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赤ちゃんを亡くした女性の悲しみにそっと寄り添う。“子宝カウンセラー”が書いた物語

結婚をしたら、自然に赤ちゃんができて“ママ”になれるのだと思っていた時期がありました。
実際に「赤ちゃんがほしい」と思う立場になるまでは、妊娠や出産が多くの奇跡の積み重ねによるものなんだということを知らなかったのです。
3歳になる娘がお腹にきてくれるまでに、悲しい出来事を経験したこともありました。

小さな命とのサヨナラを経験している人は、世間が思っているよりも、ずっと多くいる気がします。
人知れずその悲しみを乗り越えきた人、その悲しみと今も戦っている人……筆者のまわりにもたくさんいます。

癒しがたい悲しみをどう乗り越えるか……。その方法は一つではないし、どんな方法がベストかは人それぞれ。
共通しているのは、「忘れることのできない悲しみ」を背負ったのだということ。

そんな気持ちに寄り添いたいという思いから作られた絵本が、7月1日に出版されました。
タイトルは、『ちいさな天使のものがたり』(東洋館出版社)。

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絵本の主人公である「ちいさな天使」とは、生きて生まれることができなかった赤ちゃんのこと。
天使は雲の上から「お母さん」になってほしい女性を探し、長くは一緒にいられない運命を知りながらも、そのお母さんのお腹に降りていきます。お母さんと過ごす、楽しい、幸せな時間。だがやがて、神さまとの約束の時間がきて、天使は空に帰っていく……。そんなストーリーが描かれています。

母親の、赤ちゃんを亡くしたという悲しみはとても大きく深いもの。だけど、ほんの短い間でも、お腹の赤ちゃんと過ごした幸せな時間はかけがえのない宝物だったはず……。悲しみを受け入れながら、また、その記憶とともに希望をもって歩き出してほしい、というメッセージが込められています。

著者である川上誠治(かわかみせいじ)さんは、長崎にある薬局で“子宝カウンセラー”として不妊に悩む夫婦のサポートをしているそう。川上さんは、この物語を書いた理由を以下のように語っています。

『赤ちゃんを亡くすという、女性にとって究極の悲しみには、どんなに言葉を尽くしても、気持ちが届かないと思ったんです。だからこそ、この物語はみんなにとって必要な、天使からのメッセージなのかなと……』(東洋館出版社『ちいさな天使のものがたり』特設サイトより)

「どんなに言葉を尽くしても……」言われる立場、言う立場、どちらも経験したことがある人にはよくわかるのではないでしょうか。

『自分たちは専門家なので、カウンセラーとして「正しい答え」を言ってしまうと、聞き手としては言葉がきつすぎると思ったんですよ。「そんなことはわかってるよ」ということを言われると逆に辛いことってありますよね。
だから、ひとつの物語を通して、自分で発見して「気がついた」と思ってくれた方が楽なんじゃないかと思ったんです』

筆者自身も、赤ちゃんとのサヨナラを経験したとき、心配し、気遣ってくれるまわりの人たちの言葉や態度に理由もなく傷つくことがありました。
特別な言葉ではなかったはずなのに、その状況の中では、なんということのない、ほんの些細な言葉やちょっとした態度が、自分でも驚くほど心に食い込み、傷を作るのです。

そのつらさをどう乗り越えたのか……。今となってはもう、思い出すことはできません。
ですが、この本の存在を知り、悲しみの中にいる人を支え、寄り添えるものがあるんだと知り、多くの人に知ってもらいたいという気持ちになりました。

「本当の気持ちを出して泣いていいんだよ」

2016年12月に自費出版として刊行されたこの絵本は、口コミやSNSで評判が広まり、地方の新聞やテレビ番組で取り上げられことにより注文が殺到。そこで今回、東洋館出版社から改訂新版として全国発売されることになったのだそう。

悲しみを抱えているのに、無理をして笑っている人がいる。そんな人に、「本当の気持ちを出して泣いていいんだよ」と言ってあげたいのだと語る川上さん。
そして、同じ薬局で働く上司であり、この絵本の監修を務めた満行勝さんも、「出産や妊娠の現場には、もっと厳しい現実があって、例えば望まない妊娠や出産をした人だっているかもしれない。そんな人にはきつい本かもしれないけど、この本に慰められる人もいると信じたい」と話しています。

お二人の言葉からは、無理に読む人を元気づけたり、「正しい」心の持ちようを押し付けようとするのではなく、ただ静かに、悲しむ人に寄り添いたいのだという気持ちがあふれていました。このほかにも、『ちいさな天使のものがたり』の特設サイトには、お二人がこの絵本に込めた思いが丁寧に綴られています。

乗り越え方がわからない悲しみを抱えている人、忘れることのできない悲しみを経験した人……。心に空いてしまった穴が、この本との出会いで埋まるといいな、たくさん傷ついてきた心が、すぐにきれいに塞がるということはなくとも、少しずつ、少しずつ癒えていくきっかけになればいいなという思いから、この本をご紹介させていただきます。

文・鈴木じゅん子 編集・伊東杏奈

ちいさな天使のものがたり


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作:かわかみ せいじ
絵:としくら えみ
監修:満行 勝

出版社:株式会社東洋館出版社