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「経済格差は子どもの学力に影響する」の本当の理由【 内田伸子教授インタビュー前半】

親の経済状況と子どもの学力には関係があるのでしょうか。

今回はNHK「おかあさんといっしょ」の番組開発に携わり、「こどもちゃれんじ」の監修も手がけられる内田伸子教授にお話を伺いました。

「経済格差は子どもの学力に影響する」は本当?

毎日の子育てに家事や仕事、本当にごくろうさまです。親にとって子どもの成長は、本当に嬉しく、子どもを頼もしく思うことも多いでしょう。反面、これだけ情報過多の現代では、育児に関してプレッシャーを感じることもあるかと思います。

親がプレッシャーを感じることの1つに、「子どもの教育」の問題があるのではないでしょうか。まずは、早期教育についてお話させていただきましょう。

2010年、文部科学省が「幼稚園卒の子どもは保育園卒の子供よりも成績が高い」という発表をしました。教育社会学者やマスコミは「保育園に行っている家庭よりも、幼稚園に通っている家庭のほうが、家庭の所得が高い層が多いからではないか」というのです。つまり、親の所得格差が子どもの学力に影響を与えるというのです。私は、この発表に疑問を持ち、日本をはじめ、韓国、モンゴル、ベトナムの3、4、5歳児を対象に、各国3,000名の子ども一人ずつに個人面接を行い、読み書き、語彙の調査をいたしました。そしてこの子たちが小学校に上がるまでを追跡しました。

その結果、経済格差よりも親子の関わり方が重要だということがわかってきました。親子の触れ合いを大切に、一緒に絵本を読んだり、工作遊びなどをして、楽しい時間を過ごしたいと思っている「共有型しつけ」の家庭では、子どもの読み書き、語彙得点がともに高くなりました。反対に「子どもをしつけるのは親の役目。悪いことをしたら罰を与えるのは当然だ」と考える「強制型しつけ」をしている家庭の子どもは、どちらも得点が低くなりました。

所得との関係でいえば、やはり所得が低い家庭だとどうしてもゆとりがなく、強制型しつけになりやすいのですが、所得が低くても「共有型しつけ」を行う家庭では、子どもの得点は他の家庭と同じく、どちらの得点も高くなりました。逆に、高所得層であっても、「強制型しつけ」を行う家庭では、どちらの得点も低くなりました。

遊びの時間が長い幼稚園や保育園は語彙得点が高い

幼稚園と保育園についていえば、子ども中心の保育で育っている子や、自由遊びの時間が長い幼稚園や保育園の子どもは、ともに語彙得点が高いということがわかりました。意外に思われるかもしれませんが、小学校の準備教育を行う幼稚園や私立の保育園よりも、子どもの主体的な遊びを中心にしている幼稚園や保育園のほうが語彙検査の成績が高く、言葉の発達もよかったのです。遊びを通して親や友達に伝えたい気持ちがたくさんあるからかもしれません。
逆に、「跳び箱が飛べるようになります」「漢字が書けるようになります」という幼稚園や保育園では、できるようになる子がいる半面、運動嫌いや勉強嫌いになる子が大勢いたのも見逃せない事実です。

さらにこの子どもたちが小学校に入学して1年後の調査をしたところ、幼児期に語彙が豊かだったり、自由保育で育った、共有型しつけを受けていた子どもたちは、小学校での学力テストの成績も高くなりました。これは韓国、モンゴル、ベトナムでもまったく同じ結果でした。

【引用】「日本の子どもの育ちに影を落とす 日本社会の経済格差」/ 公益財団法人日本学術協力財団 https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits/15/4/15_4_4_104/_pdf

【引用】「日本の子どもの育ちに影を落とす 日本社会の経済格差」/ 公益財団法人日本学術協力財団 https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits/15/4/15_4_4_104/_pdf

つまり、子どもの学力差に関係するのは、早くから文字の読み書きができるか、幼稚園か保育園かではなく、親のしつけスタイルや、幼稚園、保育園で自由にのびのびと育っているかどうかということが重要なのです。親の所得格差についていえば、これはほぼ平行移動するでしょう。それと同時にしつけスタイルも同じです。小さな頃からガミガミいうトップダウンのしつけをしていたら、親は小学生、中学生になってもガミガミ言い続けていることでしょう。その差が学力差につながってくるのではないかということです。

後半では、絵本の読み聞かせにみる「共有型しつけ」と「強制型しつけ」の違い、その時の子どもの頭の中はどうなっているのかについてお話していただきます。(インタビュー後半へ→

【プロフィール】内田伸子

十文字学園理事・十文字学園女子大学特任教授、筑波大学客員教授、お茶の水女子大学名誉教授、学術博士。専門は、発達心理学、認知心理学。長年にわたり「こどもちゃれんじ」の監修に携わり、しまじろうパペットの開発、商品検証を手掛ける。NHK、教育テレビのコメンテーター、子どもの絵本やビデオの監修などでも活躍。主な著書に、『子育てに「もう遅い」はありません』(冨山房インターナショナル)、『子どもの文章:書くこと考えること』(東京大学出版会)、『発達心理学:ことばの獲得と教育』(岩波書店)『幼児心理学への招待-子どもの世界づくり』(サイエンス社)ほか多数。

取材、文・間野由利子

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