失恋した4才の娘に、ブルゾンちえみのネタを披露した結果……
いつかは訪れると覚悟はしていたものの、意外に早くやってきた娘の初恋。しかも、想像していた淡~い恋心とはすこし違う、幼いなりの全身全霊本気モードの恋愛。
これは、そんなはじめての失恋に落ち込む娘と、娘の失恋にはじめて挑んだ母のお話です。
大好きで大好きで、離れたくなかった年長さんの卒園
4才・年少の娘からはじめて「大好きなひとがいる」と告白されたのは、年が明けてすぐのこと。相手は、2つ年上で年長さんの男の子・Aくん。娘の幼稚園には「縦割り制度」というものがあり、週の中で年少・年中・年長が同じクラスで過ごす日があります。Aくんは、娘のお世話をしてくれていた優しい男の子。家ではお姉ちゃんの娘は、まるで本当の妹のように接してくれていたAくんにすっかり懐き、いつしかそれは恋心に変わっていったようです。
しかし、娘がその恋に気付いたころには、悲しいながらも年長さんは卒園の準備をはじめているさなか。「もうすぐAくんがいなくなる……」と、幼稚園から帰宅後、娘は毎晩泣くようになりました。
もちろん卒園式でもひとり号泣。その姿をみて、「また会えるよ」とか「お手紙書こうね」くらいしか声掛けできない私も、ついもらい泣きをしそうになるくらい、娘の本気の恋はAくんの卒園をもって散りました。
いつまでもひきずる前の恋。前を向いてほしい!と私が頼ったのはあの人
春休みは比較的落ち着いていた娘。しかし新学期に入り、いざ登園がはじまるとフラッシュバックするAくんとの思い出……。また、帰宅してからメソメソするようになります。辛いよね~。その気持ち分からなくもないんだけど……正直、私自身もそろそろ喝を入れたくなってきます。前の恋を引きずってウジウジしている娘は、せっかくの新しいお友達や、新しい環境になじめていません。何より、毎日が楽しくなさそうです。これは何とかしてあげなくては! と、娘の初恋1年生の新米ママである私は、とある人に助けを求めました。それは……ブルゾンちえみさんです。
ブルゾンちえみさんの「キャリアウーマン」というネタ、ご存知ですか? 失恋した後輩への励ましのネタ。これだ!と思い、さっそく娘に見せます。すると……「???」通じていない模様。
しまった! 娘はガムを食べたこともなければ、数で一番大きいのは14だと思っているのです(なぜか)。
ブルゾンちえみ「キャリアウーマン」4才児バージョンを披露。その結果は……
ガムのように、噛めば噛むほど味が薄れていくもので、娘が食べたことがあるもの……。頭をフル回転させて私がひらめいたのはスルメです! 娘はスルメをいつも白くなるまで噛んでは、最後にペッとしてしまいます(するめの繊維が飲み込みづらいらしい)。そう、スルメだ! スルメを14枚買いに行こう! と思い立ったは良いのですが、スルメが14枚って意外と揃わないんです(笑)。数日後、何とかして揃った14枚のスルメを並べて、THEショータイム! ブルゾンちえみさながら、娘に「いつまでも前のスルメをかじっていないで、新しいスルメに目を向けてごらん。スルメはいっぱいあるんだから」と、諭します。すると娘は「何のお話?」と聞いてきます。
あれ? まだ通じないかな? と思い「いつまでもAくんを想う気持ちはとても大切だけどさ、そればっかだと新しいお友達のいいところが見えないよね」と話している途中で、娘はひとこと、
「Aくん? あぁ、Bくんと結婚することになったからもういいよ~」
なーーーにーーーーー!!! わたしがもたもたスルメを買いそろえている間に、あっという間に娘は心変わりをしてしまったそう。なんで? あんなに好きだったじゃん? 気持ちを切り替えてほしいと願っていたはずなのに、食いつくように心変わりの模様を聞きます。
どうやら、前からBくんにはプロポーズされていたのだが、Aくんに夢中で気に止めなかったのだそう。しかし、Aくんと会えなくなったという現実を受け止めた結果、次第にBくんに惹かれていったのだとか(もちろん4才児ですので、こんなに流暢には話しません)。
この14枚のスルメはいったい……。
親がアレコレ手を焼かなくても、子どもは自分なりに考えて乗り越えていける力を持っているんですね。女の恋は上書き保存というけれど、娘よ。あなたも立派な女ですね(笑)。14枚のスルメを前に呆然と立ち尽くしながらも、娘の成長を嬉しく思ったと同時に、“見守る”ということを改めて学んだ瞬間でもありました。
今になって冷静に考えてみるとスルメじゃなくてアタリメにしておけば、1回買うだけで済んだのかな……と、おやつにスルメをかじりながら思うのでした。
文・ブルゾンするめ イラスト・ちうね