第2回「子育てに疲れるお母さんたちに寄り添えるのが、子ども食堂の在り方」
貧困家庭や孤食の子どもに食事を提供し、安心して過ごせる場所として始まった「子ども食堂」。訪れてみると想像していたものとは違う世界がそこにはありました。食事をするスペースは明るく開放的で、子どもたちはおいしそうにご飯を食べていました。ご飯を食べたあとは、2階にある広間でボランティアのお兄さんたちと遊んだり、宿題を教えてもらったりして、楽しそう。 みんなが静かに食事をしているような場所を想像していたので、子どもたちの元気さに圧倒されながらも、「子ども食堂」という活動の魅力を実感しました。
地域の子どもが集う場所「要町あさやけ子ども食堂」
第2回目となる今回は、前回に引き続き、定期的にボランティアに訪れているという映画監督の谷内田彰久さん映画監督の谷内田彰久さん、俳優の中野裕太さん、NPO豊島子どもWAKUWAKUネットワークの天野敬子事務局長のお話を紹介させていただきます。
天野敬子事務局長(以下、天野):2014年4月にNHKさんが取材に来てくださったことで「子ども食堂」の活動を多くの人に知ってもらうことができました。取材の問い合わせはもちろん、全国からたくさんの方がWAKUWAKUネットワークが取り組む「子ども食堂」の1つ、「要町あさやけ子ども食堂」に見学に来てくれました。その方たちが地域に帰って「子ども食堂」を始めているんです。
谷内田彰久監督(以下、谷内田):「子ども食堂」と聞いてイメージするのが、まさに「要町あさやけ子ども食堂」ですよね。 ほかのところはけっこうキレイな食堂だったり、大人が食べに来くるというパターンが多いけど、要町は、「子どもがわが家に遊びに来た」という場所ですよね。
天野:そうですね。要町は昭和のレトロな一軒家に子どもたちが畳の部屋にぎゅうぎゅう詰めになって、袖触れあいながらご飯を食べる。あの雰囲気をマネしたいという方も多いんですよ。
谷内田:この2年くらいで、「子ども食堂」は本当に増えましたよね。
天野:今、東京では100くらいあるかもしれないですね。
本当に必要とする子どもたちに食事を提供できているか
天野:実は今、ママ友間の口コミで人が増えすぎてしまって困っているんです。
谷内田:ママ友が増えるというのは、どういうことなんですか?
天野:お母さんたちもご飯を作らなくて良いし、みんなとお話できるし、旦那さんの帰りも遅いから集まるにはちょうどいいんですよね。でも、本当に困って来ている方もいて、その方たちに食事の提供ができなくなることがあったりするんです。それは、本来の活動の意味からずれてしまうので、どう改善していこうかとスタッフと話し合っています。 ここの厨房で作れる数にはやはり限りあるので、ここでは80人分くらいが限界なんですよね。
中野裕太さん(以下、中野):予約にするとか?
天野:予約制にするのもリスクがあったりするので、考え中です。 20人くらいの規模のところでは、完全予約制にしているところもあるんです。 「子ども食堂」の数だけ、活動内容にはやり方があるんですよ。
「子ども食堂に行こうぜ」が当たり前になる日が来るかも
天野:子どもたちは元気いっぱいでしょ? いろいろな事情を抱えた子もいるんですけど、見ていてもそんなことはまったく感じさせない子ばかりです。
谷内田:僕も、想像していたのとは違ったなというのはありました。どうしても、暗いイメージを想像しがちじゃないですか。でも、子どもは目の前にあるご飯を元気に食べて、精一杯遊んで、それを見て「それはそうだよな」と思いました。
最初は、子どもたちもこういう場に行きにくいんじゃないかなと思っていたんだけど、全然そんなことはなくて、「みんな楽しみにして来てるんだ!」と。 この活動をやり続けたら、子ども食堂にご飯を食べに行くということが当たり前なことになるんだろうなって。学校の帰りに、食べに行こうっていうふうになるんじゃないかな。
中野:本当は、そういうふうになるのが一番いいよね。昔、学校帰りに神社とかで遊んだみたいに、「今日は子ども食堂に行こうぜ!」ってなるようなのがいいね。でも、そうなるには、場所と人数、回数設定とか、いろいろ解決しなくてはいけない問題もあるね。
谷内田:まだできたばかりの文化だから、例えば、今の中学生や高校生は、きにくいんじゃないかなとは思うんだよね。こういうところが小さい頃にはなかったわけだから。 でも、これを続けて行くことで10年後には「子ども食堂」が当たり前になってる時代が来るんじゃないかなと思うんですよ。
「子ども食堂」は行きたいと思ったら誰でも行ける場所
天野:「子ども食堂」の普及率についてはとくに目標を立てていたわけではないんですけど、いい感じで増えていると思います。うちが今主催でやっているのが4つ。そのほかに企業やお店などがやっているものが4つで計8つあるんです。豊島区には中学校が8つあるので、最低8つはほしいと思っていたのが実現して、いい感じで点在してきていますね。
中野:それぞれやり方はバラバラなんですか?
天野:そうですね。バラバラです。そして、子ども食堂は、今後さらに増えると思います。
中野:行きたいと思った時に、どこの「子ども食堂」に行ってもいいんですか?
天野:もちろんです。
谷内田:僕の実家が銭湯なんですけど、「子ども食堂」に来て、久しぶりに風呂屋の感覚を思い出しましたね。地域の人たちが集う場所。僕たちが小さい頃に当たり前にあった場所が今の「子ども食堂」なのかもしれないですね。
「お母さん」だけががんばるのではなく、地域で支えればいい
天野:私は、孤食の子どもってすごくよくないと思っているんです。でも、この時代、会社員として働いている人は残業が当たり前、帰りが遅いのが当たり前じゃないですか。それ自体が私はダメなことだと思うんですけど、やはりその犠牲になっているのは子どもたちなんですよね。本当なら家族で過ごす時間があるべきなのに、それがない。
中野:最近、ニュースとか新聞で孤食と言う言葉を本当によく聞くようになりましたよね。
天野:それが家庭でできないのであれば、地域でやればいいと思うんです。ここにボランティアに来てくれている学生たちも一人暮らしで孤食なんですよね。だから、子どもだけではなくて、若い人やお年寄りでも孤食な人はたくさんいるんですよね。 毎日みんなで食べるのは疲れるのかもしれないけど、時には、みんなでわいわいがやがやご飯を食べるのも大事だと思うんです。
中野:子どもはとくに、ワイワイご飯食べたほうがいいよね
谷内田:学生が孤食って聞いてハッとしたけど、学生は友達とご飯食べたほうがいいよね。1人でご飯を食べることが当たり前になるのは寂しいよ。 僕は「子ども食堂」のfacebookページとか見てるんですけど、ここ最近は、「取材人やタレントさんが来て手伝ってくれました」というのをこの数カ月よく見るんですよね。 そうやってたずさわる人たちが増えていくのもすばらしいなと思います。
天野:この活動のすばらしいところは、「やりたい!」「やってみたい!」という人がやっているということなんですよ。本当のボランティアなんです。だからこそ、活動がこれだけ広がっていることが嬉しいですね。ここもWAKUWAKUのサイトに問い合わせをしてくれて、ボランティアに来てくれる人がたくさんいます。
子育てって本当に大変です。普通に育てるだけでもすっごく大変。それをお母さんだけにがんばらせるんじゃなくて、地域でみんなで支えていけたらと思うんです。 私は常々「ここは堂々とお節介できる場所」ってスタッフに言ってるんですよ(笑)