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子どもは遊びを通して“楽習”するー内田伸子教授インタビュー後半

前半では、子どもの学力差は、家庭でのしつけのスタイルが関係しているのではないかというお話を内田伸子教授にお伺いしました。では、子どもの主体性を大切にする「共有型しつけ」と、親のいうことを聞かせる「強制型しつけ」とは、具体的にどのようなことをいうのでしょうか。後半では「きつねのおきゃくさま」の絵本の読み聞かせを例に、親子の間でどのような会話が行われるのか解説いただきました。

絵本の読み聞かせにみる「共有型しつけ」と「強制型しつけ」の違い

「きつねのおきゃくさま」という絵本をご存知でしょうか。おなかのすいたきつねが、まるまる太らせて食べるつもりで育てていた ひよこ と あひる と うさぎ に「神様みたいにやさしいお兄ちゃん」と慕われ、だんだんと3匹を大切に育てるようになります。そして、最後にはオオカミに食べられそうになった3匹を守るため、きつねは勇敢にたたかい、死んでしまうお話です。
この絵本を、典型的な「共有型しつけ」30組と「強制型しつけ」30組の母親と子どもを対象に各家庭で読み聞かせを行ってもらい、その様子を観察しました。
絵本の最後のページはこうです。「まるまるふとった ひよこ と あひる と うさぎ は、虹の森に小さいお墓を作った。そして世界一やさしい、親切な、神様みたいな、そのうえ勇敢なきつねのために、涙をながしたとさ。とっぴんぱらりんのぷう」

「共有型しつけ」をしている母親は、子どもがどういう反応をするかと思って、子どもの顔を心配そうに見ているのです。すると子どものほうから「きつねさん、死んじゃったの? どうして死んじゃったの? あんなに親切なのにかわいそう」というのです。そうすると初めて母親も口を開いて「そうね。かわいそうね。どうして死んじゃったのかしらね」。決して余分なことはいいません。共感的に子どもをサポートするのです。
それに対して「強制型しつけ」をする母親の典型例は、「とっぴんぱらりんのぷう」という最後の一文を読み終わると、そこでパタンと本を閉じてしまいます。「はい。今のお話はどういうお話だった? いってごらん」。子どもがなにか応えます。「え!? ママはそんなふうに読んでない。このページ、もう一度読んでごらん」といい、子どもが読み上げると、「ね! 違うでしょ。ママのいうことをちゃんと聞いてないんだもの。お話のこと、テストに出るわよ!」という感じなのです。

子どもの自主性を養う「3つのH」

「共有型子育て」を行う親は、子どもに対して「3つのH(ほめる、はげます、ひろげる<視野を広げる>)」言葉がけが多く見られました。子どもはとてものびのびと絵本の世界を楽しみ、語彙を広げていく様子がうかがえました。
これに対して「強制型しつけ」の親は、「○○はできた? いつになったらできるの!?」「ほら、ママのいった通りでしょ」「ママのいうとおりにしないから失敗するのよ」という禁止や命令、勝ち負けの言葉を多用していました。逆に、さきほどの「3つのH」の言葉は一言もありません。「強制型子育て」を受けた子どもは、自尊心が低く、常に親の顔色を伺い、指示を待ち行動する癖がついているようでした。子どもは「自分が話したいこと」よりも、「親が自分に期待する言葉」を敏感に感じ取り、それを自らの言葉として話すのです。そのため自ら学んだり探究する意欲がわかず、語彙力は伸びないのです。

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“楽習”したことは記憶として定着しやすい

「好きこそものの上手なれ」という言葉があるように、子どもは楽しいこと、好きなことは自分から進んで何度もやりたがります。子どもにとっての遊びとは、自発的な活動であり、頭がイキイキと活動している状態です。思いっきり遊ぶことで頭がうんと働いて、いろんな工夫や判断ができるようになるのです。遊びを通して学力基盤力、想像力をやしない “楽習”するのです。
事実、脳の扁桃体は、「おもしろい」「楽しい」ということを感じると、ワーキングメモリーに情報伝達物質が送られ、海馬を活性化し、情報を記憶貯蔵庫にどんどん蓄えることができます。好きなことは一生懸命勉強するわけです。そこで意欲や探究心が増してくるという、いい循環が起こるわけです。これが「共有型しつけ」を受けている子どもの脳の状態です。逆に、扁桃体で不快や緊張を感じると海馬で失敗例がよみかえり、ほかのことを考えられなくなります。冷や汗がでたり、頭が真っ白になります。頭が働かないので物が覚えられないのです。「強制型しつけ」を受けている子どもの脳は、まさにこの状態です。叱りつけて勉強させても記憶に残らないのです。

ここまで読んで「私、今まで強制型しつけをしていたわ」と気づいたお母さん。心配することはありません。今日から「共有型しつけ」に変えればいいのです。
子どもと一緒に笑ったり、泣いたり、子どもの好きなことに関心を持って調べたり、考えたり、遊んだりと、子どもと時間を共有することで、子どもは自ら学び育っていきます。子どもと一緒にいる時間は長いようで、あっというまです。今「やらなければいけないこと」を少しあとにして、一緒に絵本を読んだり、食事をしながら子どもの話に耳を傾け、子どもと過ごす時間を大切にしてください。このような時間を共有することで、子どもは自発的にぐんぐん成長していくのです。

 

【プロフィール】

内田伸子

十文字学園理事・十文字学園女子大学特任教授、筑波大学客員教授、お茶の水女子大学名誉教授、学術博士。専門は、発達心理学、認知心理学。長年にわたり「こどもちゃれんじ」の監修に携わり、しまじろうパペットの開発、商品検証を手掛ける。NHK、教育テレビのコメンテーター、子どもの絵本やビデオの監修などでも活躍。主な著書に、『子育てに「もう遅い」はありません』(冨山房インターナショナル)、『子どもの文章:書くこと考えること』(東京大学出版会)、『発達心理学:ことばの獲得と教育』(岩波書店)『幼児心理学への招待-子どもの世界づくり』(サイエンス社)ほか多数。

 

取材・文/間野 由利子