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「子ども子育て応援宣言のまち」誰も取り残さない支え合いのまちづくりを推進【東京・武蔵野市】

武蔵野市松下玲子市長インタビュー

「子育て支援は、自分が子育てをしているかどうかにかかわらず、すべての市民でやるべきこと」と語るのは、東京都武蔵野市の松下玲子市長です。サッポロビールに勤務したのち、社会保障制度への課題を感じて選挙に立候補。現在は武蔵野市長を務めています。子育て支援のほかにも、ひとり親支援、障がい者支援に積極的に力を入れている武蔵野市の具体的な取り組みとその思いについて、松下玲子市長にお伺いしました。

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子育ての大変さ、社会保障制度のもろさに気づき都議会議員へ

――元々はサッポロビールにお勤めだったそうですね。どのような経緯で市長になられたのでしょうか?

松下玲子市長(以下、松下市長):新卒で入社したサッポロビールに定年まで勤めようと思っていたのですが、社会保障制度の課題に気がつき大学院に入り直して勉強しました。

34歳で初めて都議会議員となり、37歳のときに現職の都議会議員として初めて任期中に妊娠、出産をしたのですが、子育てはもちろんのこと、仕事との両立も本当に大変でした。子どもが熱を出しても議会があると休めません。そんなときは実家の両親にもさんざんお世話になりました。今も同じような思いをしている保護者の方はたくさんいると思います。その経験から武蔵野市の保育園や病児保育の数を増やしました。現在、武蔵野市は3年連続で待機児童ゼロです。

子どもはまちの未来を作っていく大切な“人財”

――武蔵野市の子育て支援について教えてください。

松下市長:武蔵野市では、「子ども子育て応援宣言のまち」を掲げています。私自身も子どもがいて、子育てをしています。子どもは可愛い。しかし同時に子育ては経済的にも、体力的にも、時間的にもすごく大変な面があるのも事実です。お母さんやお父さんなど、子どもを育てている人たちだけに負担がいってしまい子育てを楽しむ余裕がないのです。

武蔵野市では、2021年4月から段階的に「高校生等医療費助成事業」として、高校生(18歳に達した日以後の最初の3月31日まで)の保険診療にかかる医療費の自己負担分を助成しています。自己負担なし、所得制限なしでようやく実現できた制度です。

――独身や高齢者の方の中には、「子育ては自分には関係ない」「子育て世帯ばかり優遇している」と思う方もいるかもしれません。

松下市長:将来的に大人たちの年金や介護などを支えるのは、今の子どもたちです。子どもたちが大きくなってお店で働いたり、介護をしたり、行政に携わるなどして未来のまちを育てていきます。私たちが手塩にかけて育てた子どもたちが、今このまちに住んでいる大人たちを支えていくことになるのです。そう考えると、子育て支援は、自分が子育てをしているかどうかにかかわらず、すべての市民でやるべきことなのではないでしょうか。

親子で参加できる農家の収穫体験会などを実施。その意図は?

――武蔵野市では、地域交流が盛んだと聞きました。

松下市長:地域との交流を増やすことで、子育て中のお父さんやお母さんを地域の人との輪につないでいくことが大切だと考えています。たとえば、今はコロナで中止していますが、学校のプログラムで地域に根差した体験学習を積極的に取り入れています。
また、この交流によって住民の方や行政のスタッフとも信頼関係を築いていくことで、困ったことがあれば育児や虐待についての相談にもつなげたいと考えています。
市内には農地もたくさんあるので農家見学会も申し込み制でやっています。親子で農産物の収穫体験もできますよ。あらゆる体験を通じて、親や子どもなど家族が健やかに育つことができるように心がけているのです。

――学校給食にも力を入れていると聞きました。

松下市長:できるだけ加工品は使わない、出汁もかつおぶしから取る、市内農家の野菜を納品してもらうなど、かなりこだわっています。たとえば、朝収穫したばかりのとうもろこしをその日の給食に出すこともあります。

障がいがある子もない子も共生できる社会を目指して

――医療や福祉にも積極的に取り組まれていますね。

松下市長:子育てにはお金がかかります。子どもが病気にかかったときや障がいのある場合はさらに負担がかかると思います。先ほども話に出ましたが、医療費については18歳までのすべての子どもの医療費助成を自己負担や所得制限なく実施しています。そのほかにもひとり親の方や、障がいのある子どもが、受けることができる様々な手当や助成がありますので、このような制度をもれなく利用し、少しでも負担軽減を図っていただけるように取り組んでいます。

障がいのある子ども、医療的ケアや心身の発達などのケアが必要な子どもが増えています。
児童発達支援センターでは、0~18歳までの心身の発達に気がかりなところがある子どもとその親への相談・支援を行っています。実際に「ほかの自治体では相談までに1年近く待ったけど、武蔵野市に転入したらすぐに相談できて安心しました」という市民の声も届いていて、とても嬉しく思いますね。また、心身発達のケアが必要なお子さんや療育が必要なお子さんへの支援として、未就学児が通所できる児童発達支援事業も行っています。
こちらの施設には、おもちゃを通して親子でのびのび遊ぶ場である「おもちゃのぐるりん」を併設しています。障がいのある子どももない子どもも、交流を持つことで多様性を知り、お互いを思いやる気持ちが芽生えるのではないでしょうか。ほかにも市内には医療ケアの必要な子や肢体不自由の子などが利用できる放課後等デイサービスもありますよ。

実は私も、かなり前に家族が交通事故により足を切断、身体障がい者になったことで、改めて社会制度の必要性を痛感しました。今は仕事があり、生活も安定している方も、健康で元気に働いている方も、加齢や突然の事故や病気により今まで当たり前のようにできていたことができなくなってくることもあります。そうなったときにすぐに手を差し伸べられるような社会を作っていきたいと思います。

学習者用コンピュータから直接子どもが声を届けられるようにしたい

――市民の意見はどのように取り入れていますか?

松下市長:たとえば、武蔵野は緑の維持管理にも力を入れていて、通称「サスケ公園」と呼ばれる子どもたちに人気の公園があるのですが、リニューアルする際に、その公園や周辺の公園で遊んでいる子どもたちに市の職員がアンケートを取り、子どもたちの意見を取り入れて作ったものです。
小学校、中学校ではスクールカウンセラーなどによる全児童・生徒の面談を行っています。子どもによっては口に出して言う子ばかりではないので、学校の先生たちもスクールカウンセラーも子どもの変化を見逃さないようにしています。

――全生徒に面談することで、小さな声にも気づきやすくなりそうですね。

松下市長:ゆくゆくは子どもたちに貸与している学習者用コンピュータから直接声を届けられるようにできたら良いなと思います。また、重大ないじめとまではいかなくても、友達に無視されたなど嫌なことがあれば、第三者的な相談機関があったほうが伝えやすいでしょう。武蔵野市では、子どもの尊厳と権利が尊重されるよう「子どもの権利に関する条例(仮称)」を作ろうとしています。そのなかでは、学校とも市役所とも違う子どもの相談窓口を置くことを検討しています。早いうちに対処できれば、いじめへの発展を防ぐことにもつながると思います。

これから先も武蔵野市で生活していくうえで、学校のこと、生活のこと、いろいろなことで悩みや問題が出てくると思います。武蔵野市は、「誰もが安心して暮らし続けられる魅力と活力があふれるまち」を目指しています。市民ひとり一人の声を聞き、しっかりと話し合い、大人に限らず子どもの意見もくみ取り、市政運営に活かしていきます。

取材、文・長瀬由利子 編集・北川麻耶

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