【フローレンス】経済的な問題を抱える家族への必要な支援とは?行政以外にも手はある
前回からの続き。ひとり親家庭や経済的に厳しい子育て家庭では、子どもの体験格差や孤立など、さまざまな問題があります。特に経済的に厳しい中では、子どもの発熱などで仕事に行けない状況は本当に困ってしまうことでしょう。今回は、経済的に厳しい家庭に対してフローレンスさんがどのような取り組みを行っているのかを伺いました。
子どもが風邪だとひとり親は仕事に行けないかも……
ーー経済的に厳しい子育て家庭では、仕事に行けるか行けないかが本当に大事になってくると思います。特にひとり親だと、子どもが風邪だと仕事に行けるかどうかまでもが問題になってしまいます。
高森千寿子さん(以下、高森さん):37.5度以上あると、子どもを保育園に預けることができません。子どもが熱を出すと、朝のバタバタの中で仕事の調整をして誰かが子どもの面倒をみなくてはいけない。そんなときこそ社会に頼ってほしいと思っています。フローレンスでは、仕事と子育ての両立をするための伴走者になりたいという思いから病児保育事業が始まっています。
ーーフローレンスさんの病児保育は、どういう思いから始められたのでしょうか。
高森さん:病児保育はフローレンスの創業時からの事業で、20年前から行っている取り組みになります。現会長がベビーシッターをしている自身の母親から「自分がシッターをしていたところのお母さんが、会社をクビになった。その理由が、双子の子どもが熱を出し、うつし合ってしまってトータル1週間ほど休んでしまったからだそう」という話を聞きました。子どもが熱を出すことは当たり前で、誰かが面倒を見ないといけない。でも仕事を休んだら仕事を失うというのはおかしいのではないか、というそのときの思いからこの病児保育の事業が生まれました。
現在では訪問型かつ共済型という形で行っています。ご連絡をいただくと、おやこレスキュー隊員(保育スタッフ)がご自宅まで伺い、その日一日ご自宅でお子さんを見させていただきます。
ーー一般の病児保育はお金を支払うと思うのですが、経済的に厳しい子育て家庭はどういう支払いになるのでしょうか。
高森さん:経済的に厳しくて利用料を払えないという方もいるかと思います。そこで2008年に病児保育の中でも「ひとり親支援プラン」を始めました。寄付を原資として入れる形で、一定の条件下であれば、ご負担を軽くして入会していただくことと、実際に保育を依頼するときに安価で利用ができます。
子どもたちに「体験」を提供
ーー経済的に厳しい子育て家庭の問題として、“体験格差”があげられていましたが、そこに対する支援はあるのでしょうか。
高森さん:2024年の8月から始まった事業で「こども冒険バンク」というものがあります。まずは会員になっていただく必要があるのですが、世帯年収400万円以下であること、ひとり親家庭であること、家族の中に障害をおもちの方がいることのいずれかに該当する方のみが会員になれます。そして、この取り組みはプラットフォーム事業になります。プラットフォーム事業とはさまざまな企業から提供される体験コンテンツを集め、体験が不足しがちな家庭に届ける事業で、ここにある体験は全て無料でできます。
ーー全ての体験が無料でできるのはいいですね。
高森さん:寄付とは少し形が違うのですが、企業から体験を無料で提供していただくことで実現しています。会員の方は、プラットフォームから体験したい内容をクリックして申し込むだけです。LINEの友だち追加から簡単にできますよ。
ーー「こども冒険バンク」にはどのような体験があるのでしょうか。
高森さん:たとえば、動物園を運営している企業からいただいた体験だったり、メーカーさんからいただいた「工場見学」の体験だったり……。その企業に関連する人気の体験がたくさんあります。体験に参加した子どもたちから、「これすごい!」「こんな仕事があるんですね」「こんなことができる大人になりたい」というような声もいただきました。その声を聞いて、逆にうれしい気持ちをもらっています。
編集後記
子どもが熱でも仕事を休めず、病児保育を利用したい方は多いことでしょう。経済的に厳しい方にとって、寄付によって少しでも安く病児保育を提供してもらえることは、とても助かることなのではないでしょうか。「こども冒険バンク」では、たくさんの体験が無料でできることに驚きました。さまざまなことを体験してほしいと思って子どもたちに提供したことを通して、逆にうれしい気持ちをもらっている関係もすてきですね。
取材、文・いけがみもえ 編集・しらたまよ イラスト・水戸さゆこ