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がんばっても成績が悪かった子が伸びたワケとは?【花まる学習会】

IMG_1331明るくて思いやりがあって、ニコニコして、笑顔がとってもかわいい男の子。でも、彼は勉強がまったくできず、テストの点数はいつも0点。本来なら親や先生に怒られて、自信をなくしてもおかしくないところですが、最終的にはアメリカの大学に進学するまでに。なぜ彼は伸びたのでしょうか。「花まる学習会」代表、高濱正伸先生にお話を伺いしました。
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僕にとって忘れない男の子がいます。きんたろう君という小学5年生の男の子です。いがぐり頭がかわいい子で、いつもニコニコしてみんなにかわいがられるタイプの男の子。その子は一人っ子で、お母さんはシングルマザーとして彼を育てていました。

きんたろう君は、とってもいい子だったんですが、1つだけ問題があったんです。なにかというと、勉強がまったくできない! みんなが80点、90点、100点を争っているのに、彼だけは毎回0点。たまに取れても5点という状態でした。

僕は予備校講師の経験があったし、これまでどんな子でも伸ばしてきたので、彼のことも伸ばせる自信があったんです。でも、なかなか伸びない。それでお母さんに「すみません。きんたろう君の成績を伸ばせなくて」といったんです。そしたらお母さんは「先生。謝らないでください。あの子は元気で生きていてくれさえすればいいんですから」と。「お母さん、もうちょっと気にしましょうよ!」というくらいだったんですけどね(笑)。きんたろう君のお母さんはニコニコしていて、すごく大らかな感じの人でした。

新幹線の車掌さんに定規をもらい大喜びしたものの……

あるとき、「花まる学習会」のサマースクール(野外活動)で、新幹線に乗って出かけたことがあったんです。大はしゃぎで車内を探検する男の子たち。その中にきんたろう君の姿もありました。あまりにも嬉しそうなので話を聞くと、どうやら新幹線の車掌さんと仲良くなって、記念に定規をもらったそうなんです。そこまではよかったのですが、事件は東京駅で起きました。

新幹線を降りる際、C君が「定規がない」と泣き出したんです。普段から、筆箱がない、カバンがない、靴がないと物をよく失くす子でした。「靴がないって、ここまでどうやってきたんだ!」と思わずツッコミたくなるんですけどね(笑)。
なので、僕はC君に「ちゃんとリュックにしまいなさいと言っただろう。君が悪い! もう降りるよ」と言ったんです。そしたらホームに降りた途端、C君が「はあああああー!」と泣き出したんです。C君は、以前から何かあるとすぐに泣きだしてしまう子でした。その日は特にひどく、人はこんなに悲しい泣き方ができるのかというくらいの泣き方で、ホームにいたみんなが一斉にこっちを見たほどです。それほど哀れな泣き方でした。

それをじっと見ていたきんたろう君は、C君の後ろに回って、自分が車掌さんからもらった大切な定規をC君のリュックの中にそっと入れたんです。

きんたろう君がなぜそんなことをしたのか、わかりますか?
「そんなに欲しいんだったら俺のをやるよ!」というのは、子どもの世界では相手をバカにした行為なんですよ。子どもだってプライドがありますからね。そんなふうにいわれたら「いらない!」となります。

きんたろう君は、彼を傷つけないように自分の宝物をそっとC君のリュックサックの中に入れてあげたんです。僕はそれを見て本当に感動しました。後日、その出来事を「花まる学習会」で出している会報誌に書いたんです。この話にはまだ続きがあります。

「きんたろう君のあげた定規はこれですか?」

ある日、かっぷくのいいおじさんが「花まる学習会」を訪ねてきたんです。何の用だろうと思ったら、ここの塾に通っている子のお父さんだったそうです。そのお父さん、会報誌できんたろう君の話を読んでとても感動したそうです。聞けばJRにお勤めだとか。
そのお父さんは「きんたろう君があげたという定規は、これだと思うんですよね」と言って、20本ぐらい定規が入った箱をどーんとおいたんです。「これ、きんたろう君に渡してください」って。きんたろう君のお母さんに電話したら「20本もいりません」って言われたんですけどね(笑)。もう「金の斧、銀の斧」状態ですよ!

苦手なことよりも得意な分野を伸ばす

その後も、きんたろう君の学力はあいかわらず伸び悩んでいました。ただ、彼はずっと学習への意欲は失わなかったんです。
中学2年になって、どんなにがんばっても数学が伸びなかったとき、彼は大きな決断をしました。きんたろう君は「僕、数学は諦めます」。きんたろう君はそういって熱心に英語の勉強を始めました。そのかいあって高校1年生で英検一級を取り、卒業後はアメリカの大学に進学するまでになりました。
今、彼は日本に帰ってくるたびに「高濱先生、遊びに行っていいですか?」と連絡をくれます。

放っておいたら転落の人生だったかも?

僕は、彼も相当がんばったけど、それを支えたお母さんもすごかったと思います。彼は、放っておいたら転落の人生だったかもしれません。元々できないことが多くて自信がないうえに、お母さんまでがそれを気にしてアレコレ言って注意していたら、心の底から「自分はダメな子なんだ」と思ってしまったかもしれません。
しかし、お母さんが彼のことを肯定的に見ていたおかげで、それがものすごく彼の自信になったのだと思います。「母は強し」ですね。お母さんのエネルギーが、最後は子どもたちを支えるのです。

文・間野 由利子