life

「育児中の美容部員も土日勤務を」資生堂ショックの真意とは?

記事提供:messy|メッシー

資生堂グループHPより
資生堂グループHPより

「資生堂ショック」という言葉が再びフォーカスされています。この言葉は、もともとは大手化粧品メーカーである資生堂が、他の企業に率先して行ってきた育児支援制度の方針を転換したことのインパクトを示すものでした。

資生堂は、今から25年前の1990年には育児休業制度(子どもが満3歳になるまで、通年5年まで取得可)を実施し、その後も様々な制度を導入してきました。

事業所内保育施設を開設・運営したり、男性社員が育児休暇を取得できるように2週間以内の育児休業を有給化したり、あるいは店頭に立ち化粧品を販売している「美容部員」の育児時間を確保できるよう、短時間勤務制度を導入するなど、20年の間、充実の一途を辿ってきた資生堂。

特に時短勤務については約1100人ほどの美容部員がこの制度を利用しています。また美容部員が育休を取れるように、代わりとなる派遣社員(カンガルースタッフ)として、1647人と契約を結んでいます(2014年度時点)。

しかし今年4月に、この時短勤務制度の方針が転換され、時短勤務をとっている美容部員にも、遅番や土日勤務を促すようになりました。

他の企業に先駆けて育児支援制度を充実させてきた資生堂だからこそ、このショックは大きかった。そして今月9日に「NHKニュース おはよう日本」で改めて「資生堂ショック」が取り上げられたことで、いま話題となっているわけです。

産休・育休は甘え?

番組の中では、この方針転換の理由として、資生堂が2006年から2014年の間に、国内売り上げを約1000億円も下げてしまっていることが報道されていました。経営陣は「美容部員がかきいれどきの時間帯に店頭にたっていない」ことが一因となっていると考えてるようです。

また社内から不満の声があがっていたことも指摘されていました。

働く女性が妊娠・出産した際に、嫌がらせや退職勧告などを行われてしまう「マタニティ・ハラスメント(マタハラ)」は、次第に周知され、問題が可視化されつつあります。その中で、マタハラが発生する要因として「ある社員が産休・育休をとることで、仕事を押し付けられていると感じる社員の不満」があることも知られています。資生堂でも同様の声が上がっていたようで、子育てをしていない美容部員から「不公平」という声があったと、番組の中で取り上げられていました。

さらに社員に渡されたあるDVDの中には、執行役員が「(充実した制度が当たり前のものとなったことで)甘えがでてきたり、権利だけを主張する美容部員がいる」と発言していたことも紹介されていました。

資生堂の思惑がわからない

今回の改革にあたっては「家族の協力が得られないかの聞き取り」や「協力者がいない場合のベビーシッターの補助」「地域の子育てサービス活用のアドバイス」などもしています。

企業ですから、基本的には利益を重視して運営を行います。その中で社員の働きやすさを考慮していくことになるでしょう。

業績悪化の一因が時短勤務によるものなのだとして、制度をまるまるなくすのではなく、「聞き取りの上でのシフト調整」「ベビーシッターの補助といった選択肢の提示」などは、資生堂のできる最大限の考慮だったのかもしれません。

人事部ビジネスパートナー室の本多由紀室長が「育児期の社員は常に支えられる側で、本人たちのキャリアアップも図れない。なんとか会社を支える側に回ってもらいたいという強い思いがあった。働くことに対する意識、ここに対してメスを入れていこう」「育児時間(短時間勤務)を取っている人は悪い評価でも文句を言えないから我慢してもらおうではなく、ちゃんとそこは客観的に評価をしていく。厳しい部分はあったかもしれないが、会社も社員もどちらも成長していく、意義のある大事な取り組み」と発言するように、会社として社員の育児出産に協力する一方で、社員としても他の社員と同様に戦力になってもらいたい、と要求するのは自然でしょう。

一方で、執行役員の「甘えがでている」「権利だけ主張する」という発言が気にかかります。「育休中の美容部員は楽をしているんだ」という思い込みが、割を食っていると感じやすい同僚だけではなく、経営陣の中にもあるのだとしたら、制度を整える側の意識としては問題なのではないかとも感じます。

資生堂の改革は前進か、それとも後退か

資生堂は人事関連データを公表しているので関連するデータをいくつか羅列してみましょう。すべて2014年度のデータで、カッコ内は前年度のデータとなります。また断りがない限り、国内資生堂グループ全体のデータです(国内資生堂グループの総社員数は2万3,870人)。

資生堂販売株式会社(美容職)の、結婚・出産・育児理由とした離職率
1.00%(0.80%)

育児休業
1,421人(1,507) 男性9人 女性1,412人

育児時間取得
1,882人(1,829) 男性7人 女性1,875人

短時間勤務制度利用者
1,898人(1843) 男性6人 女性1,892人

産休・育休後の復帰率(資生堂販売株式会社)
97.4%(96.9%)

産休・育休後の定着率(資生堂販売株式会社)
89.8%(94.4%)

このデータを見る限りでは、出産・育児をする社員にとって非常に居心地のいい職場であることがわかります。なんせ結婚・出産・育児理由とした離職率がたったの1%なわけで99%が職場に復帰できているわけですから。

来年度のデータがどのように表れるかにもよりますが、この数値を同程度の水準にキープしたままでいられたとしたら、資生堂の「時短勤務の美容部員がキャリアをアップできるように」という制度改革の意図は、建前ではなく本当のことと言えるのかもしれません。そうなれば、資生堂の育児支援制度は後退したのではなく、むしろ前進したと捉えることもできるでしょう。つまり制度が充実し、利用も可能になり、「当たり前」になったからこそ、次のステップに進むことが出来た、と。これは今後の動きに注目することで見えてくるものだと思います。

一方で、業績悪化による制度改革なのであれば、なぜ育児支援制度がその煽りを受けなくてはいけないのか、「一番切りやすいところ」という意識があるのではないかとも思えてしまう。あるいは、女性が働き続けることに理解のある資生堂ですらそうせざるを得ない社会構造があるということでもあるでしょう。その場合、資生堂という単一の企業はなく、より大きな、国による支援の充実が必要だということがはっきり見えてくるのだと思います。
(門田ゲッツ)

コラム出典:「育児中の美容部員も土日勤務を」資生堂ショックの真意とは?
(by messy|メッシー)