【金利のコト・3】金利が上がっていく日本社会。インフレに勝てる対策って?
前回からの続き。2024年3月、日本銀行が「マイナス金利解除」を発表しました。今後金利は上がっていくと、「なかのアセットマネジメント」の中野晴啓さんは予想しています。
今後金利が上がると見通した場合。「マイナス金利解除」と聞いてピンとこないような人でも、何かできることはあるのでしょうか? 生活をする上での工夫や心得について、中野さんにお聞きします。
今後金利はどのくらいまで上がる?
――「金利は今後、徐々に上がっていく可能性が高い」とうかがいました。具体的にはどのくらいまで上がるのでしょうか?
中野晴啓さん(以下、中野さん):金利には短期金利と長期金利の2種類がありますが、2024年に日銀が利上げを発表したのは短期金利の方です。
――長期金利と短期金利の違いを教えてください。
中野さん:長期金利は一般的には10年国債の金利のことです。国債は国の財政収支に応じて発行されるので、「国債=国の借金」とも言われています。さらに長期金利は、住宅ローンなど1年以上にわたるお金の貸し借りにおいて金利の指標にもなっています。ローンを組んでいる人は、長期金利も見ておくべきでしょう。
――長期金利はどのようなときに変動するのですか?
中野さん:長期金利は、物価上昇(インフレ)に合わせて変動していくのが一般的です。世界的に見ても、長期金利は消費者物価指数(インフレ率)を反映して市場で動きます。つまり短期金利と違って、本来中央銀行のコントロール外の金利なのです。
――日本ではどうでしょう、長期金利は上がっていくのでしょうか?
中野さん:日本の消費者物価指数(インフレ率)は約3%ですから、本来であれば長期金利もこの数字に向かって回帰する傾向を示すはずです。ただ現在(2024年5月2日現在)の金利は約0.9%、3%には程遠い数字です。けれど徐々にインフレ率に近づくでしょうから、最終的には将来の期待インフレ率に近い水準に収れんすると考えられます。
金利が上がっていく中で、生活をするために必要なこと
――長期金利が上がると住宅ローンの金利が上がり、短期金利が上がると預貯金の金利が上がる。一口に金利が上がるといっても、生活をする上では損と得の両方があるのですね。
中野さん:預貯金の金利が上がることは喜べますが、インフレを考えるとそうも言っていられません。インフレ率3%というのは、100円で買えたものが103円になるということです。同じように預貯金の金利が3%であれば、100円預けると103円になるので問題なく買えますが、まだそこまでの金利はつかないでしょう。ということは、このまま預貯金をしていてもお金の価値が減っていくだけになってしまいます。
――預貯金の金利は、どんどん上げるわけにもいかないのでしょうか?
中野さん:金利は簡単に上げられるものではないんです。預貯金の金利を上げるときには、企業が借りるお金の金利も上がります。企業の場合は金額が大きいので金利が少し上がるだけでも返済できず、多くの企業が倒産してしまう可能性が出てきます。ひいては日本経済が冷え込んでしまう。簡単に金利を上げられないのには、そういう理由があります。
一般人でもインフレに勝てる手段を選ぶ
――金利を上げることと日本経済の状況は表裏一体なんですね。私たちにできる対策はあるのでしょうか……?
中野さん:これからの時代、インフレに負けない手段を選ぶ必要があります。その方法の1つが投資です。2024年1月から新NISA制度が始まり、投資が身近になってきました。インフレに強い投資先などをきちんと選んでいけば、インフレ率以上のパフォーマンスを得られるかもしれません。
――金利に関して、ほかにできることはありますか?
中野さん:日ごろから金利をチェックしておくのがベストですが、実際にはなかなか難しい人も多いと思います。そういう人は、定期的に銀行の窓口で、相談してみてはどうでしょう? 住宅ローンについては「固定金利に借り換えができるか?」「固定の場合の金利はいくらか?」なども聞いてみましょう。FPなどの専門家に相談すると安心できると思います。
金利が低い今のうちに行動すると、後になってほっと胸をなで下ろすことになると思いますよ。
編集後記
3回にわたって、中野さんに金利について教えていただいた今回の企画。改めて金利は生活に密着していると実感しました。預貯金や住宅ローンは金利に大きく影響されます。その金利も今後は上がっていくといいます。「金利=難しい」と構えるのではなく、まずは関心をもつことから始めてみてはいかがでしょうか。
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取材、文・川崎さちえ 編集・すずらん イラスト・加藤みちか