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「親と離れてかわいそう」初めて保育園へ子どもを預けた日

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2015年6月のある日の午前中、たくさんの車が行きかう大通り。はち切れそうな大きなお腹を抱えた私は、泣きながら歩いていました。

初めて娘を1人で保育園へ預け自宅へ帰る、その帰り道でした。

片時も離れず2年半を過ごした日々。可愛くてしかたない娘。

娘は人見知りが激しいうえに自己表現が苦手。下ろした拳をぎゅっと握り前をじっと見据える、緊張した時のいつもの癖が出ているだろう。慣れない場所で集団生活に慣れた猛者たちに囲まれて、しかも母がいないという過酷な環境にどんなに耐えているだろうか。

慣らし保育のため前日までは一緒に短時間の登園、この日は初めての母子分離。

「お母さん、行くからな。今からアンタはお母さんと離れて、今日はお友達と先生と遊ぶんやからな」

昼には迎えに来るから、と諭したものの私と離れた経験がない娘にコトの事態は飲み込めているのかいないのか。保育園をあとにしようと帰り支度をしてから娘の両手をぎゅっと握る私に、小首をかしげてわずかな笑顔を返す娘。

「お母さん、ホンマに行くで。でも、給食を食べ終わるころにはちゃんと迎えに来るから、大丈夫やで、待っててな、待っててな。」

後ろを何度も振り返り娘に手を振るものの、娘は私を追いかける様子も見せずにひらひら右手を振り、相変わらず少しだけ笑って、バイバイと私が見えなくなるまで手を振ってお別れしてくれたのでした。

私のお腹には、出産予定日までひと月半を切った小さな命がいました。娘にとってはこの先何十年にも渡って関わることになるであろう弟が、もうすぐ産まれようとしていたのです。

見知らぬ地に引っ越して数年。愛しい娘に恵まれ少しずつ馴染み始めたこの地で、待ち望んで止まなかった第二子も妊娠しました。

ですが周りに頼れる人もなく夫は仕事で連日深夜帰宅。家庭の事情で里帰りも不可能。2歳児と新生児相手のワンオペ育児はできるのか?

生きるか死ぬかでいえば、やってやれないことではないでしょうが……上の子が新生児の頃の私は、正常な判断ができないほど不安定でした。何時間も泣き止まない娘を最終的には放置しながら仕事中の夫に電話し、

「なあなあ、赤ちゃんの泣き止ませって、ホンマに必要なん? いらんと思うねん。いや、いらんよなあ、やっぱ」

と発言して夫に絶句されてもなお、自分の問題発言の意味が分からなかったのでした。

あの時と同じ状況、いえそれ以上の精神状態になれば「愛する娘と産まれたばかりの息子に、常識では思いつかないような仕打ちをしてしまうかもしれない」と判断した私たち夫婦は悩み相談した結果、

「産前産後は娘を保育園で見てもらおう」

と決めたのです。

その後無事保育園への入園が許可され、大人の脚で徒歩10分、妊婦と2歳児の脚では徒歩40分かかる道のりを通うことに。最初は親子一緒で1時間。次はお散歩の時間まで、給食の時間までと慣らし、娘が他の園児に興味を示し出したころ、娘と私の初めての分離が決まりました。

娘を保育園へ置いてぼんやりと家路へ向かう私。いつも私の手を掴んでいた温もりがないことに慣れずに、私の手は何度も空をさまようのです。

「見て見て、消防車が通ったよ!」
言いかけて隣に娘が本当にいないことに気がつき、涙があふれて止まらなくなりました。

まだまだ親と一緒にいたい時期なのに。娘は下の子なんて望んでいないのかもしれないのに。親の都合で勝手に保育園へ預けられた。

どんなに寂しい思いで、私の不在を耐えているだろう。

数時間後、家に着いてからもやり場のない喪失感に押し潰されそうになり、「給食を食べ終わるころに迎えに来てくださいね」と言われた保育士さんの言葉を無視して、給食真っ最中であろう時間に娘を迎えに行くことにしたのです。

きっと娘は、寂しくて給食など喉を通らないだろう。家に帰って、私が作ってあげたら食べられるかもしれない。

数週間後に臨月を迎える大きなお腹を抱えながら、小走りで保育園へ向かいました。お腹の息子はびっくりしているかもしれない。ゴメン、でもお母さん、今すぐお姉ちゃんに会いたいねん。

真夏の正午前、わき目も振らずに走り汗だくになった私は、園の鍵を開けるのももどかしく、真っすぐに娘の元へ向かいました。

「お母さん、迎えに来たよ! 寂しい思いさせてごめんね!」

息を切らして勢いよく保育室の扉を開けた私。ところがその刹那、我が目を疑う光景を目にしたのです。

勢いよくスプーンを振るい給食を食べる娘、しかも満面の笑みで周りをきょろきょろ眺めながら。

……。

あれ、寂しくて食べられないはずでは……。

しばらくして呆然とドアに立ち尽くす私を発見した娘が言いました。

娘「おたーしゃーーん! くーしょく、たべてゆのーー!」(お母さん、給食食べてるの)
私「お、おう……、給食美味しいの……?」
娘「おいしいの! いっしょに、たべゆーー?」

親の心、子知らず。いえ、子の心、親知らず。

娘はちゃんと保育園に馴染んでいました。それどころか周りのお友達にも興味津々で泣くことは一切なく、私がいなくともとても楽しそうに遊んでいたようです。

「時々、不安そうにしていることはありましたけどね」
娘が予想外に母を求めておらずショックを受けている私に、保育士さんがあわてて付け加えてくださいましたが。

「親と離れてかわいそう」だなんて、勝手な思い込みだったのです。娘は私と過ごすだけでは得られない、お友達との出会いや集団行動をしっかり楽しんでいたのです。

保育士さんたちのきめ細やかな心配り、娘と園の相性、いろんなことが重なっていろんな人に助けられたおかげで娘の保育園デビューは楽しいものになったのだと思います。でも親が思うよりはずっと、子どもは自立しているものなのかもしれません。

その後すっかり保育園が気に入って休みの日にまで行こうとする娘に、

「(産前産後での保育期間が終わる)9月になったら、みんなとバイバイね」

と言い出すことができないまま、私は仕事を探しました。すると社長が大の子ども好きで「赤ちゃん連れOK」という、まず出あえない職場に出あい、娘は保育園へ継続して通えることが決まりました。

産まれた息子は生後2か月から私と職場に一緒に出勤していますが、生後1週間から毎日娘の送り迎えで保育園に慣れ親しんでいるせいか保育園に興味津々で、1歳8か月の今、娘を送って職場へ行こうとしても

「何でワシだけ行かなあかんのじゃーー! ワシも保育園で遊びたいんじゃーー!」

と床で反り返って出社拒否をいたします。

私の勤める小さな職場では1歳8か月ともなると手狭なようで、備品や商品が壊されることが徐々に増えました。そろそろ限界かと思い保育園へ預けることも検討し始めていますが、娘のときのような「預けられて可哀そう」などという無用な心配はありません。

1分1秒でも長く一緒にいる恋人同士の愛情が深いかといえばそうではないのと似ていて、短い時間でもたっぷりと愛情を示すことのほうが大事だと実感するようになったからです。

離乳食やトイレトレーニングにイヤイヤ期、まるごと子育てをママ一人で体感することもステキですが、何より子どもに対するママの一番大切な仕事は、「子どもにママの愛情を感じてもらうこと」だと思うのです。

どうしても子育ての面倒な部分をママ一人で抱え込まないと「アカンママ」と認定したい方も世の中にはいますが。いわゆる面倒な部分は、保育園や自分以外の人と協力してやればええやん。ママ以外の人から愛情を受けられる自信を、子どもに持ってもらうのも大事なことと違うん?と、思いがけず保育園ママになった私は思うのです。

待機児童が問題になる昨今、保育を必要とする子どもが増えると困る人たち(国や自治体関連の方々)はいますが、希望する家庭には当たり前のように提供される世の中に一刻も早くなって欲しいものです。

文・桃山順子

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