絵本『ねえだっこして』 ― 上の子の気持ちを代弁してくれた一冊
ある日、出かけるため下の子に抱っこ紐を付けていたら、突然2才の上の子が「ねえ、ボクもだっこして」と言い出しました。その時は「いつも下の子ばかり抱っこしていたから、甘えたいのかな」と軽い気持ちで「わかった! じゃあギューしようね」と上の子を抱きしめました。
普段からスキンシップは多めにとっていたつもりでしたが、“抱っこ紐で抱っこしてほしい”と言われたのは初めてでした。その後は上の子に特に変わった様子もなく、普段通りの日常が過ぎていきました。しかしなんとなく私には、あの時の息子の表情がぼんやり頭の片隅に残っていました。
それから1ヶ月も経たないうちに、友人に絵本『ねえだっこして』を薦めてもらいました。
猫のいるお家に赤ちゃんがやってきて……
『わたし このごろ つまらない。 おかあさんのおひざに あかちゃんがいるから』
そんなつぶやきからスタートする絵本『ねえだっこして』は、飼い猫の目線で描かれたお話です。主人公である猫の家には、最近赤ちゃんが産まれました。今までたくさんかわいがってくれていた大好きなママは、赤ちゃんのお世話で大忙し……。
『「ちょっとまっててね」って おかあさんはいうんだ
「あとでね」って おかあさんはいうんだ』
お母さんのお膝は世界一すてきな場所。でも今は赤ちゃんの場所。わたしはもう大きいから平気だもん!だからママのお膝貸してあげる。
そう言って外に遊びに行ってしまった猫でしたが、最後には胸の奥に秘めていた切ない本音をつぶやきます…
『だけど だけどさ わたしまってるから
あとででいいから』
『すこしで いいから だっこして』
猫だって本当は、大好きなお母さんに甘えたかったのです。この猫の、お母さんに抱っこしてもらいたいという願いは叶ったのでしょうか…?
あの時の記憶が蘇り、私は思わず上の子を強く抱きしめました
『ねえだっこして』の表紙には、赤ちゃんと頬をくっつけて幸せそうに笑う母親を、どこか切なそうに見つめる猫の表情が描かれています。
その表紙を不思議に思いつつも、上の子を膝にのせて絵本を読みはじめてみた筆者。すると……大好きなママに甘えたくても我慢したり、たまに強がってみたりする主人公の猫が、膝の上にいる上の子の思いを代弁しているかのように感じ、涙がこみ上げてきました。
あの日「ボクもだっこして」と言ってきた息子は、いつも我慢していた気持ちを、やっとの思いで私に伝えてくれたのかもしれない。それなのに私は息子の気持ちに気付けなかった。 そのことが悔やまれてなりませんでした。
2人目が生まれると、どうしても授乳やオムツ交換の時、上の子に「ちょっと待っててね」「ごめん、また後でね」と声をかける場面がありました。
「もしかしたらこの猫と同じ、切なそうな目で私を見ていたかもしれない」
表紙で見た猫の切なそうな顔が、「ねえ、ボクもだっこして」と言ったあの時の上の子の表情と重なりました。絵本を読み終えた後「こんな母親でごめんね。」と心の中で何度も呟きながら、私は上の子を強く強く抱きしめていました。
わが子を抱くことができる貴重な時間をかみしめつつ、また明日から、子どもたちと笑顔で過ごしていきたい。そう思わせてくれた1冊でした。
文・赤石 みお
ねえだっこして
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作/竹下 文子
価格 本体:1300円(税別)