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親子のカタチはひとつじゃない。母に愛されたい娘、娘を愛せない母の物語『カーネーション』

『カーネーション』

わが子を愛することができない母親なんているのだろうか。いや、そういうケースだってあるのかもしれない——。

ある雑誌で紹介されていた『カーネーション』という児童書が、母に愛されたいともがく女の子と、娘を愛したいと苦しむ母の物語だと知ったとき、筆者はそう感じました。

子どもをもつ前であれば「それは信じられないこと」と、一蹴していたかもしれません。
でも今は2人の息子をもつママになったことで、親子関係のすばらしさとともに、難しさも知りつつあります。世間的に「けしからん」と言われがちな「子を愛せない親」問題を、その一言で片づけることができなくなったように思います。

そんな気持ちが心のなかにあったからか、この児童書にも思わず手が伸びました。

愛されることに飢える娘・日和

日和(ひより)は、家はいちばん気をつかわなくてはならない場所だと感じている、中学1年生の女の子。

彼女には、母にやさしく手をつないでもらったり、抱っこしてもらったりした記憶がありません。

正しく箸を使えなければ、いつも母からは「みっともない」と責められ、悲しい気持ちにさせられる。
キャラクターのTシャツが欲しいとせがめば、「お母さん、そういうのはきらいよ」と言われ、手にもつTシャツがとてつもなく悪いもののように感じた。
保育園のころ、母が喜んでくれると思って拾ったどんぐりは、迎えにきた母の手によって園庭に放りなげられました。

母はめったに笑顔を見せない人でしたが、日和は自分のお母さんはもともとそういう性格なんだと思っていました。
ですがあるとき、その考えが間違いだったことを知ってしまいます。

『あたしはお母さんにきらわれている。』

日和がそうはっきり気づいたのは小学2年生のころ、妹が生まれたときでした。
母は日和が見たこともない笑顔で赤ちゃんを抱いていました。赤ちゃんをなでようとした日和に、母が放った言葉は「ばいきんがつく」。
キャラクターの服はきらいだったはずの母は、日和の妹・紅子(こうこ)がディズニープリンセスに夢中になれば、嬉々としてその服を買い与えました。
母が日和の髪をやさしくとかしたことはないのに、紅子には悪態をつかれても、甘い声でなだめながら髪をむすんであげます。

『ずっと、お母さんに好きになってほしかった。だからがんばったの。いつも、いつだってお母さんがどうしたらよろこんでくれるのか、どうしたらほめてくれるのか、どうしたらって。そんなことばっかり考えて。どうして紅子だけなの? どうしてあたしはダメなの?』

日和の心の叫びは、読む人の胸をきつく締めあげるようです。

愛することに飢える母・愛子

いっぽう、日和を産んだときから、日和と過ごす時間に息苦しさを感じていた母・愛子は、ずっとその苦しさにさいなまれてきました。
たとえば帰りが遅い愛子にかわって、日和が野菜炒めをつくったある日。煮えたぎるドロドロとした感情で愛子の心は覆いつくされます。「どうして勝手なことをするの」、「だれがそんなことたのんだの?」、「いいわけはやめなさい!」——ひどい言葉の数々を愛子はおさえておけません。
紅子はいとおしくて仕方がないのに、どうして日和は愛せないのか。自身の暗い過去にそのわけを見いだそうとする愛子ですが、それが救いになることはありません。

『もっとやさしいことばをかけたい。手をつなぎ、抱きしめてあげたい。(中略) そう思っているのに、日和の顔を見ると嫌悪してしまう。気がつけば、トゲのあることばを投げつけ、あの子の心を傷つけている』

率直に言って、はじめは愛子の娘に対する言葉や態度にはげしい違和感や腹立たしさを覚えた筆者。でも、愛子が「娘を愛せない」という地獄を生きていると思うと、どうにもできない現実にやるせなさを感じるしかなくなりました。

あるとき、日和は伯母(愛子の姉)から「ほんとうは、愛子は日和を大切にしたいと思っている」と聞きます。母との関係に光を見た日和は、愛子の誕生日であるクリスマスイブの日、はじめて愛子へのプレゼントを用意していました。しかし、ある出来事をきっかけに、はりつめていた日和の心の糸は切れ……。

日和の一家がえらんだ”家族のカタチ”に、ハッとさせられる結末

日和の一家にときに優しく寄りそい、ときに正面から向かいあうのは、複雑な家庭の事情をもち、日和と同じ塾にかよう桃吾(とうご)、日和と桃吾がかよう塾を営み、日和の両親とは学生時代からの友人でもある一喜(かずき)、そして日和の伯母・柚希(ゆずき)です。

そんな彼らに支えられながら、母から愛されることを手放した日和がえらんだ道とは?
それを受けて、それまで母娘の問題から目を背けてきた日和の父と愛子とが、考えぬいて出した家族のありかたとは……?

この本を1時間半ほどでいっきに読み終え、数日たった今も筆者の胸に残るのは、娘と母どちらもが抱える苦しみ、痛み。そして、間近で母娘を見つめてきた、日和の伯母・柚希がいだくこの想いです。

『母親が娘を愛せない。
それを理解することはできない。だけど、家族が家族というだけで無条件に相手を愛し、理解しあえるものだとおしつけるのも、ちがうと思う。家族とは、親子とはこうあるべきだという思いこみが、家族をしばり、苦しめていることだってあるのではないだろうか』

苦しみの果てに「かくあるべし」という呪縛からぬけだした日和の一家が見いだした”家族のカタチ”は、筆者には新鮮に目にうつりました。
児童書として出版された本書ですが、あつかうテーマが複雑な親子関係なだけに、家庭の中で悩み苦しむ大人たちにも読んでもらいたい本です。

タイトルとなっているカーネーションは母の日に欠かせない贈り物で、深い愛情をイメージさせますが、花言葉は色によって異なるようです。赤は「母への愛」、ピンクは「感謝の心」、白は「純粋な愛」、そして、黄色は「軽蔑・嫉妬」
物語全体をとおして複雑に揺れ動く日和の心を表しているかのように、筆者には感じられました。

絵本『よるくま』などで知られる酒井駒子さんが描く表紙の絵が、物語の余韻をさらにひろげるのでした。

文・福本福子

いとうみく『カーネーション』


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作:いとうみく
画:酒井駒子
発売日:2017年5月15日(月)
出版社:くもん出版