わが子が絵本で初めて泣いた。思いやりの心をつづる『とっときのとっかえっこ』
表紙はとてもかわいいほんわかした雰囲気の絵本、タイトルは『とっときのとっかえっこ』。20年も前のお話です。「何を交換するのかな?」と思って読みすすめてみると、思いがけず泣けるお話でした。子どもも大人も、深い気づきを得られる絵本です。
「子どもの成長と老人の老い」がテーマ
絵本に出てくるのは、赤ちゃんのネリーとおとなりに住むバーソロミューおじいさん。おじいさんとネリーはベビーカーで毎日お散歩に出かけます。ゆっくりといつもの道を行き、ご近所さんと短い挨拶を交わす。そんなありふれた日常の、なんともあたたかい風景が季節の移り変わりとともに描かれています。
赤ちゃんだったネリーも少しずつ成長します。仲良しのバーソロミューさんとは、よちよち歩きの頃もいつも一緒です。雨の日も寒い雪の日も毎日毎日。やがてネリーはローラースケートを教わるまでに大きくなっていきます。ネリーが成長するに伴い、バーソロミューさんも歳をとっていきます。お散歩では杖が必要になりました。ある日、階段で転んでしまい入院することになります。歩くことが難しくなり、とうとう車イスでの生活になるのです。「これで散歩はおしまいだな」と寂しそうに言うバーソロミューさんに、小学生になったネリーが取った行動は……? 登場人物の一人であるご近所さんの、「ネリーがベビーカーに乗っていたのが昨日のことのようだわ」という言葉が印象的に響きます。
この絵本を読んだとき、7歳の娘はベビーカーに乗っていた頃を思い出しているようでした。著者も娘とのお散歩を思い出し、幸福な時間がよみがえってきました。見るものすべてが新鮮で好奇心に満ちあふれ、毎日のお散歩が冒険みたいだったあの頃のことを。
読み終えると娘は泣いていました。なにか子どもながらに感じることがあったのでしょう。軽いショックと、なんとも言えないあたたかい気持ちとが入り交じり、著者も胸がジーンとしました。まさにそう、娘をベビーカーに乗せていたのは昨日のことのようなのです。しかし歳月は流れ、人は確実に歳をとっていきます。
ありのままを受け止め、思いやる心
ネリーは自分がしてもらったことと同じように、手を出さずに見守り、難しいところは手伝います。二人は思いやりの心でつながっている、それは絵本にちりばめられたたくさんのエピソードから伝わってきます。
子どもを育てることも、お年寄りを介護することも、どちらも深い絆がなければできません。子育てと介護のあり方を深く考えさせられました。お子さまにも、大人の方にもぜひおすすめしたい一冊です。
文・編集部