『真田丸』〜戦国時代のキーワード【人質】とは?
NHK大河ドラマ『真田丸」、好評のうちに第7回を迎えます。
本能寺の変が起こり、政局が大きく動く中、真田家一族の生き残りをかけた戦いが始まろうとしています。
第6回では、織田に人質として出していた松(木村佳乃)の救出失敗、それに追い打ちをかけるように婆さま(草笛光子)を滝川家の人質に差し出したところで終わりました。この先どうなるのか、ドキドキしますね。
さて、戦国時代の物語でしばしば耳にする言葉が「人質」です。人質といえば、縛られたり凶器をつきつけられたり…という物騒なイメージですが、戦国時代の場合は少し異なり、いわば信頼関係を示す担保のような役割になります。
家と家の同盟の証として、家臣から主君への忠誠の証として家族を差し出すように言われたり、あるいは自ら差し出したりします。家族を担保に……というと、なんだか悲しい話ですが、裏切りや寝返りが頻発していた戦国時代では、とても有効な手段だったのです。
『真田丸』では描かれていませんが、徳川家康もまた幼少期を今川家の人質として過ごしました。三河の小さな領主でしかなかった家康の家は織田家と今川家に囲まれ、生き残りが難しい、つまり真田家と同じ状況でした。そして今川から援軍を出す代わりに当時6歳の家康を人質にと要求されたのです。その後、一時は織田の人質にもなるなど、成人するまでの家康は苦労が耐えませんでした。少年期に味わった苦労や屈辱が後に天下をとる原動力となったのかもしれませんね。
一方、豊臣秀吉は貧しい出自のため自身は人質を経験していませんが、天下とりに際して、実の母や妹を家康に差し出しています。なかなか自分になびかない家康の信頼を勝ち取るために大切な家族を使う……狡猾な秀吉ならではの策といえるでしょう。
人質交換といえば政略結婚もそのひとつといえます。対等な力を持つ家同士の結婚により関係は深まり、双方の力はより強固になります。特に娘や妹など嫁を差し出す側は真の忠誠を示すことになります。
もちろん、政略結婚とはいえ夫婦間に愛情が芽生えたり子どもが生まれたりすれば、それはそれでめでたく、両家も安泰といえるでしょう。
ですが逆に家同士に争いが起きた場合は、真っ先に人質に危険が及びます。嫁に出した側はなんとか救出しようと努力しますが、婚家はみせしめのために殺してしまうことも。ひとたび関係が壊れ、それまで仲良く暮らしていたにもかかわらず殺されてしまった妻(人質)は少なくありません。
ただしこの時代、本人も嫁ぐ時点でそうした覚悟はできているものです。
だからこそ両家の架け橋となるよう、よき妻、よき母、そしてよき人質であろうとします。戦場へ行くことはなくとも、女性には女性なりの戦国時代の命をかけた戦いや誇りがあったのですね。
象徴的といえるのが、お市の方と娘の茶々ではないでしょうか。
信長の最愛の妹でありながら人質として浅井家へ嫁ぎ、3人の娘を産んだお市の方。夫婦仲はとてもよかったものの、浅井家は織田を裏切ったことにより滅ぼされてしまい、夫・長政も自害します。お市の方は織田に救出されましたが、信長の死後は、娘たちを連れて柴田勝家に嫁ぎます。しかし今度は天下を狙う秀吉に戦をしかけられ、娘たちだけを助け、本人は夫と共に自害しました。
残された3人の娘の長女が後に「淀の方」と呼ばれる茶々です。小さな頃から戦によって翻弄された茶々でしたが、したたかにも仇である秀吉の側室となり、秀頼を産みます。この秀頼こそ真田信繁が命をかけて守る豊臣家最後の主君です。
●大河ドラマで茶々を演じたおもな女優
瀬戸朝香(利家とまつ〜加賀百万石物語〜 2002)
永作博美(功名が辻 2006)
宮沢りえ(江〜姫たちの戦国〜 2011)
二階堂ふみ(軍師官兵衛 2014)
戦国時代の最後の大戦をしかけた茶々は、大河ドラマでも何度も描かれてました。生きるために仇に魂を売った女・秀吉の晩年を狂わせた魔性の女など悪女の印象が強く、演じた女優さんも美しく芯の強いイメージの方が並びます。
ただ、本心はだれにも知ることができませんが、政略結婚によって生まれ、父も母も戦で失った茶々にとって息子・秀頼は唯一の心の拠り所だったことは間違いなく、その息子をどんなことをしてでも守りたいという、母親としてごくごく自然な愛情が、時代のうねりの中で戦にまで発展してしまっただけかもしれません。
『真田丸』で茶々を演じるのは竹内結子さん。
そして信繁も今後、人質として上杉・豊臣家に仕えることになります。そんな二人が思いを共にする物語のクライマックス、敵もまた人質として育った家康です。
キャストそれぞれの背景や思いを想像しながらこれからも楽しんでいきたいですね。
文・編集部