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『びじゅチューン!』井上涼さん「私はまさに、こういうリアルな反応が欲しかったんだなと改めて思いました」

2007年に美術大学の卒業制作『赤ずきんと健康』がネット上で大ブレイクしたクリエイター井上涼さん。現在は、世界の美術作品をポップな歌とアニメで紹介する人気番組『びじゅチューン!』(Eテレ)などで活躍中です。作品から発想した映像は、作詞・作曲から歌、アニメーションまで、すべてを井上さんみずから手がけているんだとか。彼の作り出すポップな画面、奇想天外な歌詞、思わず口ずさんでしまうメロディーなど、独特の世界に病みつきになる人が続出!

ママスタでは、そんな井上涼さんにインタビューを行い、井上さんの作品にかける思いや今後の目標などを語っていただきました。

大学卒業後、会社勤めをしながらアーティスト活動をしてきた7年間を振り返って

――卒業制作『赤ずきんと健康』が学生映像コンテストBACA-JAで佳作受賞し、翌年はそれが大ヒットしました。井上さんはすぐに独立はせず、会社勤めをしながらアーティスト活動をしてきたそうですね

そうです。丸7年。広告代理店に就職してクリエイター職をやっていました。広告のデザインって、自分の表現を追及するというよりは、クライアントさんからの指示に従って制作をするという仕事なんですね。それに対して、自分は自身の作品を好きなように作りたいタイプなので、広告代理店での仕事は、自分が本当にやりたいこととのズレを感じるものでした。「自分にできることはまだまだ他にもあるかもしれない……」と思いながら、会社を辞めるきっかけをつかめないでいるうちに、7年経っちゃったって感じですね。

それでもプライベートでのクリエイター活動は続けていて、SNSの普及も進むなかで、作品を見てくれた人たちからの反応が、Web上などで目に見える形で返ってくるのが楽しくなってきたんです。広告とかCMって、作った側にリアルな反応が返ってくるということがあまりないんですよね。私にとっては「作品に反応がある」というところが一番大きかったです。だから、もっと周囲からの声が得られる、「これは自分の作品だ」と感じられるものを作りたいなと思って、会社を辞めてアーティストになったんです。

▼『YADOKARI(ヤドカリ)』も会社勤めをしていた時の作品

――大学時代からオリジナルの作品を制作されていたとのことですが、大ヒット作『赤ずきんと健康』の誕生秘話についてお聞かせください。

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大学は視覚デザイン専攻だったのですが、既に広告代理店に就職が決まっていたので、卒業制作は自分の好きなアニメーションや音楽にかけてみました。 まずテーマを決める段階で、大学での制作はこれで最後だし、メッセージ性のあるものをやってみたいなと思っていて。とはいえ、「大きな夢」や「恋愛に生きようぜ!」みたいなことは、私には発信できないというか……。それほど自分は恋愛に生きてきたわけでもなかったし、”すごいアーティスト”じゃないと、そういうことって言っちゃいけないんじゃないかと思っていました。じゃあどんなメッセージだったら、自分が言っても怒られないだろうかと考えたときに、「健康」なら、まぁそんなに角が立たないであろう、と(笑)。そういうふうにしてテーマを決めたんです。

そこから、みんながよく知っている童話の『赤ずきん』の主人公が、実際にお腹の中ではどんな体験をしたのか!? みたいな話にしたらおもしろいなぁと考えて、制作を始めていきました。

▼『赤ずきんと健康』は、その独特の世界観がネット上で大きな話題を呼びました。

ファンからの反応が作品づくりにも生かされるように

――会社を辞めてから映像クリエイターとして活動する中で、ファンからの反応は身近に感じるようになりましたか?

そうですね。2015年の4月に『びじゅチューン!』のDVD BOOKが発売されたのですが、初版限定の特典として、期間内に往復はがきに感想やメッセージを書いて送ってくれた方には、私が直筆のイラストやサインを描いて応募者全員に返信するというキャンペーンを行ったんです。最初は応募がきても500枚くらい……多くて1,000枚いくかだな~なんて、みんなで予想して話していたんです。でも、ふたを開けてみれば、4,900枚くらい応募がきたんですよ。それはもう嬉しかったんですけど、他の仕事も並行してやりながらだと、返信にすごく時間がかかってしまいまして……。実はDVDの発売から一年半以上も経っているのに、まだ返信しきれてないものがあるんです。これほどまでの応募がくるとは思っていなかったので、すごく嬉しいんですけど、同時にすごく大変です(笑)。

※2016年12月24日、初版限定のはがきを無事書き上げたことを本人Twitterアカウントで報告。

びじゅチューン! DVD BOOK

でも、会社員時代には、自分の作品の感想がはがきで送られてくることなんて、まずなかったですし、しかもいろんな年齢層の方からいただけるんですね。けっこう絵を描くのが好きな人も多くて、はがきにびっしりイラストが描いてあったりもして。そういう作品をみるのは、とてもいい刺激にもなるし、しかもそれが5,000枚近くもあり。私はまさに、こういうリアルな反応が欲しかったんだなと改めて思いました。

――井上さんの作品が、幅広い層に愛されていることがうかがえますね。そうしたコメントや、ファンレターの内容はどのようなものでしょうか?

子どもと一緒に『びじゅチューン!』を見てくれている親御さんからは、「子どもをどうにかして美術に触れさせたいなと思っていたのですが、『美術館に連れて行って、子どもが泣き出したりしたらどうしよう』と躊躇していました。ですが子どもが『びじゅチューン!』を見て、自分から美術館に行きたい!と言ってくれるようになりました。ありがとうございます」というような反応が一番多いですね。同じくらい、「美術って敷居の高いものだと思っていたんですが、『びじゅチューン!』を見て、『あっ、こういう解釈とかもありなのか、じゃあ見に行ってみようかな』と思いました」っていう感想も多くて。まさにそういうことこそが『びじゅチューン!』を通して伝えたいことだったので、それをわかってくれる方たちが大勢いることを嬉しく思っています。

子どもたちからは「先週見た『びじゅチューン!』のこの部分がおもしろかったです!」という感想が事細かに書いてあることがあるんですが、「あ、そういうのが好きなのか」って思ったら、次もやっちゃいますね。あとは、子どもって、前の放送で出てきた、自分のお気に入りのキャラクターを見つけるのがすごく好きみたいで。ファンレターの感想でそのことを知ってからは、毎回「前に出したキャラを出せないかな~」と考えるようになったりもしました。

――ファンからの反応が作品作りにも生かされているのですね。ところで、井上さんは「子ども向けに作品を作るのは嫌だ」とおっしゃっていたそうですが、そこにはどんな思いが?

「子ども向けに作りたくない」というのは、私が子どものころに、「いかにも善良な子ども向け」として作られた「みんなで一緒に遊ぼうよ」みたいなノリとか、ひらがなばっかりのアニメとか、そういうのが嫌だったんですよね。私自身、「別にそんな子どもじゃないし!」って思うような、ひねくれた子どもだったのですが、実際そういう子って多いと思うんです。

最近、ワークショップなどで小学生たちと接する機会も増えているんですが、子どもってやっぱり鋭いし、いくら大人が取り繕ったとしても、その嘘を見抜いているような気がするんですよね。だからある意味、子ども自体を”大人”として捉えてるというか、”ひとりの人”として捉えて作品を作るようにしています。

たまに、「これって子ども向けなのか?」という意見をTwitterなどで目にします。でも、漢字にふりがなをふっていたら読めるし、わからなかった言葉は自分で調べられるだろう、という前提もあって、いわゆる”子ども向け”を目指すのはやめようと思い作品を作っています。もちろん子どもにはまだ知らない方がいいこともあるし、そのあたりは臨機応変でいいと思うんですけれど、「楽しい」とか「おもしろい」というのは、きっと年齢にかかわらず、ある程度共通のものがあると思うので、そこを目指そうと思っています。

――なるほど。そういった思いも『びじゅチューン!』の作品には込められていたのですね。それでは、最後の質問です! 井上さんは今の活動を通して、ご自身の夢が叶ったと感じていますか? また、今後の目標について教えてください。

会社員時代と比べると、「反応が欲しい」という私の夢は、もう100パーセント叶っていると思います。はがきだけではなく、SNSなどを通じて色々なメッセージをいただけていますからね。それから、僕はJ-popミュージシャンがCDを出すような感じで、コンスタントに自分の作品を世に出していきたいなと思っていたんです。つまり大物歌手みたいに、何年かに一度、すごいアルバムを出すとかではなくて、一ヶ月、二ヶ月おきぐらいにシングルが一枚ポンって、「あっ、また出たんだ」みたいなノリやスピード感で活動できたらいいなと思っていたんです。それもまた、番組という形が与えられることによって、叶えられているんです。

もし、次に何かやりたいことをあげるとすれば、みなさんに美術をもっと身近に感じて欲しいです。もっといろんな人に自分の作品を楽しんでもらえるように、展覧会ができたらいいなというのが、今の願望であり目標ですね。

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井上さんの作品に込められた思いを、たくさん語っていただきました。魅力的な作品を作り続ける、井上さんの今後の活躍にも期待していきましょう!

 

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※井上涼さんにLGBTについて伺いました! by KIDSTONEマガジン

びじゅチューン!

世界の「びじゅつ」をユニークな歌とアニメ(by井上涼)で表現。作品の魅力をあなたのハートに強烈インプット!
NHK Eテレで毎週日曜17:55~18:00放送

公式ページ:http://www.nhk.or.jp/bijutsu/bijutune/

びじゅチューン! DVD BOOK

<内容>
【DVD】・・・全80分
・全16作品のうた、かいせつ、カラオケ
・特典映像2種

1. 委員長はヴィーナス/2. 風神雷神図屏風デート/3. 樹花鳥獣図屏風事件/4. お局のモナ・リザさん/5. 見返りすぎてほぼドリル/6. LOVEタージ・マハル先輩/7. オフィーリア、まだまだ/8. 住んでます八橋蒔絵硯箱/9. ムンクの叫びラーメン/10. 鳥獣戯画ジム/11. レーサーはゴーギャン/12. ツタンカーmail/13. その天女、柄マニアにつき/14. ザパーンドプーンLOVE/15. ルソー5/16. 転校しないで五絃琵琶/特典映像1. おどってみよう!「ルソー5」/特典映像2. ご存じ?びじゅチューン!

【BOOK】・・・全80ページ
プロデューサーのことば/歌詞/題材にした美術作品とその解説(作者、制作年、所蔵美術館ほか)/構想スケッチ(美術作品から井上涼が読み取ったこと、発想したこと)/各作品のポイント解説/Making of びじゅチューン!/(1)歌詞のつくりかた (2)音楽のつくりかた (3)アニメーションのつくりかた/おどってみよう!「ルソー5」ふりつけガイド/井上涼のことば/作品が収蔵されている〈美術館・寺院・博物館〉ガイド 美術作品を観に行こう!

※初版限定特典は、終了しました

びじゅチューン! DVD BOOK2

<内容>
【DVD】・・・約76分
・全16作品のうた(コーラス・バージョン)、解説、カラオケ
・特典映像1種

1. アイネクライネ唐獅子ムジーク/2. ナスカの地上絵、微生物/3. 貴婦人でごめユニコーン/4. 兵馬俑ウエディング/5. 保健室に太陽の塔/6. ランチは地獄の門の奥に/7. 紅白梅図屏風グラフ/8. 真珠の耳飾りのくノ一/9. 縄文土器先生/10. 火消しが来りて笛を吹く/11. 祖母のコロッセオハット/12. 崖のぼり、のちキス/13. ベーカリー空也/14. 便利だわブロードウェイ・ブギウギ/15. ラス・メニーナス、開演前/16. 姫路城と初デート/特典映像 おどってみよう! 「縄文土器先生」

【BOOK】・・・全80ページ
プロデューサーのことば/井上涼、描きおろしイラスト/歌詞/題材にした美術作品とその解説(作者、制作年、所蔵美術館ほか)/構想スケッチ(美術作品から井上涼が読み取ったこと、発想したこと)/各作品のポイント解説/Making of びじゅチューン!/(1)音楽とコーラスの聴きどころ/(2)解説パートのつくりかた/(3)こだわりの小道具、大集合!/おどってみよう! 「縄文土器先生」ふりつけガイド/井上涼のことば/作品が収蔵されている〈美術館寺院博物館〉ガイド 美術作品を観に行こう!

 

企画・制作:NHKエデュケーショナル
発売元:小学館

文・編集部 撮影・泉三郎