました。私はそんな立派な言葉に見合うほどの母親ではありませんが。
息子が無事元気に、全部の行事を楽しんだこと。ただそれだけで、よかったなと思います。