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「僕をきっかけに、少しでも多くの人が発達障害について興味を持ってくれたら」 栗原類『発達障害の僕が輝ける場所をみつけられた理由』発売記念トークショー

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モデル・タレント・役者として、幅広い活躍を見せている栗原類さん。独特のキャラクターで人気を誇る栗原さんですが、昨年、NHKの情報番組「あさイチ」で、自身が「発達障害」であることを公表し、話題となりました。それをきっかけにこのたび出版されたのが、『発達障害の僕が輝ける場所をみつけられた理由』(KADOKAWA)。

8歳のときに「発達障害」のひとつであるADD(注意欠陥障害)と診断を受けた栗原さんが、同じくADHD(注意欠陥多動性障害)という障害を持つ母親や信頼できる主治医とともに、自身の才能を活かして輝ける居場所を見つけるまでの道のりが綴られています。10月10日、この本の出版を記念したトークショーが、都内で開催されました。

「僕をきっかけに、少しでも多くの人が発達障害について興味を持ってくれたら」

栗原さんはこの本の出版について、「僕をきっかけに少しでも多くの人が発達障害について興味を持ってくれたら、それだけで嬉しいと思っています。どんな人が読んでも得をするような本にしたいという気持ちで作りました。当事者の方や、発達障害のお子さんを持つ親御さんたちにも、自分の体験やミスなどを参考にして、向き合い方のひとつとして考えてもらえたら」と語ります。

そもそも発達障害ってどういうもの? 「病気」ではないの?

栗原さんの主治医である高橋猛先生によれば、「発達障害とは、感覚が過敏でこだわりが強い自閉症などの『広汎性発達障害』やじっとしているのが苦手な『注意欠陥多動性障害』(ADHD)などの総称で、生まれながらの脳の機能障害が原因とされている」そうです。重要なのは、発達障害は「病気」ではないということ。栗原さん自身は、発達障害を「脳のクセ」であると説明しています。

栗原さんは8歳のときにアメリカでADD(注意欠陥障害)と診断されています。現在、発達障害の症状は、色々な要素が重なり合うように現れることがわかっています。高橋先生の初診当時、類さんはADHDが中心に、LD(学習障害)も少しあり、広汎性発達障害(アスペルガーも含む)※の要素もある。精神遅滞はなく、知能指数は高い、という状態だったそうです。

※現在の診断基準では「アスペルガー」という表記はされず、自閉症・アスペルガー症候群・広汎性発達障害は「自閉症スペクトラム」という名称で統一されています。

アメリカと日本では、発達障害の対応はどう違う?

日本とアメリカを行き来しながら幼少期を過ごした栗原さん。「アメリカでの発達障害への対応は、日本とどう違いましたか?」と聞かれると、

「アメリカの学校では、発達障害の生徒がいると、そのことをみんなに知らせたうえで、全体で協力をしてくれるんです。個人にそういう得意不得意があることを踏まえて、負担を感じにくいように配慮をしてくれる。だからといって、本人が得意なことだけをやらせてあげようという感じではなく、苦手なことは少しでも克服できるよう訓練していこう、みんなで頑張って作り上げていこう、という態度でいてくれたんです。長い目で見るという姿勢を取ってくれていたので、僕も先生たちを全面的に信頼することができていましたね」とのことでした。

日本では、「みんなができることは、みんなと同じようにできなければならない」という考え方が根強く、当人や親御さんが障害を持っていることや、周囲と同じようにできないことを負い目に感じたり、自分のことを責めてしまったりということが起こりやすいです。それに伴って、発達障害であることを周囲に伝えられない、そのせいでまた苦しい思いをする……というケースも多くあります。アメリカでは、発達障害であることを疑われるお子さんが学校にいる場合は、必ずそれを保護者に報告することが義務づけられているそうです。初期のころに診断を受け、誰が悪いということにもならず、それが周知されていくというふうに対応がなされます。

栗原さんは、「あのとき診断を受けていなければ、僕は今ここにはいないと思います」「早いうちに自分の特性が理解できて、対処できたこと、そして母や信頼できる主治医の先生、友人など、周囲の方々が理解を示していてくださったことがとても大きいです」と話していました。

母・泉さんの教育方針

母の泉さんは、栗原さんとは異なるタイプの発達障害を抱えつつも、二人三脚で栗原さんを日々導いてくれる存在でした。思い出深いエピソードとして、保育園に通っていたときのことを語る栗原さん。

「僕は小さいころから感覚が過敏で、大きな物音などがすごく嫌だったんです。日本の保育園に通っていたころは、ほかの園児ががなり立てるような声で歌を歌うのがとても苦痛で、耳を塞いでその場にしゃがみこんだり、教室から逃げ出したりしていました。なので母は保育園の先生から『類くんはみんなで楽しく歌うということを楽しめない、情緒がない子だ』ということを言われたんだそうです。子どもが発達障害であるような場合って、何か問題が起こったときでも、責められるのはいつも親御さんの方だというのが辛いところだと思うのですが、母は医師に相談をしたうえで、『自分にとって嫌な音を聞きたくないと思うのは人として当然のこと』と、保育園の先生にきちんと説明をしてくれました。僕の味方になって、周囲と闘ってくれた。そういうふうに、『親が自分のために闘ってくれる存在である』ということは、子どもにとってとても重要なのだと思います」

また、親子でまったく異なるタイプの発達障害を持っていたことが、うまく作用した部分もあったようです。外部から見守ってくれる主治医の存在も大きかったそう。

「母親と僕とは全然違うタイプの発達障害なんです。僕は何でもすぐに忘れてしまうタイプで、母は逆に何でも細かく覚えているタイプで。だから僕ができなかったことや忘れてしまうことをひとつひとつ覚えていてくれて、ミスが繰り返されるそのたびに指摘をしてくれていました。母は『自分ができることでも、同じことを子どもに求めない』ということを医師から聞かされていて、僕にできないことがたくさんある場合でも、『なんでできないんだ』と言ったりはできる限りしないように心がけていてくれました。親として子どもと向き合ううえで、感情的になってしまうことというのはある程度は仕方がないことですが、そういう部分では、客観的に見てくださる主治医の存在が助けになったのではと思います」

「輝ける場所」をみつけた今

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「小学生のときに、コメディ俳優になりたいという目標を持ったんです」と話す栗原さんですが、昔から感情表現や、他人の気持ちを読み取ることが苦手だったそうです。そんな栗原さんが、なぜ演技の道に進まれたのか。それは、小学校のときに「笑いのすばらしさ」を説いてくださった先生がいたからだと語ります。

「今でもそうなのですが、僕は冗談を言われてもすごくまじめに受け止めてしまうようなタイプで、幼いころは人から笑われること、人を笑うことに対して悪いイメージがありました。そんな僕に、担任の先生が『笑いというのは本当にすばらしいものなのだ』と熱弁してくれたことがきっかけで、それまで全然観なかったコメディ番組を観るようになったんです。そこから笑いのすばらしさに気がついて、コメディ俳優になりたいと思うようになりました。発達障害者には感情表現が苦手な人が多く、僕自身も気持ちを表情に出すことが得意ではないのですが、母親が『顔で感情を伝えることが苦手なら、ちゃんと言葉で伝えることを意識しなさい』ということを言ってくれたので、それを心がけて生活をしています。他人に共感がしにくいという部分も、母と一緒に映画などを見ながら『今この人はどういう気持ちなんだと思う?』というふうに話し合うことで、克服しようとしてきました。お芝居をしていると、いつもエスパーや吸血鬼など、あまり人間的ではない役ばかりいただいてしまうのですが、今度公開される『インターン!』という映画では、二年半ぶりに普通の人間の役をやったので、ぜひ演技を見てほしいですね。僕がお芝居をしているところを観て、少しでも楽しいと感じて笑ってもらえたら」

「伝えること」の重要さを知り、自分自身が好きになれた本

イベントには、自身が発達障害だという方や、お子さんが発達障害だという親御さんも多くいらっしゃいました。そうした方々への栗原さんからのメッセージで、イベントは閉じられました。

「発達障害であることを公表したとき、僕の声を聞きたいと言ってくださる方がたくさんいて、今回この本を出すことができました。どんな人が読んでも、明るい気持ちになったり、明日に向けて頑張ろうと思えたりする本なので、参考にしてもらえればと思います。僕自身も、改めて『伝えること』の重要さを感じました。『自分が輝ける場所』を見つけるには、理解者が周囲にいるかいないかが大きく関わってきます。自分のことを言葉にして伝えなければ、周りも理解できない。もちろん、全体に理解が広まっていくかどうか、それがいつになるのかというのははっきりしないけれど、まずは「伝える」ということが大事なんだと思っています。それに、この本を作ることで、自分自身のことが前よりも好きになれたし、変われたところがあるんじゃないかなと感じました。少しでも多くの方に読んでいただけたら嬉しいですね」

発達障害と付き合いながら子育てをされている方や、お子さんが発達障害で悩んでいるという方、さまざまな事情のママさんがいらっしゃると思います。「周囲と同じように行動できないのが辛い」「子どもに障害を持たせて産んでしまった」「もしかしたら、うちの子は発達障害かも」……そんなふうに悩み苦しむ人びとの荷を、栗原さんはまじめな言葉でそっと降ろしていきます。誰が悪いというふうでもなく、自分は自分として、自身の特性と向き合いながら生きていく。こうした姿勢は、障害を持つ人にとっても、持たない人にとっても重要なものではないでしょうか。

 

また、終始周りの理解者に対して感謝の言葉を述べていたのも印象的でした。二人三脚でやってきた母だけではなく、主治医や学校の先生、友人や一緒に働き生活する人びとのおかげで、今の自分があると栗原さんは語ります。抱え込まず、自分を責めず、少しずつでも周りへ自分の状況を伝えていくこと。栗原さんの言葉は、そうしたことの大切さを、まっすぐに教えてくれるものでした。

文・伊東杏奈

『発達障害の僕が 輝ける場所を みつけられた理由』

著者:栗原 類

出版社: KADOKAWA

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