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『ほどなく、お別れです』大切な人を残して逝く悲しみ、おいていかれる悲しみが救われる物語―。

書影(版元ドットコムより)

書影(版元ドットコムより)

もう、まもなく“本当のお別れ”だと焦燥感に駆られるタイトル。第19回小学館文庫小説賞を受賞した長月天音さんの話題作。

『ほどなく、お別れです』

読み始める前は年齢層が高めの小説だと思っていましたが、出版が小学館というだけあってライトノベルのように読みやすいものとなっています。子どもでも十分生と死について理解できる内容ですが、私は大切な人が亡くなってしまった方、大切な人をおいていかないといけないと覚悟している方、そんな方に読んでもらいたい内容だと感じました。

『ほどなく、お別れです』あらすじ

主人公は葬儀場「坂東会館」でアルバイトをしている大学生・美空、そして訳ありの葬儀ばかり担当する葬祭ディレクター・漆原です。霊感があり霊の気配を感じることができるけれど、その気持ちや何をしてほしいのかが分からない美空と、霊は見られないけれど、鋭い洞察力で霊と遺族の感情を察知し、悲しみを和らげたいと考えている漆原が、葬儀屋を訪れる遺族やご遺体の霊と関わっていく物語となっています。

フォーカスは死者と生者の“悲しみ”

このお話でフォーカスが当てられているのは“悲しみ”。大切な人の死を受け入れられない遺族の悲しみ、大切な人を残して去っていく死者の悲しみと思いが綴られています。

不慮の事故で亡くなった妊婦と、受け入れられないご主人

旦那に思いを伝えるために自分の葬儀に現れた、不慮の事故で亡くなった妊婦。

『この大きなバッグにおむつを入れて、運ぶことにしたのです。ふたりでギュウギュウ詰めたんですよ。そんなに詰めたら出す時に大変だよ、破れちゃうよ、なんて笑いながらね。あれからまだ一週間も経っていないのに。それがどうして……』

病気で亡くなった少女と母親

我が子が亡くなった悲しみで現実を受け入れられない母親と、死んだことが理解できていない子ども。

『母親は、棺にべったりと寄り添ったままだったよ。ドライアイスで冷え切ってしまっているのに、手をさすり、頬を撫で、髪を梳き……』

夫に先立たれ、なぜか薬指をなくしたまま亡くなった女性

娘の輝くばかりのウェディングドレス姿を遺影にしてほしいと頼んできた父、焦燥感と怒りを表している娘の霊。

『でも、奈緒さんは、ご主人と会えたじゃないですか』
『やっとね。これからはずっと一緒にいられる』

祖母の手を離した少女と長年苦しんだ祖母

近々誕生する妹にお花を摘んであげたくて、祖母の手を離した少女と、長い間苦しんできた祖母。

『私が、おばあちゃんの手を振りほどいたの』
『おばあちゃんは悪くないの』

『ほどなく、お別れです』の感想

私は妊娠初期と後期での流産の経験がありますが、常々「お腹から出てこられなかったけれど心臓が動いていたあの子の魂はどうなったのだろう」「目も見えず言葉も分からず、神様のお迎えが来ても何も分からないのではないか」と考えていました。もしも「ほどなく、お別れです」の登場人物が実際に葬儀場で働いていて、もしも赤ちゃんの気持ちを伝えてくれたら……死の悲しさを完全に乗り越えるまでにはいかなくても、絶望の中に一筋の希望が持てたのではないかと考えました。

寿命で死ぬ方が多い中、突然の別れを経験しないといけないことは、遺族にとっても亡くなった本人にとっても、無念の思いでしょう。悲しさの中にもその無念を乗り越える力を持たせてくれる、そんな物語でした。

文・物江窓香

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